第10話 ケットシー初めてのお使いに行きます
こうしてマチルダ様のデュフェンスゲームは幕を閉じた。
なんとかダンジョンマスターを守り抜くことができた。
その次の日、ファイヴはずっと昼寝ばかりしてた。
ワーキャットのミーシャもごろごろと昼寝ばかりしてた。
なぜならふたりとも猫だからです。猫は昼寝が好きです。
「やあみんな、ずいぶんと気楽だね」
ガーゴイル族のアルベルトさんがたずねてきた。石像のくせに相変わらず爽やかな青年風の声です。
「なにかようですか?」
ケットシーのファイヴが聞き返した。
「やあファイヴ。昨日は見事だったね。
いまやゴブリン達の間では君は勇者扱いだよ」
アルベルトが褒めたたえた。
「ケットシーの勇者ですか。なんだか弱そうな響きですね」
そういってファイヴはフフッと笑った。
「ところでさ、僕がここに来たのは君にお使いを頼みたいからだよ。
このダンジョンの外に町があるんだけど、
そこの魔法薬局で回復薬を30個買ってきてほしいんだ。
だって昨日の戦闘でヒーリングルームの回復薬を、
ほとんど使い果たしてしまったから。
急いで薬草を調合して作ったんだが数がぜんぜん足りないよ。
また冒険者が攻めてきたら、
次は回復薬無しで戦うことになるよ」
「それはまずいですね。
でもそれならアルベルトさんが翼で飛んで行ったほうが
早いでしょう?」
とファイヴが返した。
アルベルトは頭をぽりぽりと掻いて言いにくそうにしていた。
「町には人間が多い。
ガーゴイルの自分が行くとなにかと不利でね。
それに経験値を求めてる冒険者達もうろついている。
だから僕が行ったら喧嘩沙汰になるだろう」
とアルベルトが申し訳なさそうにいった。
「そんなこと言ったら僕だって同じですよ」
とファイヴが返した。
「いや。君は猫だから大丈夫さ。人間は猫が好きだからね」
とアルベルトが自信満々に答えた。
猫だから安全なんてどういう理屈でしょうか?
世の中には猫派と犬派の人たちがいるんですよ!
「頼むよ、ファイヴ君。君しかいない」
そう言ってアルベルトさんは土下座した。
「分かりましたから、土下座しないでください」
しかたない。こうなったらお使いに行くしかない。
こうして自分はお使いミッションに参加させられました。
ダンジョンの外に出ると、温かい日差しがむかえてくれた。
雲一つない完璧な青空。
爽やかな春の風が草原をなでる。
小鳥がきれいな声で歌い、小さな動物がダンスする。
なんて美しい世界でしょうか。
とそのときトゥルリ~ンと戦闘開始の効果音が流れた。
きっとどこかで血気盛んな冒険者たちが野生のオオムカデと、戦闘をおっぱじめたのでしょう。
ですが自分には関係ありません。
あえて無視して歩き続けました。
ザザザザザザ……。
あれ?
なにやら正面から大きな影がもの凄いスピードでこちらに迫ってきます。
2メートルくらいあるでしょうか?
巨大な猪のバケモノが自分にむかって突進して来ます……!
どうやら戦闘開始したのは冒険者達ではなくて自分のようです。
でも慌ててはいけません。
落ち着いて【鑑定】スキルで相手を見極めましょう。
種族 ジャイアントボア
召喚コスト 13DP
属性 猪・魔物・コモン
ランク D
HP 37
MP 0
攻撃力 25
防御力 18
魔力 0
俊敏性 31
固有スキル 【猪突猛進】
【猪突猛進】
対象の敵一体に体当たりする。
体当たりされた相手はノックダウンしてしばらくの間、
いかなる行動もできなくなる。
立体映像の画面に鑑定結果が表示される。
これはまずいです。
回れ右して猛ダッシュで草原を駆け抜けました。
町から遠ざかってしまったが、まずはこいつを倒さないといけません。
さて自分のステータスを確認しましょう。
名前 ファイヴ
種族 ケットシー
召喚コスト 1DP
属性 猫・魔物・レア・ネームドモンスター
ランク F
HP 5
MP 1
攻撃力 1
防御力 1
魔力 0
俊敏性 10(戦闘時にのみボーナス加算)
固有スキル 【ネコパンチ】、【鑑定】
はい無理です。
こうなったら猫魔ケットシーの究極奥義を使うしかありません。
その名も【敵前逃亡】!
「ブヒイイイイイイイ!」
ズドドドドドド!
当たり前ですがジャイアントボアも追ってきました。
あの巨大猪の体は2トントラック並みの威圧感があります。
奴に轢かれたら異世界にトラック転生できるくらいの威圧感です。
小さな木をなぎ倒しながら迫ってきたので、
跳び箱のように真上にジャンプしてかわしました。
ジャイアントボアはそのまま30メートルかけてブレーキすると、
ふたたび方向転換して迫ってきます。
なぜこいつは僕に固執するのでしょうか?
その理由はなんとなく分かります。
背中に羽織っている赤いマントのせいです。
【装備画面】
防具 胴 真紅のマント DEF+1
防具 足 赤い長靴 DEF+1
この猪は赤い物を見ると興奮して襲ってくるようです。
だからマントを捨てれば、アイツも怒りが冷めて自分から離れていくでしょう。
しかしそれはできません。
このマントは猫魔ケットシーの標準装備だからです。
マントを羽織ってないケットシーなど、ソーセージの入っていないホットドッグみたいなものです!
ケットシーの誇りを捨てるわけにはいきません。
ジャイアントボアはじりじりと距離を詰めてきます。
距離にして10メートル。
なんだかお使いミッションどころではなくなりました。
奴は自分を逃がしてくれそうにありません。
これもモンスター同士の宿命です。
「さあ、どこからでもかかってきなさい!」
と勇ましく叫んでみました。
ジャイアントボアはトラックのように勢い良く突っ込んできます。
やばいです。
死にそうです……。




