転生勇者と中二な同級生
完全に見切り発進の小説です。とりあえず、コメディー路線になることは確かですね……(笑)
勢いで書いたので、色々変更点はあると思いますが、お楽しみください!
“転生”という単語を聞いたことがあるだろうか。“転生”、それはおそらく、輪廻転生から来ており、死んであの世に還った霊魂が、この世に何度も生まれ変わってくることを言う。 ヒンドゥー教や仏教などインド哲学・東洋思想だ。
そんな“転生”。多宗教国家であり、無宗教の人間もいる日本においては、信じているものも多くはないだろう。
近代の日本においては、小説やゲーム。いわゆる二次元の世界においては人気のジャンルと言っても過言ではない。
実際にはありえない。
日本人ならほとんどの人間が口を揃えるだろう。俺もその1人だった。
「やあ、涼也。今日もいい朝だね」
この男に会うまでは……
登校中、声をかけてきた、地毛が茶髪で、凛々しく、爽やかな男。俺と同じ細身であるというのに、どこか筋肉質な部分も見受けられる。いわゆるイケメンというやつである。
「よぉ、勇者様」
そう、返事をする。他人が聞いたら、おかしな呼び方であるが、あながち間違いではない。鈴童雨、彼は転生者である。
なんでも、彼は転生前は剣と魔法の世界で、勇者と呼ばれていたらしい。もちろん、俺も最初は信じた訳では無い。だが、信じざるを得なかった事件がある。だが、それはここで語るべきではないだろう。
「その呼び方はやめてくれないかな。民衆がそう言い出しただけだし、この世界では意味をなさない」
苦笑いをする雨。前の世界に未練があるのか、少しだけ寂しそうな顔をする。
「前の世界が愛おしいか?」
「愛おしくない。あの世界で僕がやるべきことはやった。だけど、あの世界が僕の死後、どうなったのか、ということは気になっている。婚約者も置いてきてしまったしね……」
「婚約者?」
それは初耳である。今まで、いろんな話を聞いてきたが、婚約者がいたなんて知らなかった。
「ああ、言ってなかったっけ」
「聞いたことないぞ。勇者って言われてたくらいだから、お姫様とでも婚約してたのか?」
王命か何かで少年、または青年が呼び出され、平和のために戦いの世界に駆り出される。その見返りとして、お姫様を娶ることがてきる。小説やゲームではよくあるパターンである。
「君は本当に感がいいんだね……」
雨は小さく溜息をつく。どうやら、正解のようである。
「ほとんど当てずっぽうだ。どちらかと言えば、日本のサブカル文化の賜物だな」
「本当にこの世界は凄いな。こんな魔法もないような世界で、他の世界のことを想像で書いてるなんて」
感心したように、彼は言う。
「この世界の人間は暇なんだよ。だから、想像ができる。お前がいた世界と違って平和だからな」
「違いない」
雨は笑った。彼が勇者であった世界では人間と魔物の戦争が起こっていた。その戦争を終わらせるため、彼は勇者になった。そして、最後に彼は命と引き換えに世界の平和を手に入れた。
「そのお姫様って、どんな人だったんだ?」
興味本位で聞いてみる。
「そうだね……素晴らしい人だったよ。僕なんかにはもったいないくらいにね……」
その表情は愛しい人を思い浮かべるような、そして切ないものであった。前の世界が愛おしくないというのは、嘘。そんなことは俺にもわかるくらいに……
「可愛かったのか?」
「やっぱりそこなんだね。ああ、綺麗だったよ」
彼は笑う。男として気になるのはやはりそこなのである。
「うちのマドンナとどっちが可愛んだろうな?」
「マドンナ?」
「お前、そういうのには疎いよな。うちの高校で可愛さナンバーワンって言われてる神崎玲奈だよ。隣のクラスだぞ?」
これは、クラスメイトから聞いた話である。俺も何度か見かけたことがあったが、なかなかに可愛い。いや可愛いと言うより綺麗と言った方が正しいだろう。その身は細く、白く、麗しい。大和撫子という単語がまさに似つかわしい生徒であった。
「そんな御仁もいるんだね。うん、ぜひ見て見たい」
こういうのにはあまり興味を持っていないと思っていたのだが、雨もやっぱり男のようである。
「んじゃ、昼休みにでも見に行くか」
「楽しみにしているよ」
高校に着き、それぞれの席に座る。雨が席に着いた瞬間、雨の周りは女子でいっぱいになる。イケメンの性と言うものなのだろうか。雨は性格がいいこともあって、女子の人気が高い。一部の女子は雨のことを王子と言っているんだとかなんとか。
羨ましい限りである。
「雨、飯行くぞー」
「ああ、分かった。みんなごめんね。今日は先約があるんだ」
昼休み、雨を食事に誘う。彼の周りには女子集りが出来ていたが、雨は食事の誘いに断りを入れ、こちらに来る。
女子達の目が怖い怖い。さっさと退散することにする。
そして、屋上。俺たちのお目当てである神崎玲奈はその友人とよく屋上で昼食を取っているとのこと。俺はだいたいほかの友人と学食で昼食を取っているから、屋上に来るのは相当久しぶりである。
「お、あれだな」
神崎玲奈を見つけ、雨に教える。
「なっ!?」
神崎玲奈を見た瞬間、雨は口を開けて固まった。なるほど、イケメンが固まるとこういう感じになるのか。
「ん? どした?」
急にどうしたのだろうか。持病発作でも起こしたのだろうか。雨が持病持ちなんて聞いたことないけど。
「……ちょっと待っててくれ」
深刻そうな顔をする雨。そして、彼の足は神崎玲奈の方に向いていた。
「あ、おい……」
俺は引き留めようとするが、歩いていった。そして、少し何かを話したかと思うと戻ってくる。
「何話してきたんだ?」
「少し放課後に話したいと伝えただけだよ」
「ふぅん。告白でもするのか?」
「告白か……そうだね、ある意味告白かもしれないね」
その顔は深刻だった。少しだけ、嬉しそうに見えたのは俺の気のせいなのかもしれない。
放課後。
「なあ、俺がついてきてもよかったのかよ?」
「むしろ、涼也がいてくれた方がありがたい。失敗してくれたらフォロー頼むよ」
失敗? 告白の? こいつは何を言い出すのだろうか。失敗したら慰めでもしたらいいのか?
「お前がいいって言うならいいけどさ」
とりあえず、雨に着いていく。神崎玲奈は夕日をバックにひとり、佇んでいた。その姿はまさに美の一言であった。
扉が空いた音に気づいたのか、彼女はこちらを向く。周りには野次馬のひとりもいない。学園の王子がマドンナに告白する、というビッグイベントであるのにも関わらず、である。
雨は神崎玲奈のもとへ歩いていく。そして、少しの距離を開けて跪いた。
………………はっ!? 何やってんだあいつ!?
「失礼を承知でお聞き致します。貴方は、レーナ姫なのではないですか?」
神崎玲奈は唖然としている。
そりゃそうだ。誰でも跪かれてお姫様ですか? なんて聞かれればそうなる。
「お、おまっ!? 何言ってんだ!?」
「涼也、今朝言った姫だけど、彼女に似すぎている。直感だが、彼は姫だと思った。だから、僕は止まれなかった……」
なるほど。昼休み、こいつが固まったのはそういう理由か。しかし、そのお姫様とやらが、この世界に転生してくるというのはありえる話なのだろうか。転生ということ自体、奇跡に近いというのにだ。確かに、雨はこの世界に転生してきた。それは、ほかの転生者もいるかもしれない。だけど、確率論的には相当低いはずである。ただ、似ていると言うだけで、転生者と断定するには早すぎる。
雨もそれをわかっているはずなのだが、彼は止まらなかった。止められなかったのだろう。
フォローしてくれというのは、もし違った場合、誤魔化してくれということだろう。
さて、どう誤魔化したものか……
「顔を上げてください。鈴童雨さん……いいえ、レイン……」
色々考えていると、神崎玲奈は口を開いた。レイン。その名前には聞き覚えがあった。鈴童雨の前世の名前だ。
彼女は雨に微笑んだ。しかし、その笑みからは雨とは何か違うものを感じた。
「貴方は姫なのですか……?」
「ええ、私はレーナ。あなたが現れるのをお待ちしてました」
神崎玲奈はとんでもないことを暴露した。開いた口が塞がらないというのは、こういうことなのだろうか。
「やはり、姫だったのですね! あなたを置いていったこと、罪の滅ぼし用がありません……」
跪いたまま、顔を下げる雨。まさに、姫とそれに仕える者の絵であった。
「気にしないでください。あなたはすべきことを為した。それだけなんですから……」
「……ありがとうございます。しかしこの世界であなたとまた会えるとは……僕が死んだ後、あの世界はどうなったのですか? 魔物達とは結界を隔てたため、そちらに行くことは無かったと思いますが」
「……滅びました」
雨は絶句した。命を賭して、手にした平和がいとも簡単に崩れたと告げられたのだ。当たり前だろう。
「滅びたんです。神によって人間は滅ぼされました。世界を変えた人間が許せたかったのでしょう」
「そう……ですか……それじゃあ、僕のやった事は……」
雨は涙を流す。
「無駄、ではなかった。そう思います。結局は滅びましたが、それまでは平和でしたから……貴方には感謝しきれません。そして、また会えたこと、とても嬉しいです」
「姫!!」
雨は神崎玲奈に抱きついた。我慢できなかったのであろう。愛おしく、もう会えないと思っていた人が目の前にいる。誰だってそうなるのは当たり前だろう。きっと神崎玲奈も……
ん? おかしい。 普通、これは雨のことをしっかりと抱きしめるところだろう。しかし、神崎玲奈はそれをしておらずドギマギしているだけだ。婚約者で、交流もあったのなら、そういうこともあったはずだ。それなのに、彼女は違う。
さすがに、勇者よ……感極まりすぎではないだろうか……
「レイン……そろそろいいでしょうか……?」
「すみません……感情が昂ってしまい……」
雨は姫から離れる。
「許します。ところで、こちらでの能力は?」
「はい。こちらの世界ではマナがほとんど枯渇しているため、向こうの世界と同じようなことはほとんど無理です。できることと言えば、これくらいです」
雨は人差し指を顔の前に出す。すると、人差し指の第二関節あたりから魔法陣が出て、指先からライターの火力ほどの炎が出る。
そう、これが俺がこいつを元勇者だと認めている理由の一つ。こんなこと、種もなしに常人ができるはずもない。
神崎玲奈は驚いていた。ありえない、という顔だ。魔力が枯渇している世界で魔法を使うということが、それだけ凄いということだろう。
「……さすがですね。この世界で魔法が使えるなんて……」
「ということは、姫は……」
「ダメですね。こちらでは使えないようです……」
「そうでしたか。しかし、私は姫の剣。どんな危険が来ようとも、あなたをお守りします」
再び跪く元勇者。
この世界で危険って、そんなにないと思うのだが……
「そう、ありがとう。頼りにしていますね」
「それでは、僕はこれで失礼します。何かあれば、呼びつけてください。直ぐに駆けつけます」
「期待していますね」
そういうと、雨は立ち上がり、屋上から去っていった。俺もその後をついて行こうとすると、急に腕が動かなくなった。
「ん? どうしたんだ?」
原因はお姫様。腕を掴まれて、引き留められてしまっていた。
「ところで、貴方も転生者なんですか?」
「いや、俺はただの一般人だ」
かれこれ17年、ただの一般人として生きてきた。雨に剣術を教えて貰ったこともあったが、凡人の域を出ない。
すると、姫は大きなため息を吐く。そして──
「ななな……なんなんですかあの人はっ!?」
神崎玲奈は声を上げた。
急にどうしたんだ、この人……
「なんなんだって、転生者だろ? お姫様と同じで」
さっきまでの威厳はどこへやら。
「それに、さっきまで再会を喜んでたじゃないか」
「そういう設定でしょ!? 魔法? マジですか!?」
神崎玲奈は完全にパニック状態だった。
「設定……? おい、お前まさか……」
まさか、学園のマドンナ的存在の神崎玲奈がそんな重病を患っているとは知らなかった。中二病やってたら、ほんとに元勇者が出てきたのだ。頭の処理が追いつかないのは仕方の無いことだろう。
「そうですよ! なにか悪いんですか!? せっかく仲間ができたと思ったのに……」
神崎玲奈は完全に開き直る。
なるほど、だから(仲間が)現れるのを待っていた。そういうことか。
「ま、まあほら、あいつ本物だけど、そういう中二的なことには乗っかってくると思うぜ? お前のことホントにお姫様だと思ってるらしいし」
一応助け船を出してみる。神崎玲奈からしてみれば、千載一遇のチャンスということに間違いない。ただし、相手は中二病というわけではなく、本物の元勇者ではあるのだが……
「ま、まあ……そうですね……確かにその通りです……本物の元勇者と出会えるとは幸運でした!」
あかん、この子ダメな子や……
俺の中で神崎玲奈は学園のマドンナという位置から、残念なこと言う位置まで落ちていった。
「そういえば、私たちも魔法って使えるんでしょうか?」
「どうだろうな? 勇者も言ってたけど、この世界はマナとやらがほとんどないらしい。まぁ、雨が出来てるんだから、頑張れば出来るようになるんじゃないか?」
俺に関していえば、魔法の適正はある。ただ、やらない。努力したところで、勇者が使ったような魔法程度。あんなのならライターを使った方がよっぽどいい。
「そうですか……!」
あ、これ、絶対に教えをこうやつだ。
「んで、続けるのか?」
「当たり前です! 毒を食らわば皿まで……こんな好機を逃す訳には行きません!」
この世界で、別に姫を名乗っているからと言って命を狙われることはほとんどないし、勇者もいるからほとんど問題は無いだろう。本人がやりたいというなら、何も言うまい。
「あ、鈴童さんには内緒ですよ?」
人差し指を唇にあて、ウインクするその姿を可愛いと思ったのは致し方のないことであろう。
顔はいいのだから。
如何だったでしょうか。今回は導入でした。異世界転生物はよく見ますが、異世界から現代に転生してくることないよなぁ……って感じで書き進めたら割と楽しいです(笑)