第6話 侵入者です!
やっとダンジョンに戻ってこれました。
フェンリルのセレナさんは涼しい顔をしていますが、ケットシーの自分はもう死にそうなほど疲れました。
しかしダンジョンの入り口を潜ると、めちゃくちゃ美味しそうな匂いが漂ってきました。
本日のお昼御飯はちゃんこ鍋です。
しかしそこで強烈なダンジョンカーストを知るはめになりました。
まず最初にご飯を口にしていいのはCランクのモンスターからです。
彼らが満足したら次はDランク、Eランク、そして最後に僕らFランクのモンスター達がやっと食べられるのです。
でもほとんど残ってません。汁しかありません。
なおBランク以上のモンスター達はダンジョン最下層の高級レストランで食事ができるそうです。うらやましいです。
「おらFランク! 食器洗っておけよ!」
このようにケットシーの自分に絡んでくるEランク不良先輩のゴブリンがいます。
名前はゴンザレスといいます。
こいつは自分以外にもFランクモンスター全員をいじめて憂さ晴らしをしてます。悔しいですが自分らよりもワンランク上なので逆らえません。
夕方にはモンスター全員で掃除をするのですが、そこでもこき使われるのはEランクとFランクのモンスター達です。
自分もひとりで4つの部屋の掃除をさせられました。
「Fランク! そこが終わったらこの通路も掃除しておけ!」
レッドゴブリンのゴンザレスは何も掃除を手伝わず、自分ひとりだけ遊んでいます。
「Eランクがそんなに偉いんですか?
自分も暇なら掃除したらどうですか!」
ファイヴもむきになって言い返した。
「なんだと。ケットシーのくせに生意気だぞォ!」
ゴンザレスはそう言うと同じゴブリンの不良仲間を呼んで、ファイヴを取り囲んだ。
ボコスカ!
「にゃああああああああ!」
焼きを入れられてしまった。
「先輩に逆らった罰としてこの階層の残りの部屋全部掃除しろ!」
と言ってレッドゴブリン達は悠然と去っていく。
そのとき同じFランクでグリーンスライムのメルちゃんが一緒に掃除を手伝ってくれた。
口はきけないけど本当に良い子です。見た目はまんま抹茶プリンで、なんだかおいしそうです。
「ほんとうアイツらって威張ってばかりで頭きちゃう!」
そう言いながらもワーキャットのミーシャも掃除を手伝ってくれた。
「手伝ってくれるのは嬉しいですが、
無理にしなくてもいいんですよ。
言われたのは自分だけですから」
とミーシャに気をつかってファイヴが言った。
「気にしないで。私もアンタと一緒に掃除したいんだ」
とミーシャは気さくに返してくれた。
これはもしかして僕に惚れてるのではないでしょうか?
と思いながらニコニコしていると、急に壁に取り付けられた赤色灯が、点滅しながら警報が鳴った。
「こ、これは……!」
ミーシャがうろたえた。
グリーンスライムのメルちゃんもプルプルと震えている。
「冒険者が侵入してきたわ!」
ミーシャがそう叫んだ。
「ついにやってきたんですね。
こうしちゃいられません。
ミーシャさん! メルちゃん!
どこか物陰に隠れてやり過ごしましょう!!」
とファイヴが言った。
「なに言ってるの! 戦わなきゃダメでしょうが!」
とミーシャがつっこんでくれた。
「お前ら何やってんだ!
早く冒険者どもを倒して来い!」
通路の突き当りからゴンザレスが走ってきて自分らを叱責した。
そしてケットシーの自分を突きながら冒険者達の前に押し出していく。
「そういうアンタも戦いなさいよ!
ファイヴ君ばかりいじめるな!」
ミーシャが我慢できずに吠えた。
「ミーシャさん心配いりません。
メルちゃんを連れて特等席で見ていてください。
冒険者達を倒してきます」
ケットシーのファイヴは毅然とした口調で言い放った。
かくして冒険者達はこの部屋にまでやって来た。
それは二人だけのパーティで剣士と魔法使いのペアだった。
おそらくレベル5以下でしょう。
まだ冒険者としては初々しさを感じます。
「アイリ! ゴブリンの群れに囲まれた!
マジックアローで敵をひるませろ!」
シュン!
シュン!
スパアアン!
ガキーン!
剣士の少年がロングソードでゴブリンの棍棒を抑えながら叫んだ。
「はい、わかりました! シオンさん」
おっとりした顔の魔法使いの少女アイリが呪文詠唱をはじめた。
「くそ! 魔法を使う気だ! あの女を止めろ!」
ゴブリンが一斉に無防備な少女を狙いだした。
「させるかよ!」
ザシュッ!
シオンと呼ばれた少年剣士がロングソードを薙ぎ払った。
それで2体のゴブリンが倒された。
「風の精霊よ、我が声にこたえよ、マジックアロー!」
詠唱を終えたアイリが魔法で作られた青色の矢を飛ばしてきた。
【マジックアロー】
魔法で作られた光の矢を飛ばす。風属性レベル1。
それで残りのゴブリンが一掃された。
「背中が無防備ですよ、魔法使いのお姉さん!」
ケットシーのファイヴは素早いステップでアイリの背後に回った。
「あなたのお命頂戴します!!」
この距離ならネコパンチが届く。
そしてこのまま背後からの致死攻撃に持ち込もう!
しかしあっさりとアイリに避けられた。
自分はバランスを崩してよろけてしまった。
するとアイリがファイヴの背後に回り込んだ。
後ろから抱きかかえられてしまった!
「きゃー見て! 猫が長靴を履いてるよ! かわいいい!!
持って帰ってペットにしよう!」
「おいおい、また捨て猫をひろったのか!?
これで10匹目だぞ。
ああくそ! またモンスターが集まってきやがった。
もう回復薬もない。今日は撤収するぞ!」
シオンがそう言ってダンジョンの出口を目指して駆け出した。
「は~い!」
そう言ってアイリも後に続いた。
「にゃあああああああ!」
ファイヴは力の限りに暴れたが、アイリの抱擁はまるでドラゴンのように力強い。
マジでほどけないんです!
「大変だわ! ファイヴ君が冒険者達に誘拐されちゃう!」
ミーシャが慌てて後を追いかけて行った。
グリーンスライムのメルちゃんもプルプル震えながら追いかける。
しかしカタツムリ並みに遅いのですぐに引き離された。
少々かわいそう気もするが、アイリの腕に思いっきり噛みついて、やっとファイヴはドラゴンの抱擁から解放された。
アイリがすぐに追いかけてきたが、藪の中をジグザグに走って、ようやく撒いた。
今回は本当に危なかったです。
あやうく自分はアイリちゃんの飼い猫にされるところでした。