そうだ、部活動を作ろう
「部活を作りませんか?」
放課後、俺と雨のもとにやってきた、神崎玲奈。
「部活? 拒否する」
全く意図が読み取れない。なぜ部活なんかを作らなければならないのだろうか。俺には放課後を悠々自適に過ごすという大使があるのだ。
「涼也、話くらいは聞いてもいいんじゃないんだろうか……?」
なぜかは分からないが、嫌な予感がする。あまり関わりたくはない。
「ちょっと……いいですか?」
「なんだよ?」
神崎に手招きされ、雨を置いて廊下に出る。雨ははてなマークを頭の上に浮かべているようだった。
「なんで拒否しちゃってるんですか!? 部活作りましょうよ! お二人共、部活には入っていないと聞きましたよ!?」
神崎は前のめりになっている。そこまでして部活を作りたいのだろうか。
「だから嫌って言ってんだろ。だいたい、なんで俺と雨なんだよ。お前、学校じゃ人気者だろ? 部活なんてすぐ作れるだろ」
俺だって暇じゃないし、部活動に入っていないという訳では無い。帰宅部という最高の部活に入っているのだ。
「あなた達にしか頼めないから言ってるんです! ほら、例のアレですよ、アレ」
「ああ……あれね……」
つまり、こいつは中二病を発散する場所が欲しいということなのだろう。
「もう、バラしてしまえばいいじゃねぇか」
「嫌ですよ! もう、冷たい目で見られるのは懲り懲りなんです!」
プルプルと震える神崎。一体過去に何があったのやら……
「それなら、中二病を卒業したらいいじゃないか……」
「そういう問題ではないのです! 今までは発散しようとしても1人でしかできなくて大変だったんです。こんな、チャンス逃す訳には行かないじゃないですか!!」
「あ、はい……」
なんか、すごい可哀想に思えてきたぞ……
「というかよ、お前。部活を作るのはいいけど、メンバーが俺を除くとお前と雨だろ? 絶対入部希望者が出てくると思うんだが?」
そう、俺はともかく、2人は学校の人気者である。そんなふたりが同じ部活にいては、入部希望者があとを立たなくなってしまうだろう。
「あ、そういえば……どどど、どうしましょう!?」
なんていうか、うん。この子、すごく残念だ。
「諦めろ」
「嫌です!! せっかく、仲間以上のものを手に入れたんです。これが諦めきれますか! それに……」
「それに?」
「私は一時の流れで嘘をついてしまいました。私が転生者で、元・雨さんの愛おしい人であったと……今更、違うなんて言えないですから……」
言っていることは分からなくはない。だが――
「踏ん切りつかなくなってるだけだろ、お前」
「あははぁ、バレちゃいました?」
開き直りやがりました。てへっ、と舌を出す神崎の姿は、正直可愛かった。
「勝手にしろ。俺は知らん」
「そんな!! 言ってくれたじゃないですか! 俺がお前の助けになるって!!!」
「言ってねぇよ!!?」
そんな記憶、どこにもない。勝手に記憶を捏造して欲しくないものだ。
「うぅ……涼也さん、意地悪です……」
神崎は涙目で俺を見る。
「悪かったな、こんな人間だよ。俺は」
「分かりました。でしたら、涼也さん意地悪された(遊ばれた)という噂を流します」
んん……? なんか、おかしくないか……?
「ちょっと待て、そんな事されたら俺が死ぬ」
おそらく、俺の学校でのスローライフが神崎ファンによって跡形もなく消されるだろう。
「それが嫌なら手伝ってください」
語尾にはハートでも付きそうだ。
「この悪女が……」
「皆の為なら私は悪女にでも悪魔にでもなりましょう」
聖女のような言い分。しかして、その実態は――
「いや、私利私欲だろ……」
「それで、どうするんですか?」
「分かったよ、手伝えばいいんだろ、手伝えば」
大きくため息をつく。なんか、ほんと変なのに絡まれてしまった。いや、正しくは絡んでしまったか……
過去の俺、雨を全力で止めるんだ!!!
「さて、雨さんも待ってますし戻りましょう」
「へいへい……」
人間、諦めることが肝心だろう……
俺達は教室に戻る。
「おや、話はもういいのかい?」
「はい。この部活を作る理由が正しいか、ということを涼也さんに聞いていました。結論として、正しいという返事を頂けたので、雨さんにも話しますね」
「なるほど。そういうことでしたら、お願いします」
変な誤解をされないための言い訳が上手いことで……
俺はジト目で神崎を見る。
「なるほど。つまり、この世界へと転生してきた者を集める場所を作る、と」
「はい。私たちがこの世界に転生したというのは、何か理由があるはずです。その、理由を探ることにもいいと思うのですが……」
転生した理由、ね……どうせ、神様のいたずらかなにかだろう。いや、それは無いか……
神、というものは、地上の生物に対して平等である。平等に無関心。歴史上、神が人間に干渉したことなんてただの一回もない。もし、奇跡が起きたとしても、それは人が起こしたもの。神が起こしたものではない。
はるか昔では、雨だって地震だってなんだって、神様が起こすと信じられていたが、結局は何らかの原因によるものだ。絶滅にしたってそうだ。神の思し召しなどではなく、それは、絶滅すべくして絶滅する。何かの要因のために。だからもし、本当に神という存在がいたとしても、それは、俺たち生物に対して無関心と仮定することは簡単だろう。
「僕は賛成だね。涼也はどう思ったんだい?」
などと考えていると、雨に話を振られる。
「ん、ああ……」
考えてきただけあって、しっかりした設定だな、なんて言えるわけないし……さて、どうしたものか。とりあえず、否定するという選択肢はないわけだが、疑問点だけ出しておくことにしよう。
「一つだけ。仮に転生者がいたとしても、俺たちの年齢層、ましてや、この高校にいるとは限らないと思うんだが?」
そう、転生者が限られた地域だけにいるとは考えにくい。もしかすると、日本中各地に転生者はいるかもしれないのだ。
「そうだね、一理ある。姫はどうお考えで?」
「ええ、私も同じ考えです。ですから、部活といっても、学内のものという訳ではありません。放課後に集まる口実のようなものでしょうか?」
なるほど、そう来たか。俺たちが勝手に集まるのなら、他に入りたいという輩は出てきにくい。そして、本当に転生者がいたとしたなら、簡単に引き入れることが出来るだろう。
「僕は姫に賛成です。涼也は?」
「ま、いいんじゃねーか?」
どうせ何を言っても仕方がない。流れるがまま、流されよう。
「とりあえず、場所は未定ですが、メンバーはこの3人ということで。活動場所については、追って連絡します」
話は終わった。そして、俺の安らかであった放課後もいろんな意味で終わった。
「それにしても、何故涼也まで?」
諦めて、自棄になっていた矢先、雨が助け舟を出してくれる。
「そうだよな、俺いらないよな。俺、転生者じゃないし」
「いえ、涼也さんには転生者を見つけた際の補佐役となってもらおうと思いまして。雨さんも、涼也さんにフォローを頼んでいたみたいですし、私たちのことを知っている方がいる、というのはプラスだと思うのです」
いかにも、なことを言っている。が、私をフォローしろ、と言っているようにしか聞こえない。
「なるほど」
雨は納得してしまっている。
「お二人とも、これからよろしくお願いします」
「ええ、僕は姫の剣です。たとえ、地獄の果てでもお供致します」
こうして、俺はまんまと神崎の共犯者とされたのだった。
あんまり、神崎さんが中二病してないなぁ……と思いつつ……中二病ってナンダッケ……
しかし、リアリズムな涼也くん。この話は割と重要かもしれません。




