プロローグ カコノキオク 4
「地上、か」
思えば、上がるということばかりに目が行っていたような気がする。
目的も、地上を見ることだったし。
上がってから何をするか、とか。
上がってから何ができるか、とか。
そういうことは一切考えずに、ただ上を目指していた。
呟いた僕の右隣。
カバンとは逆の方向に、並んで少女が座った。
「そそ。私達が、今目指しているところ。世界がどんな感じに変わってるのか、とかね」
「どんな世界、か」
「うん。八百年も進んでるんだよ?」
…………。
それか。
「……だんだん、それが怪しいって思い始めてきた僕もいるけどな」
「どうして?」
「だってさ、確認できたのがあの部屋の時計だけじゃん?」
「うん」
「手の込んだドッキリっていう可能性も」
冗談めかしていった僕の言葉。
んー、と首を傾げて少女が答える。
「んーでもそれだとさ。私のお父さんが納得しない気がする」
「……確かに。こんな苦行は絶対させないだろうな」
「でしょ? だから多分これは本当に八百年が過ぎた世界だと思うんだ」
「……そっか」
正直、認めたくない部分があった。
八百年も時が経っていれば、見知った光景はどこにもなくなっているだろうし。
知っている人は誰も居なくなるのだろう。
そして、何より。
自分たちが、受け入れられるのか、という疑問。
何百年も前の人が、というのはコールドスリープが実用化されていたから大丈夫なのだろうけど。
それ以上に、恰好で拒否反応を受けそうな気がする。
だから、認めたくなかった。
自分たちにとって都合が悪くなっている、ということを。
「どんな生活、送ってるんだろうな」
「どうだろうね」
「ロボットに占領されてたりとか」
「なんか妙にありそうだね。お父さん達、ロボットに人間の記憶を取り入れることに成功した! とか言ってたし」
「あー言ってたな。……となると、勝手に成長するロボットとかが生まれてる可能性もあるのか」
「……なんか、怖いね」
こてん、と肩に少女の頭の感触。
――ここで、俺が守れるよ、とか言えたらかっこいいけど。
僕には、そんな自信も力もなかった。
「銃構えて撃ってくるロボットとか、耐えられそうにないな」
「いくらくろとでも、無理っぽい?」
「さすがに銃弾は無理だ」
「全身金属製なら、いける?」
もはや、サイボーグだな。
「おっそろしいこと言い出すな……。どうだろ? 手がそのまま銃とかだったら、いけるかもしれない」
「……それは嫌だね。寒い時手繋げないし」
「じゃ、ロボットに占領されてたらおとなしく諦めよっか」
「……あはは。そうだね」
「おう。……ところで、しろな眠そうだな?」
途中から、単純な返答ばかりになっていたから。
そんなことふと思った。
「…………」
ひたすらに言葉を紡いでいた口は閉じ。
直後、ふゎぁ――と欠伸を一つ。
「うん」