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猫魔ケットシーと異世界ダンジョン ~最弱なケモノは如何にしてダンジョンマスターになれたか~  作者: 深海のレモン
第1章  猫たちの非日常的ダンジョンライフ
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第17話 鋼鉄の令嬢






 少しだけ時間をさかのぼる。


 螺旋魔塔ヘルタースケルターの最下層にあるコアルーム。


 たくさんの機器に囲まれながら、リクライニングソファに足を組んで座っている少女がいた。


 ダンジョンマスターのマチルダである。

 香りの良い紅茶を一口だけ飲んで、ふうっと息を吐いた。

 そして機械のモニターに視線を移した。

 この機械には先ほど侵入して来た冒険者の心電図が表示されている。


 【冒険者ジール】

 生命反応なし


 【冒険者エリック】

 生命反応あり。安定。


 【冒険者ジェイド】

 生命反応あり。安定。


 【冒険者アレックス】

 生命反応あり。安定。


 【冒険者グレン】

 生命反応あり。安定。


 【冒険者バゼル】

 生命反応あり。安定。


 【冒険者ヴァール】

 生命反応なし


 マチルダは紅茶をもう一口飲んでから機械に命令した。



「ヴァールのステータスを表示せよ」




 名前 ヴァール


 レベル85


 クラス タンク


 HP 250


 MP 10


 攻撃力 186


 防御力 107


 魔力 0


 俊敏性 50


 固有スキル 【物理攻撃無効シールドLV3】

       【魔法攻撃無効シールドLV3】

       【灼熱の竜巻(ファイアートルネード)



「ヴァール……この馬鹿弟め……」



 マチルダは静かに悪態をついた。


 今回ダンジョンに侵入してきたのは血のつながった実の弟のヴァールだ。


 マチルダは酒場で飲んだくれて女遊びばかりしてる弟を心の底から軽蔑していた。


 自分の弟である以上はそれなりの品格と地位を持ってほしい。

 そう思い、やる気を起こさせるために今回のゲームを計画した。


 弟のヴァールが自分のダンジョンに侵入してコアルームまでたどり着いたら、報酬として20000ペラ与えると約束した。


 遊ぶ金欲しさにヴァールは了承した。

 今回のゲームで己の性格を悔い改めて欲しかった。

 そしてやがては自分と同じダンジョンマスターになって欲しかった。

 だからあえて鞭を用意した。

 しかし血のつながった実の弟である以上、本気を出すわけにはいかない。

 なので空間編成魔法でコアルームを地下5階に移動させた。

 あえて攻略を簡単にするために。

 そして事前に大量に召喚したFランクとEランクのモンスター達を配備した。

 低ランクの雑魚魔物であれば、死なないだろうと思っていた。


 だがそれは間違っていた。


 弟のヴァールは低ランクのモンスターによって倒された!

 これはマチルダがしばらく味わっていなかった脳汁溢れる興奮を長く続かせた。

 ヴァールとFランクモンスターとの間にはあまりにも能力値に差が開いている。

 果たしてそのモンスターはどうやって弟のヴァールを屠ったのか?

 好奇心をそそられる。


 バアン!


 背後の扉が勢いよく開いて、配下の蜥蜴人間の兵士リザードマン・ソルジャーが、コアルームに入ってきた。


 急いで走ってきたようで息を切らしていたが、主の御前であるがゆえに礼儀をわきまえてその場にひざまずいた。


「監視型モンスターのフライング・アイボールの映像分析処理が済みました」



 配下のリザードマンは頭をさげたまま発言した。



「ほう、それで?」



「フライング・アイボールに記録された映像を解析したところ、貴女様の弟ぎみヴァール殿はダンジョン地下2階の階段付近で倒されたようです」



「そうか……」



 マチルダは配下の言葉に短く返事した。

 そしてダンジョンコアに振り返った。



使い魔(ファミリア)、昨日のモンスターの召喚履歴を表示して」



「承知しました」



 肩の上に浮遊していた黄金のクリスタルが返した。



 【モンスター召喚履歴:一日前】


 レッドゴブリン50体



「レッドゴブリンのステータスを表示」






 種族 レッドゴブリン


 召喚コスト 10DP


 属性 魔物・戦士


 ランク E


 HP 20


 MP 5


 攻撃力 16


 防御力 15


 魔力 3


 俊敏性 12


 固有スキル 特になし






 なるほど。

 地下2階の階段付近にはレッドゴブリンの小隊が配置されていた。

 では弟のヴァールはレッドゴブリンに倒されたのか?


 確かにEランクの弱いモンスターだが、

 集団的戦法を得意としており、徒党を組めばそれなりの力を発揮する。


 熟練の冒険者でも時としてやられる場合がある。



「あの馬鹿弟めが……。

 まさかレッドゴブリンごときに倒されるとは思わなかったわ」



「いえ、その……申し上げにくいのですが……」



 リザードマンは静かに頭をさげたまま、何か言いにくそうにしている。



「どうした、早く申してみよ!」



 マチルダはイライラして声を荒げてしまった。

 リザードマンはおどおどしていたが、やがて意を決して話し始めた。



「申し上げます御主人様……。

 貴女様の弟ぎみをあやめたのはケットシーにございます」



「ケットシー?

 あの小さな猫の魔物の……、

 Fランクの最弱モンスターのケットシーか?」



「そうでございます」



使い魔(ファミリア)、もう一度、昨日のモンスターの召喚履歴を表示して」



 【モンスター召喚履歴:一日前】


 レッドゴブリン50体







 ケットシー1体【レアガチャ召喚で出現】



 画面を下にスクロールすると確かにそこにケットシーの名がある。

 そうか。

 あのときレアガチャ召喚で出現したモンスターだ。


 いくらゲームといえども、雑魚モンスターばかりでは退屈だと思い、1体だけレアモンスターをダンジョンに配置しようと考えた。


 いわゆる隠れボスみたいな存在として……。

 そう思い至って普段はやらないレアガチャ召喚を5000DPでやった。

 そして出現したのがこの猫である。



「それはつまりレッドゴブリン50体とケットシー1体に、

 取り囲まれてヴァールはやられたということか?」



 思わずマチルダが聞き返した。



「いいえ、ケットシーの単体にやられたのでございます」



「だがヴァールは【物理攻撃無効シールドLV3】と、

 【魔法攻撃無効シールドLV3】のスキルを持っていた。

 ケットシーの攻撃など通用するはずがない」



「はっ。その通りです。

 しかしながらズル賢い猫めはブルーアシッドスライムの強酸攻撃で、

 シールドを無効にしたうえ、攻撃力の高い槍を使い、

 背後からバックスタブをきめたようです。それでヴァール殿は……」




「うふふ……」



 マチルダは静かに笑い出した。

 この世はなんと摩訶不思議なことか。



「まさかケットシーごときにシールドが破られるとはな。

 だが弟を殺めた罪は重い。万死に値する。

 猫どもの血でダンジョンを赤く染め、

 死んだヴァールのたむけとしよう。

 精鋭部隊Aランクナンバーズを急いで招集せよ。

 ダンジョン地下1階から地下2階までのモンスターを掃討する」



 その言葉を聞いて驚いたようにリザードマンは透明な瞼でまばたきした。



「仲間を皆殺しにするのですか?」



「あそこにいるのはゲームの為に召喚した奴らで今はもう不要だ。

 殺してかまわん。

 それからケットシーは生け捕りせよ。

 これは最優先事項だ。

 そいつには私がじきじきに礼をする。

 たっぷりと拷問してから殺したい。

 弟を殺めた罪をつぐなってもらおう」



「御意……」



 あまりの恐ろしい言葉にリザードマンはごくりと唾を呑んだ。



「もしもケットシーを取り逃がした場合は、そのときは分かってるな?」



 マチルダがそう言って剣の鞘に手を伸ばした。



「仰せのままに。必ずや猫めをひっとらえてみせます……!」



 リザードマンはガタガタ震えていた。



「よろしい。狩りの時間だ。

 諸君、本能を解き放て。殺戮をはじめよう」


マチルダは口元をつりあげた。






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