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猫魔ケットシーと異世界ダンジョン ~最弱なケモノは如何にしてダンジョンマスターになれたか~  作者: 深海のレモン
第2章  最弱なケモノは如何にしてダンジョンマスターになれたか
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第33話 猫と鳥vsクラン 対プレイヤーズユニオン戦②






 砂糖の焦げた臭いが充満するダンジョン。

 猫魔ケットシーのファイヴは爆発のショックで気を失ったハーピィを優しく床に寝かせた。


 ファイヴがコアルームの扉越しにハンゾーに語りかける。



「これで分かったでしょう。

 モンスターを犠牲にしなくても冒険者を倒すことはできるんですよ!」



 聞いていたオークのハンゾーは安堵の息をもらした。



「……さすがファイヴ殿でござる。でも次はどうするつもりでござるか?

 まだ外には10人くらい冒険者が待ち構えてるでござるよ。

 こうなれば全員で特攻するしかないでござる!

 死傷者が出るであろうがやむを得ず。

 アリ達も共に戦うでござるよ。

 なんとしても主君を守るでござる……!」



 勇んだハンゾーがまくしたてる。

 刀を抜きダンジョンシロアリを率いて冒険者残党と刺し違える為に立ち上がった。


 だがしかしコアルームの扉が開かない!



「コアルームの扉は鍵を掛けさせてもらいました……」



 扉越しに聞こえてくるファイヴの落ち着き払った声。

 なぜこんなことをするのか?

 信じられないとばかりに目を丸くするハンゾー。

 ファイヴが少しばかり寂しげに語る。



「皆を犠牲にすればおそらく冒険者達を倒せるでしょうね。

 誰もいなくなったダンジョンで僕は独りぼっちです。

 勝利を祝う仲間をいない……。

 僕はそういうのあまり好きじゃないんですよ。

 それに僕一人でも勝算はあります。

 スピードを活かしてうまく立ち回り、クロスボウで仕留めれば……」



 扉越しに聞いていたハンゾーの肩が震える。

 まさか? そのまさかだ!

 この主君は仲間を庇って玉砕するつもりではないか?

 また質の悪い自殺志願病が発病したか。

 ハンゾーが扉を蹴り破ろうとした。しかし扉はびくともしない。



「だからそういう所が甘いと言ってるでござるよ!

 なんでもかんでも自分一人で背負おうとする……。

 そういうキザなナルシズムが虚けだと申しておるのだ!

 召喚士ダンジョンマスターは非道であるべきなのだ。それが世の理でござる!

 やっぱりファイヴ殿は虚け者でござる!

 暗愚で能天気などうしようもない馬鹿猫でござる! 馬鹿猫でござるよ!

 腹が立つならまた拙者を殴りに来るでござるよ!」



 そう叫んでオークは尚も扉を蹴り破ろうとした。たとえ無駄だと分かっていても。


 願わくば猫魔ケットシーが怒って扉を開けることを期待した。

 馬鹿猫と言えば必ず食いついてくる。経験済みだ。

 馬鹿と言われるのが嫌いだから。

 

 出口に向かって歩ていた猫魔ケットシーがぴたりと立ち止まる。


 なのに。



「あなたの言う通り……確かに僕は馬鹿猫ですね……」



 なんでこんな時に自虐的になってしまうのだ!

 無念と後悔が胸に刺さり、がっくりとオークは膝をついた。


 猫魔ケットシーは意を決して出口に向かっていく。

 だがこの違和感はなんだろうか?

 手の震えのことだ。右腕がおかしい。恐怖でも武者震いでもない。

 戦う前からずっとおかしかった。


 このブレスレットが原因ではないか。

 女神様が魔力結晶体マナセフィロスと呼んでいた物。

 まさかこれは呪いのアイテム!?



「にゃああああ!」



 なんとかブレスレットを外そうとしたが無駄だった。

 猫魔ケットシーの焦りと恐怖に共鳴するブレスレット。

 そして背後に気配。

 振り向かなくても誰か分かる。

 光り輝くブレスレットが生み出した幻影か?

 ウッドオーク・ウォーリアー達から逃げていた時に見た白い幽霊が背後にいる。


 サツキアキラだ。


 人差し指でスッとメガネを直すと落ち着いた声で話す。



「よくやったな猫魔ケットシー

 しかしお前がこんな場所で死んで貰っては困る。

 お前はこれから人食い魔獣(マンイーター)となって我が復讐の刃となるのだから」



 サツキアキラはそういった。



「あなたもしつこい人ですね。幽霊なんだからさっさと成仏してください。

 だいたいなんですか。僕につきまとって……。

 いったいあなたは何者なんですか?」



 そういってファイヴは背後を振り向きサツキアキラを睨んだ。



「俺はもう一人のお前だ。前にも話したと思うが。

 正確に言うならお前の内に秘めたサツキアキラの破片……。

 すなわちお前の体内のソウルゲノムこそがこの俺の正体だ。

 魔力結晶体マナセフィロスのおかげでよりお前に干渉しやすくなった」



 ソウルゲノム。サツキアキラが遺した神秘の記号。

 それは皐月アキラの怨念が生んだ最強の魔物リヴァイアサンを解き放つための鍵だと彼は言う。


 5つのソウルゲノムが集まる時、黒い領域(ブラックゾーン)の封印が解かれる。


 そして魔力結晶体マナセフィロスに宿る膨大なパワーが、リヴァイアサンを永遠の眠りから目覚めさせるのだと。



「だから後始末は俺に任せろ。残党を一掃してやる。

 そのかわりお前の体を借りるぞ。

 お前はしばらく眠っていろ……」



 サツキアキラの幻影は笑って答えた。


 嫌だ! 誰がお前なんかに体を貸すものか!

 拒絶するも突然の睡魔に襲われる。


 まずい。いくら猫が昼寝好きだからといってこんな時に……!?



「嫌です……!

 貴方に体を乗っ取られるなんて嫌です!

 にゃああああああ!」


 意識喪失。最後に見たのはサツキアキラの確信的笑顔。



「さてと……」



 猫魔ケットシーの体に完全に憑依したサツキアキラ。

 ダンジョンの出口を目指す。


 外には10人ほどの冒険者達が煙に咽りながら待ち構えていた。

 猫魔ケットシーの姿を見るやいなや鞘から剣を抜く。



「この爆発……お前がやったのか……?

 よくも俺達の仲間を……! 殺してやる!」



 曲刀を持つ剣士風の男が怒鳴る。

 猫魔ケットシーが呆れたように鼻で笑う。



「やれやれ。丸腰の猫相手にビビるとは情けない男ですね」



 そこでふと冒険者達の背後にある瓶のようなものに目が行った。

 また猫魔ケットシーが鼻で笑う。



「後ろに大量の火炎瓶が置いてありますね。

 いざという時のために用意したのですか?

 ふむ。全部で144個ですか。

 なるほど。最悪ならダンジョンまるごと焼き尽くすつもりだったと……」



 そこで猫魔ケットシーは手をすっと鼻の上に持っていく。

 メガネを直そうとして。

 そこでハッとした。今は猫の姿だからメガネを付けてないのだ。



「お、おい……なんだよこいつ……!

 たった1秒見ただけで火炎瓶の数を正確に当てやがったぞ!」



 魔法使い風の青年がつぶやく。他の冒険者達もそれを驚いていた。

 それを聞いて猫魔ケットシーがフッと笑う。



「やれやれ……。

 どこの世界でも低学歴の下等生物を相手にするのは疲れますね。

 火炎瓶が規則正しく縦に12個、横に12個置いてあったら、

 誰だって0.1秒で暗算できるでしょう?

 これくらい日本人なら10歳の子供でもできることですよ。

 ましてや東大に余裕で合格した自分なら尚更ね」



 どよめく冒険者達の群れ。

 それを見て更に猫魔ケットシーが笑う。



「この世界での火炎瓶の相場は1500ペラ。

 144個なら全額216000ペラ。

 どうせ召喚士ダンジョンマスターを倒しても、

 冒険者ギルドから得られる報奨金は……。

 まあ召喚士ダンジョンマスターのレベルにもよるがだいたい38000ペラ。

 猫魔ケットシー召喚士ダンジョンマスターなどその3.5割程度。

 すなわち10857ペラ。

 馬鹿ですね。205143ペラの大赤字だ」



 そう言って猫魔ケットシーは両手を上げてヤレヤレのポーズをとる。



「うわあああ! どうなってんだよこの猫はああああ!

 話しながら計算してるのか……!? 紙に書かないで?

 1秒もかからず正確に暗算してやがる……!」



 曲刀を持った男が口から泡を吹きながら騒いでいる。精神崩壊寸前のようだ。



「は? 紙に書く? この程度の計算で?」



 思わず猫魔ケットシーが聞き返す。

 そして呆れ果てた様に深いため息をついた。



「この程度の計算を紙に書いても良いのは12歳までですよ」



 猫魔ケットシーが冷たく言い放った瞬間、曲刀を持った男が昏倒した。

 口から泡を吹きながら。どうやら精神崩壊を起こしてしまったらしい。



「おい……まさか先の爆発もお前がやったのか……?

 あれは魔法か? それとも火炎瓶か?」



 この中で最も頭が賢そうな魔法使いの青年がたずねた。

 猫魔ケットシーがまた深いため息をついた。



「粉塵爆発ですよ。

 高密度で空気中に舞った砂糖の粉が起爆剤になったのでしょう。

 もっとも猿並の知能指数しか持たない貴方達にその原理を説明したところで、

 1ミリも理解できないでしょうが……」



 そう言って猫魔ケットシーがまたヤレヤレのポーズをとる。

 それを聞いた瞬間、魔法使いの青年が口から泡を吹いた。



「うわあああああ! なんで砂糖が爆発するのか分かんねえええええ!」



 即座に精神崩壊を起こして終了。泣きながら逃げていく。


 覆しきれない圧倒的知識レベルの差。ひたすらに驚愕する駄犬の群れ。



「そ、そんな馬鹿な……偉大な賢者メルギウス様でも答えられないなんて……!」



 冒険者の中の一人がつぶやく。

 それを聞いて猫魔ケットシーがまた深いため息をついた。

 そして猫魔ケットシーは再び手を鼻の所に持っていく。

 メガネを直そうとして。

 だがハッとして途中でやめる。



「あれが賢者? 笑わせないでくださいよ。

 あれが賢者だったら俺は神にでもなれます。

 貴方も少しでもその猿並の知能指数を上げたいなら、

 さっさと家に帰って本でも読んで勉強してください」



 それを聞いて精神崩壊する冒険者多数。その場で廃人と化す。生存者ゼロ。



「うわああああ!

 まさか猫に説教されるなんて思わなかったああああ!」



 プレイヤーズユニオンあっけなく全滅。



「本当に豆腐並に弱いメンタルの奴らですね……。

 あんなのでも冒険者になれるんですか?

 まあそれはさておき、この火炎瓶は俺が貰ってやります。

 有難いく思いなさい雑魚共」



 猫魔ケットシーは深いため息をつくと、火炎瓶を残らず回収してダンジョンの中に帰って行く。



「やはりファイヴ殿は天才でござるよ……」



 コアルームで一部始終を見ていたグリーンオークのハンゾーがぽつりと呟いた。






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