夕暮れの陽に照らされて
自分でない人の気持ちは、わからんもんですね…
『なんだこれ?』
下駄箱の、俺の靴の上にそっと置かれていた、それは少しオレンジ色のハガキのような形をした紙だった。
もしかして…
期待して表を見てみるけれど、「好き」なんて言葉どころか文字の一つも書いていなかった。
『だー…、ラブレターじゃないのか…』
正直、すっっっっごく期待してたんだ。比奈からのラブレターかな、なんてね…。
俺、佐藤 隼はずっと、ずっっと、幼馴染の坂内 比奈のことが好きなんだ。比奈とは幼稚園の頃から仲良しで、小さい頃は男勝りの比奈と一緒に河川敷に遊びに行ってトンボを捕まえたりよくしてたなぁ…。だけど中学生になった今、家は近いのにもはやゲームとかで遊びもせず、お互いの部活に没頭している。
俺は剣道部、比奈はソフトボール部だ。…ソフトボールって、相変わらずすることは男子寄りだなぁ…。けれど、やっぱ、
『好きだ』
好きなんだよ、好き…、いつもなんだかんだ比奈のことを考えていて、色々、付き合ったらこうしたりするのかなぁ、とか、あんなことするのかなぁ、とか、考え出したら止まらない。もし、ラブレターだったらと思ってしまうのも、そりゃあ仕方ないよね。
ふぅ、とため息をついて帰ろうとすると、ふとどこからかみかんのような甘酸っぱい匂いを感じる。
『なんだろう』
匂いの元を探すとすぐに答えはあった。
手にしている手紙だ。
鼻にもっていって匂いを嗅いでみると、やっぱりこれだ。いい匂い─。
目を閉じるとその匂いはとある思い出を、思い出させてくれた。あれは…、おばあちゃんの家で教えてくれたこと─
「マッチでそこの線香に火をつけてごらん」
おばあちゃんが指さす先には蚊取り線香が置いてあった。
その思い出は夏だった。おばあちゃんから教わったのは、ちょっと古い、だけど長く生きているおばあちゃんの年の功で甘酸っぱい知恵だ、─あぶり出し。
紙などに、主に柑橘系の果物の果汁を少し染み込ませるように塗る。そして、乾いた後に火で炙ると塗った場所が焦げるから、例えば文字を書いていたならうっすらとしか見えなかったとしても炙った時にそれは浮かび上がってくる。
確か、おばあちゃんは昔は炙り出しで遊んだりしたなんて言ってたっけ。
『なにか、書いてあるかも』
そうだ、このみかんのような匂いがしているのだから多分何かの果物は塗っているに違いない。
『よし』
、と思ったのはいいものの、ここは放課後の学校。部活終わりでもうそろそろ下校時間だからまずは帰らないといけないな。
…いや、待てないよ、もしも比奈からのラブレターだとすれば早く返事がしたい…!!
なんかいい方法はないか、ないか、としばらく頭を働かせると、ふと妙案が思い浮かんだ。
“理科室”…!!
この中学校の理科室にはとても大きな実験をするための机が九つほどあり、それぞれにガスバーナーが設置されている。 …ここなら、すぐに手紙を読める[先生にばれるかもしれないけど]!!
そうと決まれば早速手紙だけを持って理科室に向かう。さすがに暗くなってきている時間でもあり、廊下には無論人はいない。 それはそうと、もし、この手紙が比奈からのラブレターなら…、
そういえば、昔は夕暮れ時のような遅い時間でも俺と比奈は一緒だった。オレンジ色の空から注ぐ陽の光に照らされた比奈のはにかむその顔を、いつも、いつも─、そう、その笑顔を守るためにずっと一緒にいようと決心したんだよ。だから、もしそうなら絶対にプロポーズだってし返してやるさ、ずっと一緒にいたいから─…、 と思っているうちに、ぎゅうっと胸が締め付けられる。逆に、これが比奈からのラブレターでないならば…、いや、それどころかもし比奈は俺のことを友達とすら思っていないなんてことは、ないよな?自問自答する。そういえば、この頃はほとんど一緒に居てない。確かにお互い勉強に部活に忙しいこともあるし、また、中学校に進学する前に比奈が隣の家だったそこから引っ越したから一緒にいられる時間はどんどん、どんどん減っていって─
改めて、例の手紙をじっと見てみる。何も書いてないように見えるけど、俺にはわかる。想いが、込められているはずだと。
ガスの元栓に手を伸ばし、捻って開放する
予め用意しておいた手元のマッチを点火する
ガスバーナーにマッチを下から近づけて、ゆっくりとガスバーナーの下側のガス調節ねじを回す
火がついた
空気調節ねじを捻って炎を適切な青色にする
─そして
─いよいよだ
『…そうだよな、そうであってくれ』
『…比奈からの─』
【ラブレターであってくれ】
慎重に紙を近づけてゆっくりと、回していく
ぐるり、ぐるりと動かすごとに、徐々に焦げ目が付いてきた。
ぐるり、ぐるり、ぐるり…
どくん、どくん、どくん…
紙の動きと、心臓の胸を打つ音が鼓動しあって高ぶっていく感情はどうしようもない。
やがて浮かび上がってきた…!!
…ん?
『…丸?』
浮かび上がってきたのは、次第に黒色に近づいていく真ん丸な丸。
何が起こっているのかすぐにはわからずただただぼーっとする時間が流れる…
と、
焦げた匂いがする、ひどく…・・・?!
紙に目を移すと炙っていた真ん中にはぽっかり穴が開いていて、ひらひらと炎が揺らいでいる…!!
とっさに息を吹きかけた
次の瞬間には炎は消えた、がそこに残ったのはぽっかりと真ん丸い円の開いた手紙だと思っていたものだけ…。
がっかりした。正直、がっかりだ。確かにラブレターなんて期待していた俺も悪いかもしれないけれど、好きな人がくれたのかと思うと、もはや悔しくて、苦しくて、そもそも仲良くいたかった…
頬を涙が伝う
理科室にその紙を捨ててしまうと、勝手に使ったことがばれてしまうからとりあえず荷物を取って家に帰るために教室に戻ることにした。
教室に着くも、隼は俯いていた。
「はぁ」
ため息も漏れるさ
一呼吸おいてさあ帰ろうと教室の扉を開けると、眩しい…!
顔を上げて見ると、オレンジ色に少し紅色が混じった夕暮れの、陽光の逆光、…その中に人影がある。少し短めの髪に、夏服、リボン、そして、決して笑顔ではない表情─
比奈だった
「…何してるのよ」
まだ言葉が出ない、隼。
というのも、見えたからだ、その人影が、比奈が持っている─
“紙”…!
─同じ紙だ…!!
しかも、真ん中に同じように穴が開いている…!!!
ただぽかんと比奈の手元を見ていると、比奈が口を開いた
「隼も持っているのね」
コクンと頷く
「なんなんだろうね、コレ─」
比奈が続けるのをやめた、何かに気づいたような顔だ、なんだろう─
「泣いたの?」
思わず顔を拭ってしまった。
「…バカ」
ん?
どういうことだろう…
『バカ?』
確かに、俺は昔から気は強くないけれど、比奈の口にしたその言葉は何か意味を含んでいるような気がした…。だが、わからなかった。
「帰るよ」
比奈の声で我に返った。その時には、比奈はもう背中を向けて、教室から出るところだった。
『…なんだよ』
『なんなんだよ…』
思わずそこにあった教室の机に拳を向けたが、引っ込めた。
どうしようもないと思ったから、そう、思ったから。
帰り道、ふと気づいたのはまだ日が完全に沈んではいないということ。どうやら手紙を見つけて教室を出て行ってから再び教室に戻るまで意外と時間は経っていなかったらしい。おそらく浮かれたり、落ち込んだり、色々と気持ちがぐらぐらしていたからだろう。
ところで、いつもなら普通の夏の夕方の、蒸し暑いだけの帰り道なんだけど、今日はとても、とても悲しい。習慣で、小さい頃からいつも学校がある場所から家への帰り道は川の流れるその沿いの河川敷にある道を通る。ここはしばらく直線が続くところがあってずっと前まで見通すことができるのだけど、三十秒か一分か、すぐに比奈の帰った後を追うように学校を出てきたはずなのに、比奈だと思われるその姿は遠く、遠くにポツンとある。すぐ後を歩いていると思ったのに、気づけばほら、遠くを歩いているんだ、比奈は。
比奈は、確かに男勝りの元気を持っていた。けどその一方で短めの髪に似合う笑顔が俺だけでなく他の男子の視線も奪ってきた。だけど、その一方で比奈とは二人で一緒に居ることが多かった。だからある意味俺はこう思っていたんだろうな、
『独り占めできていた』
と。
だけど違った、それがこれまでの少しもやもやしていた気持ちだったのかもしれない。
あきらめるべきか…?
あきらめたくない…
迷惑か…?
他の男子と居るほうが幸せなのか?
…でも、その男子が俺だったら─
あきらめたくない、あきらめたくない…、あきらめたくない!!
そうだ、いつからかは忘れたけど比奈の笑顔を守るって、自分自身と約束したんだ…!
あきらめない…
あきらめない…!
あきらめない…!!
拳を固く握りしめ、パッと前を向いた。
そこに、比奈の人影はもうなかった。
拳は、ゆっくり開かれた
翌日、学校に着いたのはいいもののけだるさが酷い。気疲れみたいなものだろうか、こんなに虚しいのは八年目の学校生活にして初めてだ。やはり昨日沢山泣いたりしたからか…、親にも知られたくなかったから、泣いているのを、ひたすら静かに泣いた。
しばらくすると、比奈も同じクラスだから同じ教室に入ってきた。一瞬目を向けたが、なんとなく向こうも疲れているような、いや、悲しそうに見えたような気がした。だが、そんなことはもはやどうでもいい。ある意味あの決心の重圧、つまりプレッシャーからは解放されたはずなのだ。
…でも
拳が開いたり、閉じたりしかける…
その日の時間はゆっくりと流れていった。
一時間目の数学は図形の問題を先生が説明していたけれど、なんとなく頭に浮かんだのは比奈とおままごとごっこをしていた幼稚園の頃の自分、三角錐がおままごとグッズにある人参に見えたりしたのだ。平べったい円柱は大根か…
…だめだ、集中しないと
二時間目は国語、ここでも、なんとなく、頭をよぎるのは比奈との思い出…、一緒に読んだことのあるその当時はまだ難しい内容だったかもしれない詩集から引用されている“詩”、授業は淡々と進んでいくけれど俺の頭の中では比奈と座って一緒に詩集を持って元気よく朗読する自分たちがひたすら繰り返されていた。
…だめだ、…だめなんだよ
三時間目が終わっても、頭の中ではひたすら授業の学習内容に似ている比奈との思い出が、ひたすら、ひたすらに繰り返される…。
『『…つらい』』
隼が授業に集中できずに心の中で自分の気持ちをつぶやいた直後、比奈はため息を吐いた。比奈ももやもやしていた。それは気持ち悪くなるほど、泣きたくなるのを堪える自分がいるからでもある。正直、中学生でこんなに悩むのもバカバカしいとも思う。なぜなら私たちにはまだまだ何十年と未来があって、生きられる。何が起こるかなんてわからない。けど今の比奈はそれ以外何も考えられない。
時間に囚われた姫、比奈は、脱げたガラスの靴なんて本当なら放っておけばいいのに、今も探している。
そして、同じお城の中で、まさに隼王子はガラスの靴を見つける運命にあるようだ。
二人にとって長かった午前中の授業から、ようやく抜け出せた。四時間目の授業を終えた生徒は思い思いに机をくっつけてお昼ご飯を食べる。もちろんいつも同じグループで毎日食べているから二人ともいつものようにしようと努力する。けど心の中では涙のダムが壊れて、溢れて、洪水が起きようとしていた。
隼はずっと考えを巡らせている。その多くは比奈と隼の思い出。小さい頃から始まったその回想はもうすぐ今に追いつく。そんな中、隼の拳は徐々に、だが確かに再び握られていく。昨日とは違って、強く…強く…
涙の洪水は遂に、隼を飲み込んだ。隼はお城の中をあっちこっちに流される。だが気は失っていない。それに、手には時間に囚われている比奈が探しているガラスの靴が握られているから。 だが、放課後が近づいても王子が姫を見つける気配はほんの少し─。同じお城に居るはずなのに…。
心という名のお城は、みんなが思っているよりもはるかに複雑で迷路だ。一度迷ってしまったら元の気持ちに再び気付くのにはとっても時間がかかる。それはもしかしたら一週間かもしれない。一か月かもしれない。時には、何年もかかるかもしれない…。だけどそれでも、ここに生きている限り周りには少なくとも一人は人間がいるだろう。それが誰であれ、もし君が迷路で迷っているならば引っ張り出してくれる時がある。そして、そんな時は新たな道がチラッと見える時だってある。それが運命ならばそこに向かって進め、突き進め!
隼は午後の授業では、拳をしっかりと握って授業にも大体集中できていた。それは、時々は姫の様子を見ているからだ。今日の正午まではそんな気持ではなかった。でも今は違う。今に姫を溺れさせようとしている涙の洪水を必死に泳いで姫の元へ─。今ならわかる、お城の迷路のどこに姫が、比奈がいるか。どうやって行けば比奈にガラスの靴を渡せるか、そしてそれを履いてもらえるか─。
一方の比奈─、姫は迷路でうずくまっていた。もう何も考えられない。これからの先の、人生さえも、好きな人にフラれたわけではないのに、真っ暗な道の先にはうっすら先生が授業をしている景色がぼやーと見えるだけ。このまま進んでもそのもやに映る景色しか見えない気がして─、もうはっきりした綺麗な世界なんて見えないんだ。
ふと気づくと授業は全部終わって放課後だった。今日は部活なんてする気にもなれない、もう帰ろう─
「放課後、ここに来てよ」
肩らへんをポンと叩いて話しかけてきたのは、隼だ。少しもやが灯りに変わったような、迷路の景色が明るくなったような気がした。
─隼はもう迷いなどない。
放課後、昨日の今日なのにもう何か月も暗い曇りを挟んだかのような気分でいた王子と姫。24時間、つまり一日もまだ経っていないのに二人とも、いや、特に比奈は暗い一本道をとぼとぼ歩いてきた気分だった。だが今はまず隼が明るい場所に出ている─、そして比奈を救う─。
「元気?」
「……ええ」
比奈のその返事はまるで「ええ」と書いてある仮面を比奈にかぶせているようで、その裏には不安や絶望さえも入り混じる。
と、おもむろに隼が取り出したのは昨日の紙。そしてそれで彼は自分の顔を覆った。片方の目は─、開いた穴を通して、しっかりと比奈を見据える
その瞬間、洪水は比奈をも飲み込んだ。比奈の両眼から涙が溢れてくる、ぽろぽろ、と。
これが、恋であり、涙の洪水は比奈の己意だ。
同時に、比奈は自分の出したその手紙を作った時のことを思い出す。
一昨日、比奈は急激に焦り始めていた。比奈は昔からとても明るく、元気で、男気さえあるように周りからは思われていたが、一方で幼い頃からずっと一緒にいる隼に自然と恋をしていた。隼と話していると楽しい、幸せ、まさに幸せでしかなかった。しかし中学に上がる前に引っ越したのと学校の勉強・部活がとてつもなく忙しくなり、段々と隼とは話さなくなっていた。だが比奈の、隼を想う気持ちは変わらない。また、比奈は勝手にではあるものの隼の細かい表情などを観察して隼にも自分に気があるのではないかと、自分のことが好きなのではと思っていた。でもそれは本当かどうかはわからない。
そんなこんなで中学生時代を過ごしていると、あっという間に二年生の夏になった。二人の通っている学校は、幼稚園・小学校・中学校が同じ場所にある。というのも決して都会ではなくむしろ田舎よりの町なのでそりゃそうなるわけだ。ということだから、必ずではないものの地元に近い高校はまばらにしかないから受験を意識し始める中学二年生の秋の手前、夏にはもう自分たちが一緒にいられるなんてことはもはやなくなるという考えが頭に浮かぶ。だから、道が別れる前に想いを伝えなければ、と自分の気持ちに焦らされたのだ。そうして想いを伝えようと大体は決心したのはいいものの、そのまま伝えるのはとてもじゃないけど恥ずかしい…。そんな時、ふと思い出したのが隼との思い出から得たアイデアだ─。
王子─、隼がガラスの靴、お互いの好きという気持ちを涙の洪水にもまれながらもがっちりと離さないで放課後にたどり着けたのはもちろんどうすればガラスの靴を比奈に履かせてあげることができるかはっきりとわかったからだ。
これも幼稚園に入る前か入った後かぐらいの幼い小さい頃の思い出だ。隼はおばあちゃんから初めて見せてもらった万華鏡、その穴から見える景色から隼はキラキラ鏡とそれを名付けてすぐに比奈にも見せに行った。比奈もキラキラ鏡を覗いて、二人して感動した。ところで、その万華鏡は底が透明で向こうの景色も沢山の三角形に分かれるように見えるものだった。比奈と隼はお互いをキラキラ鏡を通してみるうちに同じ気持ちを持った。
─これが、二人の恋の始まり…。
なぜって、仲の良い二人はお互いをキラキラ鏡で見たときは〈〈隼・比奈〉〉の顔を沢山見れるのだから、それはもうこれ以上ない、“幸せ”。そして幼いながらにこう思ったのだそうだ、結婚すればずっとお互いの幸せを見ていられる、と、お互いに幸せでいられる、と、お互いがお互いの幸せで、満たせると…。
そして、これを思い出した隼、あの手紙も同じように真ん丸い穴に黒い淵がある、まるでキラキラ鏡だと思った。
そしてついに、ある意味、確かめる─、その時がやってきた。手紙の穴から比奈が見えるように持ってくる。すると、確かだ、あの日抱いた気持ちが今になって隼を確信に導いてくれた。
ゆっくりと腕を下ろすうちに隼の己意、涙がやはり溢れてきた。だけどまだ隼は比奈にガラスの靴を差し出しただけ、履かせてあげなければ。
深呼吸をする、ゆっっくりと…。そしてしっかりと用意された言葉があるのを確かめつつ涙を拭く。自分の頬と、そして比奈の頬にそっと指を添えて…。
「好きだよ、…大好きだよ!!」
放った言葉は音速で二人の間を駆け抜け比奈の耳に入り、脳に電気信号で伝わる─
隼が瞬きすると、そこにはくしゃくしゃの笑顔で自分を見つめ返す比奈の姿が、確かに見える…!
「あたしも…、大好き!!」
ゆっくりと、二人は歩み寄って
お互いをひしと、しかししっかりと抱きしめた
『『幸せだ』』
帰り道、昨日とは違って辺りはもう真っ暗だ。いや、少し違うか、月の明かりが新月だから少ししかないけれども─、それに星空もすごく綺麗だ。そして二人は手をつないで、並んであの道を歩いている。今から帰る場所は確かに別々だけれど、いつかは同じ屋根の下で暮らしたい、そんな気分だった。
ところで隼は別のことでもやもやしていた。それは、なんで比奈は直接告白するのが恥ずかしいからってあんなに分かりにくい方法にしたのかなーと。
「比奈、告白してくれるのになんであんな分かりにくい方法にしたの?」
「え?だって…─」
これは隼も忘れていたことだった、が、どうやらあのキラキラ鏡を使って遊んだ日はお互いが初めて遊んだ日だった、らしい。はっきりとは覚えていないけど、確かあの時は仲が良かった自分と比奈の母親が同い年でまだ赤ちゃんの自分の妹と比奈の弟を連れて病院かどっかに行くため、自分のおばあちゃんに二人が預けられた、のだったかな。『病院に行くからねー』というようなことを言っていた気がしなくもない。…ということは俺たちはほぼほぼ一目惚れだったということか…!!ま、これも数奇な運命、そして素晴らしい運命…!一生大事にしていこう……!!
隼はそう思った時立ち止まった、と同時に比奈も立ち止まっていた。どうやら同じことを誓ったらしい、フフ…、と笑いがこぼれる。そして向き合って、
「…これからも、よろしく」
「…うん」
二人は満点の星空の下で、そっと目を閉じた
お読みいただきありがとうございます。この作品はあえて比喩などをかなり用いたため、一回読むだけでは噛み切れないかもしれません。しかし噛み砕くと味が出る作品にできたと思うので何回か、読む気力があればぜひ読んでみてください。