プロローグ カコノキオク 5
「大分眠そうだけど、晩御飯食べるか?」
眠さのせいで、瞼を閉じた少女。
かろうじて、といった感じでつむいだ言葉は、
「もちろん」
ノーと言われば、すぐにでも寝袋の準備をしようと思ったのだが。
さすがというか、なんというか。
「食欲魔人め」
「ありがとう」
褒めてねぇよ。
……さておき、カバンを開く。
幸い、上の方にあったからひっくり返さずにすんだ。
「レーションでいいよな」
きちんと整理された中から、銀色の缶を取り出す。
表面の印字はかすれて読めない。
けど、慣れ親しんだレーションだった。
「それ以外に何かあるの?」
「ないよ」
コパッ、と蓋を外す。
乾いた香りが広がった。
この匂いは……特徴がないからプレーンか?
――良かった、晩御飯がチョコ味とかじゃなくて。
「なら別にそれでいいよ」
少女が興味を失くしたように、立ち上がった。
「……というか、なんで準備してるんだ。僕」
少女もカバンに向かう。
「そっちが勝手に始めたんじゃん。あと、マット忘れてるよ」
少女はカバンからランチョンマットを取り出し、僕の前に広げた。
缶の中に入っていた棒状のレーションを、マットの上に広げる。
「ご飯にするよ」
再びカバンを漁り始めた少女に告げる。
「まって、ついでに寝袋だしちゃうから」
数十秒もしないうちに丸めた寝袋を二つカバンから取り出した。
赤色と青色の二つ。
ほぼ新品、汚れなんてほとんどない。
コールドスリープした部屋に置いてあったものだ。
少女が隅のほうに放り投げ、先ほど広げたマットのほうに歩いてくる。
胡坐をかいて座っていた僕の前にちょこんと座った。
「じゃあ」
少女と目を合わせる。
「うん」
手が合わさって、パチン、と鳴る。
「「いただきます」」