第2話 レアガチャ召喚されたのは?
螺旋魔塔。
そこは数多のダンジョンの中でも特に高難易度で、冒険者達から警戒されている最凶の魔界である。
地中に向かって螺旋階段の如く伸びる塔で、今のところ誰一人としてダンジョンマスターの元に辿り着いた者はいない。
その最下層にダンジョンコアが鎮座した広間がある。
「使い魔、召喚メニューを開きなさい」
美しい少女の声が凛として響いた。
「承知しました」
少女のかたわらで宙に漂うクリスタルがしゃべった。青い光線を放つとそこに立体映像の画面が現れた。
【召喚メニュー】
・現在12000DPが溜まっています。
(5000DPを消費してレアガチャ召喚を行う)
少女の白い手が画面の文字に触れた。その瞬間、地面に黄金に輝く幾何学的模様の魔方陣が現れた。
「ついにやるのですね?」
少女に付き従う大きなドラゴンの影が言った。その竜以外にも、大狼と一人の有翼人が少女に寄り添っていた。
キランキラン。
キランキランと透き通った音が鳴り響いて、魔方陣がよりまぶしい光に包まれた。
少女は黙って手のひらで光をさえぎった。
間近に太陽が現れたようなまぶしい光は、だんだんと衰えていった。
「……!?」
少女は無言のままソレを見た。魔方陣の中に横たわる小さな影を。
「これは……!?」
かたわらの竜の影が驚きながらつぶやいた。
「ケットシー?」
初めて少女が口を開いた。
床に倒れていたのは一匹の白猫だった。
白猫は弱弱しく少女を見つめていた。
10秒ほど後に白猫は気を失った。
彼が最後に見たのは、鈍色に輝く重厚な鎧に身をつつんだ金髪のツインテールの少女だった。
「このモンスターをヒーリングルームに運んで。
もうすぐ我が弟ヴァールが冒険者達を連れて此処に来る……」
少女は己に付き従う4体の魔物にささやいた。
「いづれあの儀式に使うのですね」
大きな狼のモンスターが主に言った。
「そうだ。後は頼むぞ」
少女は短く返したあと、その場を静かに去った。
「仰せのままに。我が主マチルダ様……」
背後で大きな竜がうなずいた。
「う~んとねぇ……これは……」
猫獣人族の女の子ミーシャが、カスタマイズされた固有スキル【鑑定】を使った。
外見は黒髪のセミロングでごく普通の女の子だが、なんとネコミミがついている! ちゃんと人間の耳もついている! それに尻尾もついている。
【鑑定】スキルで何かが判明するたびにネコミミが、ぴこぴこと動いた。尻尾もくねくね動いた。
彼女の目の前にはベッドに横たわる一匹の白猫。まぬけな顔で寝ている。
「どう見てもケットシーです」
隣にいたガーゴイルの兄ちゃんが言った。ちなみに彼の名前はアルベルトだ。
「そうよ。鑑定したけどこれはケットシーよ」
ミーシャの鑑定結果が立体映像の画面で表示された。
種族 ケットシー
召喚コスト 1DP
属性 猫・魔物・レア・ネームドモンスター
ランク F
HP 5
MP 1
攻撃力 1
防御力 1
魔力 0
俊敏性 10(戦闘時にのみボーナス加算)
固有スキル 【ネコパンチ】、【鑑定】
「こんなこと言うのもなんだけどさぁ~、
マスターが5000DP費やしてレアガチャ召喚した結果が、
このケットシーじゃねえ……。マスターもがっかりしてるでしょ」
とアルベルトが失笑した。
「でもさ、ケットシーで簡単に手に入るコモンモンスターよね?
それがなんでレアガチャ召喚で現れたのかしら?」
ミーシャがふと疑問に思ったことを口にした。
「それはね、レアガチャ召喚を行うとごく稀にだけど、
普通とはちょっと外見が異なるコモン・アンコモンが現れるときがあるのさ。
レアガチャに情熱を注いでいるマスター達に与えられた努力賞みたいな物だ。
まあ、ある意味ではレアモンスターといえるね」
そういってアルベルトがフフッと笑った。
「ではこの子の場合は普通のケットシーとどこが違うの?」
ミーシャがきょとんとしてたずねる。
「見てごらん。赤い首輪をつけてるよ。
これが普通とは違う外見のコモンって奴だ」
「うそー! ただ赤い首輪をつけてるだけでレア扱い!?」
寝ている白猫の魔物ケットシーには確かに赤い首輪がついている。
「あれ、首輪に何か書いてあるわ!」
ミーシャが首輪に何か書かれているのを発見した。
「なんだ? 宝の在り処とか?」
アルベルトが興味津々で聞いた。
「いえ……なんだか……そうじゃなくて……。
ちょっと読みにくいんですけど……、
何か数字が書いてあるみたい……」
ミーシャがそのかすれた文字を必死に解読しようとした。
「読めたわ! 数字で5て書いてある」
「なんだそれ……」
アルベルトはがっかりした。
「ねえねえ。それよりこの子、目を覚ますわよ」
ミーシャが猫魔の顔をのぞきこんだ。
その猫魔は耳元で騒がれ、実に不満そうに寝返りをうった。
「それじゃあ新人の教育はよろしく~。
俺はダンジョンの警備に戻るからね~」
そう言ってガーゴイルのアルベルトが颯爽と去っていく。
「うにゃ~」
寝ているケットシーが不機嫌そうに鳴いた。
「ほらほら~。早く目を覚ましなさい。
いつまで寝てんのよ! このぐうたら猫!」
と猫獣人族の少女ミーシャが叱りつけた。その刹那にケットシーが目を丸くして飛び起きた。
「にゃああ!」
さぞやびっくりした様子でまぬけな悲鳴をあげた。
「やと目を覚ましたわね、新人君。
これから私がアンタを優秀なケットシーとして、
特訓してやるから覚悟なさい」
そういって猫獣人族の女の子が笑った。