第30話 さっそくモンスターを召喚します
僕はなぜこんな世界に生まれてきたのでしょう?
何度も繰り返してきた問い。
未だその答えは見つかりません。
僕は魔方陣を揺り籠にしてこの世界に生を受けました。
誰からも愛されることなく。
産まれてきた理由はただ一つ「遊戯で殺すため」です。
僕を召喚してくれた親は僕に名前すら与えてくれませんでした。
Fランクの最弱猫魔の僕はダンジョンマスターになりました。
そしてコアルームに立ち魔方陣を見つめています。
あのときマチルダ様が召喚された僕の前でそうしていた様に……。
「準備はできたでござるか?」
グリーンオークのハンゾーが声をかける。
ケットシーのファイヴは静かにうなずいた。
「さっきはすみませんでした……つい感情的になってしまって……」
そいってファイヴはハンゾーに頭を下げた。
「感情的になるのはファイヴ殿がまだ召喚士の思考に、
染まってないからでござる。
でもそれこそがファイヴ殿の優れた所であると言えよう。
感情というものがないただ勝利のみを追求する合理的機械の様に、
他者を捨て駒として利用することもいとまない冷酷無比な人格……、
それこそが拙者の見てきた召喚士の本質でござった。
でもそんな風に染まらずとも勝利をつかみ取ることが出来るなら、
感情的になってもファイヴ殿は優秀でござるよ。
願わくばファイヴ殿はそんな機械のようにはならないでほしいでござる」
ハンゾーの言葉をファイヴは魔方陣を見ながら静かに聞いていた。
ダンジョンマスターは勝利の悦楽を求めて合理的殺戮機械に変貌していく。
果たして自分は本当にそうならないと断言できるか?
きっとこれから試されるだろう。
「ダンジョンメニューからモンスター召喚画面に移行します」
【モンスター召喚】項目
現在アポカリプス迷宮庭園にて以下のスキル補正が入ります。
・部屋の高低差を広げます。飛行系魔物が戦闘で有利になります。
・飛行系魔物の攻撃スキル補正。
「なるほど。このダンジョンは飛行系魔物が活躍しやすい様ですね」
ファイヴは立体映像を見つめながら顎をさすった。
「でも飛行系魔物は体力と防御力が低いからやられやすいでござるよ」
ハンゾーがアドバイスする。飛行系にはそれなりのデメリットがある。
あえて飛行系魔物に頼らず壁モンスターを前衛に置いて、後方から飛び道具で攻撃するという戦術もある。
召喚士レベル5に達するまではこれが有効な戦略らしい。
だがしかし。
「僕は飛行系魔物を召喚します」
レベル1猫魔の自分ではFランクの魔物しか召喚できない。
そして現在27DP。
自分が召喚できるFランク飛行系魔物は鳥少女だけだ。
ファイヴは2DPを消費して鳥少女を召喚した。
魔方陣がまぶしい光に包まれる。
両腕が綺麗な白い翼になっている少女が現れた。
種族 ハーピィ
召喚コスト 2DP
属性 飛行系・魔物・コモン
ランク F
HP 8
MP 5
攻撃力 3
防御力 3
魔力 2
俊敏性 11
固有スキル 【羽ばたき】
「まずは1体召喚したでござるな。
まだ25DPあるからもう10体くらい召喚した方が良いでござるよ」
ハンゾーがアドバイスする。
ファイヴは少し考えていた。
「いま僕が作成できるダンジョントラップは何ですか?」
ファイヴがたずねる。
ハンゾーはダンジョンメニュー画面を見ながら答えた。
「ファイヴ殿が使えるトラップは【見えない壁】だけでござるな。
8DPを消費して透明な壁を作るトラップでござる。
どんな攻撃も防ぐが3分経過すると消滅するでござるよ。
びっくり系のトラップで他に使いようが無いでござる」
とハンゾーがいった。
「なるほど。でも【見えない壁】には良い使い道があるかもしれませんね」
とファイヴがうなずきながら返した。そして静かに笑った。
それから改めてハーピィを眺めた。
「このハーピィに名前を与えます」
と唐突にファイヴがいった。
「な、なんと……!?」
とハンゾーが目を丸くして驚いた。
「何か文句ありますか?」
とファイヴがたずねる。
「本気でござるか?
この鳥少女はただのFランクの飛行系モンスターでござるよ。
ネームドモンスターでもレアモンスターでもないでござる。
捨て駒モンスターに名前をつけるなど聞いたことがないでござる」
と再びハンゾーが目を丸くして返した。
「それでも僕はこの子に名前をつけてあげたいんです……」
とファイヴはうつむきながら答えた。そしてこう続けた。
「僕は魔方陣のゆりかごで、愛されることなく産まれてきました。
産まれてきたわけはただひとつ、遊戯で殺すためです。
召喚してくれた親は名前さえ与えてくれませんでした。
Fランクとかネームドモンスターとかそんなの関係ありません!
この翼の少女は僕らに必要とされて生まれ来た……。
だから名前を与えるのです。
そうすれば、この子は誰からも捨てられないたり裏切られないたり
しませんから……」
ハンゾーは目を閉じて神妙な顔でうなずいた。
ファイヴは魔方陣の真ん中でうずくまる少女に向かってささやいた。
「あなたを羽を意味するフェザーと名付けます」
翼の少女がにっこりと笑った。
ほんの少しだけ時間をさかのぼる。
強力な魔物が徘徊する禁断の墓標の森にて3人の冒険者達が奮闘していた。
対するは大猪ジャイアントボア。
「シオンさん、そっちに向かいました……!」
レベル6に達した魔法使いの少女アイリが叫ぶ。
「分かってるよ。奴は魔法で弱っている。
やるなら今しかない……!」
同じくレベル6に達した少年剣士シオンが叫んだ。
高い木の枝にのぼったシオンがロングソードを強く握りしめ、眼下の大猪に向かって飛び降りた。
必殺のジャンプキルでとどめをさす!
成功した!
しかしまだジャイアントボアは生きている。
大きな牙を振る回すと、それにあたってシオンが弾き飛ばされた。
「うぐ……!」
「あッ! シオンさんだいじょうぶですか!? いま回復薬を持っていきます!」
アイリが叫んだ瞬間、大猪が彼女を睨んだ。
「ブヒイイイイイ!」
怒り狂ったジャイアントボアが猛突進してくる……!
「きゃああああ!」
アイリは恐怖してその場にうずくまった。
「アイリィィィィィ!」
シオンが叫んだ。
次の瞬間、炎が大猪を取り巻いた。容赦なく毛皮を焼いていく……!
焔神剣が放つ業火が混沌として吹き荒れた。
大猪が最後に見たのは赤い竜鱗の鎧を纏った冒険者の姿だった。
【討伐クエスト】完了
・ジャイアントボアを3体討伐する。
【報酬】
・レア装備1個
・3000ペラ
・経験値1500ポイント
「ありがとうございます。 zangetsuさん。助かりました……!」
アイリが安堵して感謝の言葉を伝える。
彼女たちと共に行動していた第三の冒険者ID.zangetsuに。
その作成人間は親指を上にたててうなずくの【よくやった】のジャスチャーで返す。
「本当に強いですね。おれzangetsuさんに憧れています!」
シオンが目を輝かせながら話す。
sangetsuが再び【よくやった】のジェスチャー。
Sランク最強の男。
全ての冒険者達の憧れの的で、ギルド総合評価ランキング1位で、ギルドの五本指と讃えられている男。
誰に対しても気さくに接してくれて、初心者たちのクエストにも積極的に参加して助けてくれる。
人類の守護者。
冒険者ギルドの神聖な赤い竜。
気は優しくて力持ち。
魔王メフィストを倒せる勇者はこの男しかいない。
誰もがそう思う。
クエスト完了後の楽しい団欒を経てzangetsuは【手を振る】のジェスチャーで、
シオン達に別れを告げた。
しばらく森を歩いている内にある場所に辿り着いた。
【アポカリプス迷宮庭園】だ。
何もないただの廃墟のはずだが……その入り口には……。
そこにはランクSSのモンスター神魔狼がいた!
そしてあのとき取り逃がした猫魔がいた!
ゴブリン討伐の緊急クエストで会ったあの猫魔である。
あれを追跡した冒険者達は炎に焼かれて倒れた。
同胞の仇を討つ時が来た……!
猫魔は神魔狼と別れてダンジョンの中に入っていく。
こっそりとzangetsuもそのダンジョンの入り口に向かった。
なんということだ……!
あのとき逃がした猫魔がダンジョンマスターになっている!
作成人間特有の虚ろな瞳がじろりと猫魔を睨む。
zangetsuはすぐにステータス画面を起動した。
【フィールドマップ】の項目を開く。
周囲のマップが立体映像となって目の前に現れる。
zangetsuがこの場所にマーカーを入れる。
マーカーを入れた場所は冒険者ギルドの掲示板にも表示される。
レアモンスターや宝の在り処など貴重な情報、そして高難易度のダンジョンなど危険な情報を他の冒険者と共有できるシステムだ。
すぐにzangetsuは冒険者ギルドに【瞬間移動】で転移した。
ギルドの掲示板に先ほどのマーカーを入れた地点があることを確認する。
そして「新しいダンジョンが見つかりました」のメッセージログがあることを確認する。
冒険者ID.zangetsuは【踊る】のジェスチャー。




