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「お、俺はある馬鹿な女を探してるんだ。そいつが俺の大事なものを奪ったんだ。。。
それがないと俺がやられる。。ああああああ殺されるっっ」
最後は助けを求めるような叫びとなった。
「さっぱりわからないね。そもそもまっとうに生きてるような人間じゃないあんたには
いい天罰ってもんだろう。
その娘も覚悟の上だったんじゃないのか。お前さんから逃げるためのよ」
老婆にはお見通しのように思えた。
図星だったので一瞬本能でにらんでしまいそうになるが、
思い出し恐怖が蘇り下を向いて絶望を実感せざるを得なかった。
「手を止めるな、早く掃除を済ませるのじゃ」
老婆にいわれ止めていた手を動かし素直に床をきれいにしていく。
「お前名前はなんていうんだ?
それと3つの選択肢をお前にやろう。
一つ目お前の問題相手の奴らから逃がしてやる。見つからないようにな。
二つ目問題相手との仲裁に入ってやって二度とお前に手を出さないようにしてやろう。
三つ目まあこれはなんの解決にもならないだろうがお前が無くしたというものを見つけてやろう。
ただしこれらを選ぶには条件がある。今後二度と犯罪に手を出すな。誰かにさせるもの含めてだ。
弱いものをむやみに傷つけるのもだめだ。そして最後のが一番厳しいが傍観もだめだ。
守らなかった場合はどうなるかは秘密じゃが罰は受けることになるということだけ教えておこう。
まあ選ばなくてもいいのじゃけど。
掃除が終わったんならすぐに出て行ってくれ
助ける義理もないからな」
そういうと老婆は店の奥に戻るよう背をむけた。
「本当に助けてくれるのか?本当か?」
カラ~ン。。。男はモップを持ってる手の力が緩み倒してしまった。
「三つの選択肢しか与えないしそれには条件を必ず守らなくちゃいけないがね。
そう言ってるじゃろう。」
老婆は呆れたように答えると男のほうに体を向き直し、再度問いかけた。
「名前を名乗れ、そして一つを選び条件をのむことを誓うのじゃ。」
男は老婆のことをすがるように見つめ
「俺の名前はHagiwara yukito。選択。。。えっと。。」
男は助けてほしいあまりに3つの選択がごちゃ混ぜになっている自分に気が付いた。
「はあ。。。」
老婆は溜息を一つついた後先ほどの選択肢と条件を男に告げた。
男は必死に考えた。
一つ目は逃がしてもらってもここから離れたくないから無理だ。
二つ目は兄貴たちにボコられずに済むがこれからの小遣い稼ぎをどうするかだ。
あ、でも条件があったな。。
まあなに、しばらく大人しくしていたらばあさんも忘れるだろうし
ずっと俺を監視してるわけじゃないから合ってないようなものじゃないか
「三つ目にする。探してほしい奪われたもの。でも夜には兄貴に渡さなくちゃいけないんだ。
時間がない。。どうしたらいいんだ。」
そのころ店の奥に居た女は外での物の壊れる音に目が覚めソファの後ろへを体を隠しながらガタガタと体を震わせていた。
「なんで盗んだんだろう。警察に相談しても被害届すら出させてくれなかった。
sayakaのお父さんが署長をしている以上私はここに居たら地獄・・・
助けて。。。どうしたら。。どうしたら。。」
sayakaとは先ほど男に別れを告げて去っていった女のことである。
署長を父に持つsayakaはとにかく甘やかされていたため、かなりのわがままでしかも素行が悪くなっていった。
家族の問題が明るみに出ると自分の立場も危ういために父は娘の問題をすべてもみ消してきたのだ。
sayakaはそれを愛情だと思い、何をしても愛する娘のためにどうにかしてくれる父がいる以上無敵だと考えているのであった。
ただ今回はまずかった。
ソファの裏でガタガタと今もずっと震えている女ayaをいじめぬいて恐怖を植え付けると
奴隷のように美人局の道具として扱い、さらにはyukitoが行っていた薬の受け渡しもさせていたのである。
ayaは地味で大人しい優等生タイプなので職質をかけられることもなければ
あやしい男と話していても絡まれてかわいそう位にしか思われないので
まさか運び屋なんてするとは誰も思わない。
だがもう限界だった。
ayaは初めて抵抗しやめたいと告げて二人のすきをみて
顧客リストと商売品を盗んで逃げたのだ。
鞄に入れたそれらがあると逃げるのに邪魔なのでコインロッカーに鞄ごと入れ
街を逃げ回っていたところで疲れ果てこの店にたどり着いたのだ。
ふとポケットに手を入れロッカーキーを確認しようとしたのだが
入っているはずのキーがなくなっている。
aya頭の中でずっと自分の行動を考えた。
確かにこの店に入った時には、いやの部屋に入った時にはあった。
絶望という文字が頭に大きく浮かんだ。
店のほうでは3つ目を選び条件を約束したyukitoに老婆が尋ねた。
「3つ目じゃな。じゃあお前の探しているのはなんだか言ってみな、ただし一つでも嘘があればこの話はなかったことにするからな」
yukitoは希望の光が見えたことで少し欲をかいて金も追加しようとしたのだが
もし老婆が何を探しているのかを知っていて嘘をついたことがばれた時
店を出ることができないのじゃないかと恐怖がよぎった。
いつもならわかるわけないと思うところだが早くこの店から出たい、、
でもなくしたものが見つかるのなら俺は生きていけると確信し。
「顧客リストと受け渡し商品。。これをちゃんと渡したら足を洗う。条件を守る。だから・・」
老婆は薄目で男をうかがうと。一つ溜息をついた後
「条件は守るのじゃよ。わかったな」
そういうとどこからマジシャンのように何も持っていないはずの左手に何か入っているビニール袋を男のほうに突き出すと
「ほら確認してみな」
男に手渡した。
ビニール袋にはホープの文字だ。店のものだろうと思う。
男は規格外の老婆に呆然としていたが差し出された中身を見て驚いた。
確かに盗まれ探しているものが入っているのだ。
「ありがとう、これはどこで、なんで。。。」
「企業秘密じゃよ。ちなみにお前さんは今日バーでの待ち合わせじゃろう。
そこのバーテンは私の息子じゃからな。ちゃんと今後もどうするか見届けるからな
条件を守るのじゃよ。
さあおいき、もうここには用はないじゃろ。モップはそこに置いとけばいい
さあ、帰った帰った。」
老婆はそういうと男を用済みのように店から追い出した。
男ももうここには用もないし二度と来ることも会うこともないだろうと店を出るや
軽やかな足取りで立ち去って行った。
「さてどうなるのか。。吉と出るか凶と出るか。。」
ぼそりとつぶやいた老婆はそのまま店の奥へを姿を消していった。