第26話 ケットシー初めてダンジョン運営します
目を覚ませばすっかり朝になっていた。
昨日はあれから泣き疲れてダンジョンコアの側で眠ってしまった。
硬い床の上で雑魚寝したので体中がぎしぎしと痛む。
道具袋に薬草が入っていたような気がします。
今はそれで我慢しましょう。
「あれ?」
道具袋の中に見慣れない物が入っている。
綺麗な水晶玉だ。
これは昨晩出会った女神様が持っていた物ではないでしょうか。
女神様はこれを魔力結晶体と呼んでましたが……。
再び道具袋に入れようとした時、魔力結晶体が輝いて変形した。
水晶のブレスレットの形に変わって右手にはまった!
装備アイテムなのでしょうか。よく分かりません。
まあ深く考えずに、次に女神様に会った時に返しましょう。
それよりも大事なことがある。深呼吸した。
ケットシーのファイヴはダンジョンマスターになった。
このアポカリプス迷宮庭園の。
でもこれに満足してはいけません。
螺旋魔塔のダンジョンマスターになるまで僕の戦いは終わらないのです。
そしてこのダンジョンは僕に与えられた唯一の武器なのです。
ファイヴはすっと立ち上がり、ダンジョンコアに向き直った。
ダンジョンコアは中央に沿って深い亀裂が走っている。
その亀裂の先には何か鈍器で殴れらたように、表面が弾け飛び、えぐれている部分がある。
後でガムテープを買ってきてダンジョンコアの亀裂に貼っておきましょう。
このダンジョンはだいぶ前に捨てられたようですが、その時のダンジョンマスターさんはどこに行ったのでしょうか?
やはり冒険者にやられてしまったのでしょうか?
ではこのダンジョンコアの傷も冒険者に……?
そんな半壊のダンジョンコアが、なぜ僕をダンジョンマスターと認めたのでしょうか?
分からないことだらけです。
とりあえず【ダンジョンメニュー】を開きましょう。
様々な項目のメニュー画面が立体映像として目の前に表示される。
その中に【ダンジョンマスター】という項目があるのを見つけた。
開いてみると「おめでとうございます。経験値が溜まっているのでレベルアップできます」のメッセージログを見つけた。
ついにやりました!
ではさっそくレベルアップしましょう。
【ダンジョンマスターレベルアップ】のパネルに触れる。
しかしそこから先に進まない。
【Now Loading】のアイコンが出たまま止まっている。
イライラしてパネルを連打した。
すると画面が文字化けしてフリーズした!
最悪です。やはりこのダンジョンコアは壊れているので一部の仕様が使えないみたいです。
自分はこれからもレベル1の猫魔のスペックでダンジョンに攻めてくる冒険者達と戦わなければならないのですか?
最悪の展開ですが、ここは冷静になりましょう。
ダンジョンコアの電源を再起動して再び立ち上げました。
しかたないので他の項目を見ることにします。
【ダンジョン拡張】の項目を見ましょう。
部屋や通路の増加、階層の追加など様々なことが可能なようです。
でもそれには当然ながらDPを消費します。
24時間ごとにDPは自然追加されるようで現在の残りは27DPです。
1日で2DPだけ自然に獲得できる仕様のようです。
通路作成には10DP消費します。部屋作成には25DPです。
現在では新たな通路や部屋を作成するのは無理なようですね。
階層追加ですが地下5階までは1階層増やすのに12DPを消費するだけで良いそうです。
助かりました。
入り口からL字に伸びた通路、その先に学校の教室くらいの大きさの部屋。
その部屋の片隅に地下に続く階段がある。地下2階はまっすぐな通路があってすぐにコアルームがあります。
つまりコアルームまで一直線で、冒険者達がすぐダンジョンマスターのところに到達してしまうのです。
そしたらあっさり自分なんか殺されてダンジョンコアを奪われてしまいます。
だから少しでも階層を増やしてダンジョンを複雑にしたいところです。
ケットシーのファイヴは【階層追加】のパネルを押した。
しかし反応しない。仕方ないのでダンジョンコアをバンバンと叩いてみた。
またメニュー画面が青くなってフリーズした!
電源を再起動。
それから【モンスター召喚】と【ダンジョントラップ作成】の項目は問題なく動くのだけは確認しました。
冒険者がこのダンジョンを見つける前になんとか防衛を完璧にしておきたいのですが……。
ここにいてもイライラするのでダンジョンの外に出て気分転換をしましょう。
それにお腹が空いたので川に行って魚でも捕まえてきましょう。
コアルームに鍵をかけて、出口に向かって歩き出した。
このダンジョンを見てるうちにある特徴を見つけた。
なんというかダンジョンというより別荘に近い。
迷宮庭園と呼ばれるだけあって壁には美しい装飾品が飾られているし、豪華な椅子やテーブルもある。
ますます分からなくなりました。ここは何の目的で作られたダンジョンなのでしょうか?
とそのときダンジョン内部の警報が鳴った。
まさかもう冒険者に見つかったのでしょうか!?
何の準備も整っていないのに、いま攻めてこられたら無理ゲーです。
ぐっと身構えていると、誰かがのっそりとL字の通路を曲がって現れた。
でてきたのは緑色のオークだった。
噂では冒険者以外にも野生動物や野良モンスターがダンジョンに侵入する事があると聞いてます。
ケットシーのファイヴは唯一の攻撃スキル【ネコパンチ】の射程内に敵を捉える為、じりじりと相手に詰め寄った。
そして相手も応戦体勢にはいる……ことは無かった。
緑色のオークはファイヴと目が合うと、その場に畏まって跪いた。
「おお! 猫魔のダンジョンマスターを見たのは初めてでござる。
拙者、ハンゾーと申す。しがない風来坊のオークでござる。
あてもなく旅をしては用心棒になってDPを稼いでいるでござるよ」
「は、はあ……」
「猫魔のダンジョンマスター殿、どうかお頼み申す。
拙者を雇ってくだされ」
「はいィィィィィ……!?」
予想外の展開になりました。




