プロローグ カコノキオク 7
次回でプロローグおわり
「「ごちそうさまでした」」
声が途切れると同時、レーションの缶を下の階へと放り投げる。
不規則なパーカッションが辺りを残響。
だんだんと音が小さくなって、いつの間にか消えていた。
「口ゆすいだんなら、コップ片づけるけど、良い?」
遠くへ消えた缶から視線を外し、振り返る。
寝袋に頭から突っ込んだ少女がいた。
「あ、まって。今出るから」
くぐもった声の返答。
必至に抜け出そうとしている、その光景を横目に僕はコップに口をつける。
口内をざっくり洗い流して、飲み込む。
「ん。はいよ」
もぞもぞと寝袋から這い出てきた少女にコップを渡す。
一つしかないから、基本的に兼用。
……そうでもしないと、持ち物がかさばるから。
少女が両手で受け取って、地面に置いた。
そして、ポリタンクを持ち上げようとして、こちらを見る。
「……注いでくれない? さすがに重い」
「はいはい」
少女が掴んでいたポリタンクを拾い上げる。
さっきは気にならなかったけれど。
確かに、言われてみれば重い。
傾ける。
ちょろちょろ水が滴り、落ちる。
「ありがとね」
そう言って、くちゅくちゅと口の中を軽くゆすぐと、こくんと飲み込んだ。
少女がコップを元の場所に戻すと同時に、出しておいたマットを広げる。
これがないと、冷たい地面の上で寝ないといけないから、かさばるとは言っても持たざるを得ない。
「じゃ、寝るか」
「うん」
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
数分がたって。
少女が寝息を立て始めたにも関わらず、僕はまだ寝付けないでいた。
理由は、考え事。
どうしようもない心配事が、頭を行ったり来たり。
今日は、何の問題もなく生きている。
だけど、こんなのがいつまでも続くとは限らない。
食料が尽きるのは、まだ大丈夫だけど。
水だって、補給できない可能性もある。
そもそも、どうやって生きていくか、それすらもまだ考え付かない。
「……わけ、わかんねぇ」
上がってからの働き口があるのか。
さっきの話じゃないが、めんどくさいことに巻き込まれなければいいけど。
「ふわぁあ……」
眠い。
考えていても仕方ないし、寝るか。
階段を上り始めてからの二日目が、終わる。






