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こちら海江田運輸です

作者: 有田有

「只今戻りました。あー寒。ほんま寒い。」

「お疲れさん。どうやった。」

「はい。ばっちりです。これ、どうぞ。」

「ひーふーみーと5万円やな。3万円が会社の取り分。で、前借りの1万貰うわな。残りが取っ払いの給料1万や。ほい。」

「あざーす。」

「おい、新入りぃ。ぼーっと突っ立てないで、銀次にあっつい茶でも入れてやれや。」

「あっ、すみません。すぐ、入れます。」

「いちいち謝らんでええよ。」

「はい。すみません。」

「それや。それ。まぁええわ」

 僕が先週から働き始めた、この海江田運輸は、海江田社長と先輩の銀次さん、事務の雛子さん、そして僕の4人だけの小さな会社だ。運輸会社といっても、所謂便利屋のようなもので、頼まれれば何でも運ぶのが仕事だ。

 「おい、新入り。電話鳴ってるぞ。電話取りは新入りの仕事だっつただろ。」

 「銀次さん。すみません。」

 「いいから、早く電話。電話。」

 「はい。海江田運輸です。」

 「わしや。社長おるか。」

 「え?どちら様でしょうか?」

 「お前舐めてんのか?早よ、社長と替われ言うとんねん。」

 「はい。少々お待ちください。」

 「あのー。社長。すみません、社長に替われって言うてるんですけど。」

 「誰や?」

 「わしや。って言うてますけど。」

 「お前、早よ言え。替われ替われ。」

 「あっ、もしもし海江田です。いえいえ。いつもお世話になっております。先ほどは失礼いたしました。新人なもので申し訳ございません。はい、しっかりと教育しておきます。今からですか?勿論大丈夫ですよ。ええ、それではお伺いいたします。はい、ありがとうございます。」

 「おい新入り、今のな、丸山興業の丸山会長や。今から行って荷物預かってな届けてきてくれるか。」

 「丸山興業って、ですよね?」

 「お前、お客様に向かってですよね?とは何事や。色々してはる総合企業や。ええから、荷物預かって届けてきたらええねん」

 「いや、でも。」

 「場所知ってるやろ、つべこべ言わずに早よ行け。」

 丸山興業は、海江田運輸が入っている雑居ビルから徒歩で15分くらいの場所にある。自転車で行けば5分もかからない。僕は、まだローンの残っているビアンキのロードバイクで丸山興業へと向かった。丸山興業のビルには、防犯カメラが四方に取り付けられており、この辺の住人はほとんど近づくことがない。僕は恐る恐る、インターホンを押した。

「あのー。海江田運輸ですけど。お荷物取りに伺いました。」

 「海江田さんとこか。ちょっと待ってや、ロック解除するから入ってきて」

モーター音と共に門の施錠が解除されるのが分かった。

 「奥でオヤジさん待ってるから入って。」

 「はい。失礼します。」

 重厚な木製扉をノックすると中から、先ほどの電話の嗄れ声が聞こえた。

 「おー、新人の兄ちゃんか。えらい早いな。ええ心がけや。ほんで荷物なんやけど、この招き猫をここへ持って行って欲しいんや。」

 そう言って丸山会長はメモを差し出した。

 住所は、三宮北町となっている。ここから、そう遠くはない場所だ。

 「この招き猫やけどな、絶対に割ったらあかんぞ。割ったら兄ちゃんの頭も割れることになるで。嘘や嘘や。そないに怖がらんでええがな。これ運賃や。中身確認してや。」

 封筒の中身を確認すると新札の一万円札が10枚入っていた。

「はい。確かにお荷物と10万円お預かりしました。」

 「ほな、気い付けてな。海江田はんにもよろしゅう言うとって。」

 陶器でできた招き猫はずっしりと重量感があった。慎重にバッグへ詰め込み事務所を後にした。少し迷いはしたが、20分ほどでメモに書かれた住所に到着した。インターホンを押すと女性の声が返ってきた。

 「はい。どちら様でしょうか?」

 「海江田運輸です。丸山会長からの荷物をお届けに参りました。」

 「少し、お待ちくださいね。」

 しばらく客間で待っていると40歳過ぎのスーツ姿の男が入ってきてソファへ腰を下ろした。

 「もう来たんかいな。さっき、丸山会長から電話あったとこや。で、招き猫はどこや?」

 「はい、こちらです。」

 「これやこれや、待ってたんや」

 スーツの男は、すっと立ち上がり招き猫を近くに置いてあったゴルフクラブで叩き割ると中から新聞紙に包まれた何かがでてきた。それは、ピストルだった。

 「兄ちゃん、お疲れさんやったな。死人に口なしや。ほな、さいなら。」

僕は、蛇に睨まれたカエルのように微動だにすることができなかった。

「なんつってね。おおきに。海江田はんによろしゅう。」

こうして僕の初めての配達は終わった。

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