第9話 猫vs冒険者 対ヴァール戦
「くそっ……! 弱いゴブリンでもこれだけ数が多いと厄介だな。
所詮は雑魚モンスターなのによォ!」
痩せた冒険者の男が吠えた。
ロングソードを大きく振りかぶって威嚇してるが、情けないことに腰が震えている。
「よし、そのまま槍兵は前進しろ」
ゴブリンのリーダーが命令した。
大きな盾を持ったゴブリンがゆっくりと前進する。
「もうだめだ。このままじゃやられるぞ。全員撤収だ!」
背の高い冒険者の男がいった。
冒険者達は一斉に回れ右して逃走したが、不意に彼らの足が止まった。
ビュンッ!
ドゴン!
階段の上から巨大な岩が飛んできた。
その岩は冒険者たちの横をかすめて、大盾を持ったゴブリンの1体に直撃した。
その衝撃で大盾が宙を舞って遠くに転がり落ちた。
盾を持っていたゴブリンは首の骨を折って事切れた。
「な、なんですか!?」
ケットシーのファイヴは唖然とした。
それは他のゴブリン達も同じだった。
「おい貴様ら、雑魚ごときに何をてこずってるんだ!」
いかつい男の声が階段の上から響いた。
薄暗い階段の踊り場からゆっくりと大柄の男が現れた。
邪魔な頭髪は全て剃りあげてモヒカンにしており、目から下を鉄のマスクで覆っている。
そして鍛え抜かれた筋肉はたくましく、まるでボディビルダーのようだ。
大男は黒いタンクトップと迷彩柄のズボン、鉄の棘がついたブーツをはいていた。
そいつの露出した左上腕には燃え盛る髑髏の刺青が彫られていた。
ゴブリンの警備団は新たな敵に身構えた。
「うおおおおお! ヴァール殿が応援に来てくれたぞォ!」
先ほどのびびっていた冒険者たちが喜び勇んだ。
大男ヴァールはゴブリン槍兵の屍の足を鷲掴みにすると、軽々と持ち上げて棍棒のように振り回してきた!
「どりゃああああああ!」
巨大な体に似合わずに俊敏であり、もう一体の盾を持ったゴブリンに対して、目にも止まらず速さで突進した。
ドドドドドド!
ゴブリンは悲鳴を上げて吹き飛んだ。
死体でどつかれてそのまま昇天した。
「突撃隊、あの男を囲め!」
ゴブリンのリーダーが叫んだ。
戦斧を持ったゴブリン3人が雄たけびをあげながら、前に躍り出た。
シュン! バチィィン!
3方向から一斉に戦斧で切りかかった。
しかしなぜか刃がヴァールの体に届かない。
強烈な風と共にオレンジ色のガラスの盾みたいなのが現れて、それぞれの戦斧を受け止めている。
「フフフハハハハッ……!
これが俺様のスキル【物理攻撃無効シールドLV3】だ。
これがある限り、貴様らはこの俺様に指一本触れることはできねえわけよ!」
大男ヴァールは高らかに笑った。
「今度はこちらから行くぞ!」
ヴァールは続けた。
彼は正面に両手を突き出した。
「雑魚どもがまとめて消し炭にしてやる!
灼熱の竜巻よ!」
ゴオオオォォォッ!
吠え盛る炎の竜巻が大蛇のごとくうねり、ゴブリンの突撃隊を呑み込んだ。
断末魔の悲鳴を上げながら燃え尽きて経験値に変化した。
さて【物理攻撃無効シールドLV3】とはいったいなんでしょう?
こっそりと【鑑定】スキルを使ってみます。
ケットシーのファイヴは【鑑定】スキルを発動した。
【物理攻撃無効シールドLV3】
魔法の盾を召喚して物理攻撃を遮断する。
魔法の盾の数はLVに応じて増加する。
と立体映像の画面に鑑定結果が表示された。
「なるほど」
つまり3回までの物理攻撃が無効になるわけです。
続いて【灼熱の竜巻】を鑑定します。
【鑑定】スキルを発動。
【灼熱の竜巻】
炎の竜巻を起こして周囲の敵を焼き尽くす。炎属性の上級魔法LV10。
と立体映像の画面に鑑定結果が表示された。
「こちらもやばそうですね」
ケットシーの自分など、これが直撃したら即死でしょう。
なんとしてもこれは避けないといけません。
「怯むな! 魔法部隊、マジックアローを放て!」
ふたたびゴブリンのリーダーが怒鳴った。
ゴブリンの魔術師が前に出た。
短い呪文詠唱を終えて光の矢が3本現れた。
シュウウウウウウ!
それはヴァールに向かって風のように速く一直線に飛んだ。
しかしそれも突然に現れた盾にさえぎられた。
「おおそうだ。
言い忘れていたが俺様はスキル【魔法攻撃無効シールドLV3】も所持してる」
【魔法攻撃無効シールドLV3】ですか。
おそらくさっきと同じ性能で魔法を3つまで防ぐスキルでしょう。
「さあ雑魚ども。死のワルツを舞え! 火にあぶられて踊り狂え!」
ヴァールはそう言って【灼熱の竜巻】を連続で発動した。
魔法を詠唱せず連続で発動できるバグ技のようなチートスキルを持っているようです……。
「にゃあああ!」
それが自分にまで迫ってきて思わず飛びのきました。
その後も執拗に迫ってくる炎の竜巻を必死に避けた。
あれ?
仲間達の声がしない。
気がつくとゴブリンのリーダーが火だるまになっている。
他のゴブリンたちも勢いよく燃えて経験値に変化している。
そして自分はとうとう部屋の片隅に追い込まれてしまった。
「へへへへ。
お前がレアガチャ召喚で出たという猫魔か?
哀れなもんだぜ。5000DPを払って出きたのが、
こんな雑魚ではな。
ここのダンジョンマスター様もさぞや嘆いていることだろう」
ヴァールがそう言ってきた。
僕は驚きました。
「なぜ僕のことを知ってるんですか!?」
ファイヴはその冒険者にむかって叫んだ。
「お前が知る必要はない。死ねえええええ!」
再び灼熱の竜巻が迫ってきた。
ファイヴはそれを紙一重でバック転して回避した。
どうしたらいいのでしょうか?
アイツは物理攻撃を同時に3回まで遮断することができます。
それは魔法も同様です。
果たして勝つ方法はあるのでしょうか?
物理攻撃を3回まで遮断する……。
ファイヴは先ほどのスキルの説明を思い出していた。
つまり4回目は遮断できない。
フェンリルのセレナさんからもらった強酸ビンが役に立ちそうです。
ファイヴは猫の跳躍力で奴の背丈よりも高く飛び上がった。
3つの強酸ビンを勢いよく投げ飛ばした。
ヴァールはあえて回避せずそれを受け止めた。
パリイィィィィィン!
「馬鹿め。俺様に攻撃は通用しないと言っただろう?
だからこんな強酸も無駄だ。
スピードは速いが頭の回転は遅いようだな!」
そう言ってヴァールは下卑た笑い声をあげた。
「馬鹿はあなたですよ。あれを見なさい」
ケットシーのファイヴは冷静に返した。
「なんだと……!?」
ビンが割れてブルーアシッドスライムが飛び出した。
それを受け止める為に魔法の盾が3つ展開した。
刺激を受けたスライムが強酸を分泌して、魔法の盾がそれを受け続けている。
「まさか……!」
ヴァールが叫んだ。
「そうです。このスライムは刺激を与えると強酸を分泌して、
永続的に相手にダメージを与え続けます。
だからあなたのスキル【物理攻撃無効シールドLV3】は、
それを防ぎ続けないといけません。
つまり今あなたの背中は無防備なんですよ!」
ファイヴは落ちていた槍を拾い上げると、すばやいステップで、ヴァールの背後に回った。
一気に飛び上がり、槍を思いっきり投げた。
それは落下するスピードもあわせて強力な一撃となった。
寸分の狂いもなくヴァールの胸を貫通した。
ドシュッ!
「そ、そんな馬鹿な……!
この俺様がFランクの雑魚モンスターにやられるなんて……!?」
大男ヴァールは崩れ落ちた。
「ひいいいい!」
ヴァールが死ぬと他の冒険者達も蜘蛛の子を散らすように逃亡した。
「おい大丈夫か?」
下の階からゴブリンの警部団が駆け付けてきた。
「まさかお前ひとりで冒険者を倒したのか?
あの恐ろしい灼熱の竜巻を……!?」
「やったぞ! ダンジョンを守りきった!」
ゴブリン達が口々に言った。
Fランクの最弱魔物ケットシーが灼熱の竜巻を倒した!
ファイヴはケットシーの勇者だ!
その噂はゴブリン達の中でまたたく間に広まった。