プロローグ オワリノキオク
プロローグ終了です。
「あ、起きた?」
少年が目を覚ますと、目の前にいたのはレーションの缶を持った少女。
寝ぼけ眼を擦りながら、片手で器用に蓋を外していた。
「おはよ」
「ん。おはよ」
「一本でいいよね」
「うん」
朝は、二人ともあまり食べない。
マットの上に広げられたのは棒状のレーションが一つだけ。
いただきます、と呟いて少女はレーションを齧る。
齧った後、残った半分を少年に向ける。
ちょうど口元に出されたそれを、少年は咥えた。
「エサやり体験してるみたい」
「手、出すのめんどくさかったし」
そーですか、と少女がこぼす。
「コップ出す?」
「別に要らなくない? お互い、虫歯になりにくい家系だし」
「りょーかい」
ごちそうさま、と小さくつぶやき、少女は寝袋とマットをしまう。
その横で缶を片付けるのは少年。
一本食べたから、残りは七本。
昼に残りを食べて、夜に新しい箱を開ける。
たぶん、これからもそれを繰り返す。
――正直、飽きてきたな。
だけど、どうにかできるものでもないし。
「……まって。光、見えない?」
ふと、少女が呟く。
「どこに?」
「階段のずっと上、一か所だけ色が違うような気がしない?」
少年が少女の指さしたほうを見る。
が、違いが分からなかったのか、首を傾げた。
「全く?」
「……れれ。おっかしいな」
「気のせいじゃね?」
「そっかー。まあいっか」
話してるうち、いつの間にか出していたものを全部片づけていた少年が言う。
「とりあえず、上がろっか」
◆◇
「……ひかりだ」
「……まぎれもなく、ね」
◆◇
「眩しい」
「そっか、外って、明るかったのか」
◆◇
「先、行って良い?」
「だめ、一緒にいこ?」
◆◇
「つい、た……ね」
「……まって、ここ、どこ?」
地上に出た。
電柱が折れ、
ビルが倒れ、
人はおらず、
機械は消え、
およそ文明と呼べるだろう物は、少しの面影だけを残して、全て消えた地上。
それが、現実だった。
「私の、知らない場所?」
「……いや、一番よく知ってる場所、だと、思う……けど」
少年と少女は、
ただ茫然と、その光景を眺めていた。
「予想外、だな」
「ほんとに。……ねぇ、これ、どうやって生きていけばいいんだろう」
お互い、震えた声を隠そうとすらしない。
ぴっと、少女が石を蹴った。
ころころ転がっていって、
大きな壁にぶつかって、止まった。
私たちみたい。
ふと呟いた少女の言葉は、
誰もいない静かな街で、大きく響いた。