第5話 猫vs兎 対ジャッカロープ戦
ダンジョン内部の散歩も飽きてしまった。
というわけでロイヤルガードのフェンリルさんと一緒に、ダンジョンの外に出てきた。
じきじきに戦闘指南をしてくれるそうな。
ダンジョンの外は青々と生い茂った美しい森が広がってる。
人跡未踏の壮大な原野で空気が非常においしい。
梢には青い宝石のような小鳥が飛び交い、美しい歌をうたっている。
また木の根っこに出来た洞穴からツノの生えた野兎が飛び出してくる。
ケットシーのファイヴは自分も【鑑定】スキルを所有していることを思い出して、さっそくその小動物にスキルを発動した。
種族 ジャッカロープ
召喚コスト 2DP
属性 ウサギ・魔物・コモン
ランク F
HP 6
MP 1
攻撃力 2
防御力 2
魔力 4
俊敏性 12
固有スキル なし
なんというか召喚コストが自分より高いのはちょっと悔しいです。
というか全能力値が自分より高い気がします。
ウサギにも負けるなんて悔しいです。
「まあアレでよいだろう。
おまえ、ちょっとあのウサギと真剣勝負してみせよ」
とフェンリルのセレナさんが尻尾フリフリで話す。
「分かりました。
猫魔ケットシーの名に懸けて、必ず勝利してみせます」
と言ってファイヴは格好良くマントをなびかせてウサギと対峙した。
ジャッカロープもやる気らしい。
逃げも隠れもせず、ファイヴにガンを飛ばしてくる!
だが真剣勝負を始める前にもう一度、自分のステータスを確認しましょう。
名前 ファイヴ
種族 ケットシー
召喚コスト 1DP
属性 猫・魔物・レア・ネームドモンスター
ランク F
HP 5
MP 1
攻撃力 1
防御力 1
魔力 0
俊敏性 10(戦闘時にのみボーナス加算)
固有スキル 【ネコパンチ】、【鑑定】
そうです。
自分はレアでネームドモンスターの誇り高きケットシー。
野ウサギごときに負けるわけにはいかないのです。
ここは唯一の攻撃スキル【ネコパンチ】を使いましょう。
これは稀に攻撃力の100倍のダメージを与える技です。
しかもMPもHPも消費しないので無限に使えます。
ここで現在の装備を確認します。
【装備画面】
防具 胴 真紅のマント DEF+1
防具 足 赤い長靴 DEF+1
所詮は布と長靴です。防御力を期待してはいけません。
ジャッカロープはじっとこちらの様子を見ている。
「どうやら僕のオーラに怖気づいて、
何もできないようですね。
そのまま昇天させてあげましょう。
喰らえ! ネコパンチ百裂拳!」
ファイヴはそう叫んでネコパンチを連続で繰り出した。
「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」
シュババババババッ!
しかしリーチが短くて届かない。
猫だから。
しかも足も短いうえに二本足で立っているので、バランスを崩してしまった。
おまけに石につまづいて、盛大にうつ伏せに転倒した。
ジャッカロープは微動だにせず、冷ややかに見ている。
しばらくしてウサギが頭のツノでファイヴの背中を突いた。
スタタタッ!
「ああ! いてててて……!
にゃああああああああ!」
自分よりも小さなウサギが猪のごとく猛突進して来る。ファイヴはそれから逃げるのに必死だった。
「はあ……。カッコ悪すぎ!」
ワーキャットの女の子ミーシャが深いため息をついた。
「ふうむ。こいつは戦闘の基本的知識がないようだ。
これではダンジョンに侵入してくる冒険者達の、
経験値稼ぎのカモにしかならんぞ」
フェンリルのセレナさんも同様に深いため息をついた。
やっとジャッカロープがストレス発散を終えて帰ってゆく。
それを待ってからフェンリルのセレナがファイヴに近づいた。
「これから戦闘の基本的知識を叩き込む。私について来い」
地面に寝転がってへばっているケットシーに向かって叫んだ。ファイブがよろよろと起き上がる。
「今のは遊んでやっただけです。
自分ちっとも本気出してませんよ」
と捨てぜりふを吐く。
「もういい。私は今から本気で走るからお前も続け。
もしも遅れたら腕立て伏せ500回だぞ」
フェンリルのセレナが念を押した。そして素早く地面を蹴った。
負けじとケットシーのファイヴも続いた。
セレナは軽いジョギングをしてるに過ぎないのだが、もの凄く速い。
ちょっとでも気を抜けば置いて行かれる。
シュン! シュン!
バラの密集地帯を軽く飛び越え、小川を越え、切り立った岩肌を三角飛びで頂上にあがり、切り株から切り株に飛び乗りながら、今度は大木の枝から枝へ。
ファイヴもへとへとになりながらついて行った。
「ほう。フリーダッシュで私について来れるとは……!
お前すごいぞ。それなりの才能がある。
スピード系のモンスターとして申し分ないぞ」
フェンリルのセレナが微笑みながら優しく言った。
「これくらいへっちゃらですよ……」
とファイヴもへばりながら答えた。
それを聞いてセレナが大笑いした。
「戦闘の基本はフットワークだ。
このように常に走り続けるんだ。
さっきみたいにじっと立ってパンチしてるだけでは、
冒険者にやられるぞ。
フリーダッシュで敵を攪乱して、
狙われないようにしろ。
それだけで勝率はぐんと上がる」
「他にアドバイスはありますか?」
「そうだな……。あれを見よ。人間らの畑が広がっている。
あそこに案山子が立っているのが見えるか?
そこの岩から木の枝に飛び乗ってみろ」
セレナがアドバイスした。
言われるままにファイヴは木の枝に飛び乗った。
「そのまま案山子に向かってジャンプして。
そして落下しながら案山子に攻撃!」
セレナが言った。
ファイヴは旋風に乗って勢い良くジャンプした。
案山子がだんだんと近づいてくる。
瞬間にそれにむかって思いっきりパンチした。
案山子はバラバラになって吹き飛んだ。
「これがジャンプキルだ。
地形を利用した落下攻撃で敵を一瞬で葬れる。
他にもバックスタブといって背後から致命の一撃を与える方法がある。
忘れるな。むやみに攻撃するだけでは絶対に勝てない。
敵の裏をかけ。相手の一歩先を読んで戦うんだ」
セレナが褒めたたえた。
ファイヴはもう汗だくになり、黙ってうなずいていた。
「さあ、もう帰ろう。昼飯の時間だ」
フェンリルのセレナがそう言って身をひるがえした。
来た道をふたたび猛スピードで駆け巡っていく。
ケットシーのファイヴも黙ってそれに従った。




