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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
序章『親衛隊の脅威、ガラン・G・ブレイカー』
9/55

8 来ないのかよ。<エキシビション開幕>

「勝ちました」

「早えよ」


 ――5分と待たなかった。


 折角覚悟を決めて[かくまう]ことを決めたのに。

 いや、本当なら勝利して嬉しいはずだけれど、何だか不完全燃焼。

 屋内で待機していたから戦闘は見えていない。けれどそれだけ早くに戦いを終わらせている辺り、ヴァルキリー・ミーアは外見だけではなくて、実力も本物だろう。


「とはいえ、奴はしばらくこの周辺に隠れるつもりのご様子です。やはり帰すための手立てを考えなくてはなりません。なんなら土に還してやってもいいような気もございますが」

「法治国家で殺すのは勘弁してくれ。俺まで面倒ごとに巻き込まれる」

「我が星も王政とはいえ法治国家ですがね。現状、できる限り峰打ちで穏便に済ませております」


 ちょっと待って。家の外で爆発音を響かせておいて峰打ちて。

 完全に半殺しじゃん……殺意を持っていて峰打ちはない。


「けれどこの調子では、また数日以内に戻って来るはずでございます」

「そりゃ困ったな……」


 ミーアにも困っているけれど、それよりも追っ手だ。そもそも戻ってくるよりも、これから数多の追っ手がこの家に来ること自体が迷惑この上ないけれど。

 まあ契約は既に交わされた。既にその点についてどうこう言う筋合いは自分にない。


「ところで、レイル様は……?」

「ああ、隠れてもらってる」

「レイル様あああああああああああああ!!」

「まだ何も話してないぞ!?」


 猪突猛進が過ぎる。牛かお前は。モー進か。

 折角ミーアを突破された際の予行演習を考えていたのに。


「あは、あははは、レイル様、レイル様ああああああああ♥」

「気持ち悪い声で笑うな!!」


 声のトーンが完全に快楽殺人犯のそれだ。語尾に黒いハートでも付いていそうな狂気を感じる……。

 何故彼女はレイルを探すとなるとここまで気持ち悪くなるのか。探索行動に賭ける情熱が凄まじ過ぎやしないか。

 いや、自分から探してくれるこの状況は、寧ろ好都合なのでは。レイルに対して自分が出した行動が正しかったのかが分かるし。

 それに、暴走してくれているなら他の連中よりも厄介なはず。ミーア以上の性格は中々居ないだろうから。


「ミーア、ミッションだ!! レイルを見つけてみろ!!」

「うふ、うふふふふふふふふ仰らなくとも!!」


 やっぱり怖いよこの人。

 さっきから開きっぱなしの靴箱を覗き込むのに留まらず、靴の中身まで丹念に確認してるじゃないか。

 匂いまで念入りに嗅ぐな。しかもめっちゃ臭そうな顔してるし……分かりきったことだろそれ。


「…………」

「驚いた顔してこっち見るな猫かお前は」


 フレーメン反応かよ。

 さっきまでのヴァルキリーらしき威厳はどうした。


「……落ち着きました」

「よろしい」


 親父の靴は効果テキメン。邪な欲求も一発で掻き消されるようだ。

 ミーアも落ち着いてくれた事だし、頭を使って考えて貰おうかな。


「しかし、何処へ隠れたのでしょう……」

「結構分かりづらい場所に隠したし、結構難しいと思うけれど」

「ふむぅ……自慢の嗅覚もさっきの毒ガスでやられてしまいましたし、冷静に行動をいたします」


 毒ガスではないけどな。そんなに臭かったのか。

 でもまあ……自業自得だし、変態には寧ろ良い薬か。


「時に、追っ手がやってきたらどのように対処なさるおつもりです?」

「まずは交渉に持ち込んで、レイルを15分以内で探させる。もし見つけられなかったらご退場願うってやり方を取るつもり」

「なるほど……しかし、それだと交渉に応じて頂けない場合がございます。そうなってしまったら如何を?」

「そうならないために、相手が勝った場合に有利な条件を与えるんだ」

「なるほど、冴えていられますね」

「凡人なりに考えた結果だよ」


 自分を抑えてそう言ってみたものの、本当は褒められてとても嬉しかったりする。

 実際、短い時間の中で考えるのはかなり苦労したし、それに焦った。焦るときほと真剣に考えると、良い物が浮かぶのかもしれない。普段の自分ならこんなゲームは到底思いつかないし。


「……それで、あてくしが見つけたら、どんなものを頂けるんです?」


 目が輝いている。

 手を合わせて腰をくねらせていて、報酬を楽しみにしていることが窺える。


「これはあくまで予行演習だから、お前には何も無しだよ」

「しゅん……」


 とても悲しそうだ。


「じゃあ、何かモチベーションになるものってあるのか?」

「レイル様と一緒に眠る権利を頂ければと……」


 そう来たか。いや、何となくそうだろうなとは思っていた。

 レイルを溺愛するほどの彼女ならば、そのような行動を取らないはずが無い。だが、ミーアにはできる限り真剣に取り組んでもらいたいというのも本音だ。


 追っ手は本気でやるから追っ手なのであって、こちらの陣営が本気を出して取り組まなかったら、演習の意味も無い。ならばここは一つ、ミーアの思いを飲んであげてもいいのではないか。


「それは出来ないけどさ……ミーアってさ、レイルと一緒に入浴したことあるの?」

「共に身体を流し合ったことはございません……いつか油断なさったときに入ろうとは思ってるのですが……」


 何気にとんでもないことを言ってないか……?

 でも、それなら俺としても好都合だ。


「冷静に探すこと」

「……何がでしょう」

「それらの条件を守ったら、レイルとの入浴を許可する」

「貴方様はこれより天使でございます。光栄の至り」


 キューピット的な意味なのか……?

 彼女は俺の前で片膝をついて、両手での握手をしてくる。

 レイルとの入浴がそこまで嬉しいのかと思うと不思議なものだが、彼女にとってはいい甘味料となるのだろう。丁度よかった。


 ひっそりとした謎めいた暗躍のもと、エキシビションマッチがここに開幕した。

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