十二月のとある一日。
一応ジャンルはローファンタジーですが、日常モノメインになりますし、魔法は出てきませんのでご愛敬。
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高層ビルと一軒家が適度なバランスで共存する住宅街。
僕の右手の古めいたアナログの腕時計が示す時刻は九時五十分。
それを確認するだけでも、ポケットから出した手が、あまりの寒さに堪え切れられない。
そろそろ、手袋が欲しい季節、だな。
太陽が沈むのも早くなってきた頃だし。
――秋も、もう終わり、か。
「ねえ、これからどうする……?」
ふと、僕に沿って歩いていた少女が問いかけてくる。
肩まで伸びた、雪みたいに真っ白な髪。
天球できらめいている星の光を反射して、微かな白色を闇の中に滲ませている。
ふと見た横顔。
蒼色の瞳は、あるかどうかさえ分からない僕らの歩く先を眺めていて。
眠そうに、ぱちぱち瞬いている。
――良い寝床が見つかったら、そこで夜を明かそう。
「これからって?」
対する僕は、少女と真逆。
黒色の髪に、紅色の瞳。
小さい時は少女に負けていた身長。
今は僕の方が数センチだけ高い。
……といっても、たかが数センチ。
彼女の眉のあたりに僕の瞳があるぐらいの、そんな程度の違い。
「これからは、これから。――どこを目指す、とか。将来的に何をする、とか」
アスファルトで舗装された真っ黒い道路の上。
僕たちは、どちらからともなく歩調を合わせて、歩いていた。
「さぁ? どうしようか」
――今日は、一段と寒い。
きっと、今朝降っていた雨のせいだ。
昨日の晩からずっと降っていたそれは、曇り空では乾ききらなかったらしく地面を未だに濡らしている。
冷たい水蒸気の匂いが、仄かに香った。
「適当、だね」
あきれ顔の少女。
はぁ、と漏れた息がうっすらと空気を白く濁した。
「そりゃ、仕方ないだろ」
ふと、辺りを見渡す。
――やっぱり、どこにもいない。
「仕方ない、って言うと?」
こつり――
僕の靴に当たって飛んだ石が、壁へとぶつかる。
たっ、たっ、たっ、たっ――
僕らの足音が、辺りで木霊する。
ぴちゃ、てちゃ――
どこからか落ちてきた水滴が、音を立てる。
本当に、
「こんな。誰もいない、壊れた街じゃ、な」
音が、良く響く。
「……まあ、そーだね」
変わるわけがない現実として、
この世界は、壊れている。
右を見る。
崩れたアパート。
木製だったと思われるドアは、腐ったのか跡形もなく消えていた。
窓も、割れた欠片が残っているだけ。
左を見る。
少し遠くに、傾いたビル。
百階は軽く超えてそうなそれは、もう住居としての能力を失くしていた。
地面をえぐりつつ、傾いている。
となりにマンションが無ければ今頃倒れていただろう。
遠くに連なっている鉄塔は途中で折れていた。
何もかもが、僕たちの知っていたものとは違っていて。
それでも、生きていくためには受け入れなきゃいけない、そんな所。
それが、僕たちの世界だった。