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地下に隠された秘密とそれに関するロマンについて

 奇想天外という言葉は、自分には見合わないと思っていた。


 それだけ平凡な日常を謳歌していたことに他ならないのだが、この夏休みを以って、奇しくも自分に見合う言葉へと変わってしまったのかもしれない。


 ここに居るのは何者だろうか。


 宇宙人が4人と、別の世界線からやってきたと自称する人間が一人。


 唯一まともなのはこの世界で生まれた地球人であり、この星野家の長男である自分、星野ルオンただ一人である。


 レイル。

 彼女は宇宙人であり、惑星ライフェリスからやってきた王女様。


 家出をしてきているため王様らから派遣される追っ手から逃れるために、協力を依頼された。


 最初はその過度な迫り様にたじろぐ日々だったが、今思えば彼女なりに必死だったからこそだろう。


 家事を少しずつ教えているが、その世間知らずっぷりにただ驚かされるばかり。


 ミーア。

 同じくライフェリス人。


 レイルがやってきた同日に何故か「匂い」を嗅ぎ分けてやって来た生粋のストーk……最初の仲間。


 レイル親衛隊のNo.1で、持ち味は剣技。


 ファル。

 ライフェリス人。


 スピードが持ち味で、空気読みが上手い。

 だがミーアに秒でやられていた。


 かなり甘え上手の少年で、まるで弟のようだと思う。


 エル=メイダ。

 何故かフルネームで呼びたくなる。ライフェリス人。


 魔術に長けており、その実力はミーアと同等かそれ以上。

 怪しいけど最大の味方だと思う。


 『運命が一つでないと分かったから、行く末を見守る』というついてくる動機もなんかこう、らしさがある。


 そして、朝倉トモヤ。

 異世界からやって来たという、ラノベみたいなことを平然とやってのけた科学者。


 年齢は俺より若いようだが、それに見合わない知識量と実力を兼ね備えている……のだろうか。


 元々生きていた世界が窮地に立たされているようで、助けるために資材を集めにこの世界へやってきたとのこと。


 いまいち、この朝倉だけはまだ信用しきれていない。

 何故なら胡散臭いからである。


 天才科学者によくあるパターンとして、自身の私利私欲のために敵側へ寝返ってしまったり、或いは元からこちらの味方ではないことだったり……。


 まだ信用に値する、決定的な何かが彼には無いのだろうか。


 リビングにて、シャワー上がりの朝倉をじっと見つめながら思いに耽る。


「星野君ただ一人かな?」

「ああ。全員自由に過ごしている」


 タオルを首に巻き、ご丁寧に新しめな研究服を新たに羽織っている。

 それでも色づきや焦げのようなものは付いているが。


 その視線に気づいた彼もまた、こちらに向けて口を開く。


「睨んでないかい?」

「いや、別に……」

「信用しきれていないのは分かるよ。突然の来訪だし、出会いが戦いだからね」

「それはファルもエルも同じはずなんだけどな」


 そういうことではない気がする。

 条件としてはファルも戦いから始まったし、エルについては強大な敵として戦った。


 確かに朝倉も戦いのようなものからが始まりではあるけれど、自分の中にあるモヤモヤの根源はきっとそれではない。


「ふむ……とするとあれかな。君の中にある偏見が邪魔をしていると」

「そうかもしれないな」

「だとするなら、無理に受け入れろとは言わないさ。人間には好き嫌いがあって当然であるし、受け入れられるまでにかかる時間も、その相性によって変わる。君にとっての僕はその相性が悪かっただけってことだ」


 囁くように、そして諭すように言われる。

 俺自身の意見を認めてくれて、その上で相性の悪さを指摘してくれている。


 彼といて、居心地の良さを初めて感じた気がする。


「まあ、目的を果たすまでは辛抱して欲しい。それまでは地下にでも居させてもらうよ」


 地下……。


「そうだ、地下。あそこにある本は、一体何なの?」

「食い気味だね。私もまだ調査段階だから何とも言い難いが……」


 曰く、何らかの記録や日誌、加えてそれにまつわる参考文献のようなものがあるらしい。


 中身や内容まではまだ判断がつかず、その理由がこの世や彼の世の文字ではないことが挙げられる。


 少なくとも彼の世界とこの世界で文字は同じようなのだが、それにしても見たことはない文字だったという。


「思うに論文だね。君のご両親は一体何をしているんだい」

「母親はシナリオライター。父親は教師らしい」


 あの図書館が家族のものだとは到底思えない。

 だけど家の地下にあるというのは紛れもない事実。


 何故あんな場所に見知らぬ言語の本がン百冊もあるのか。


 また、ドキドキが止まらなくなってきた。

 ロマンを感じて仕方がない。

 自分の家にここまでの謎があると誰が思うだろうか。


 誰が何のためにこの部屋を作ったのか。

 そしてあそこにある本が一体何なのか。


 好奇心。そして探究心が燃えたぎる。

 思わず俺は朝倉の両手をとり、半ば強引に握手をする。


「地下で手伝えることがあったら言って欲しい」

「おぉ、わぁ、唐突だねぇ。いいよ」


 ブンブンと握手した手を振り回す。

 交渉成立。契約締結。


「解読にはどれぐらいかかる?」

「具体的な数字はわからんが、今月中に判るかもね」

「長いな……」

「長いもんか。これでも短い方だよ」


 レイル達が来てはや一週間ほどが経過したが、この1週間は途方もないほどに長く感じた。


 だからこそ一月という期間があまりに長く感じてしまう。


「途方もないと感じるのは、何でだろうね?」

「奇想天外が多すぎるからだと思う」

「ほほう。君からしたら現状すら異様だろうからね」

「異様すら慣れたよ、もう」


 最近やや白髪が増えたように思う。

 他人から気にされるほどではないが、個人的な体感で。

 苦労している人は白髪が増えるとよく聞くが、まさか自分がそうなろうとは。


 朝倉は深いため息をつく自分を鼻で笑いながら、「そうか」とこぼすと、廊下に身体を向ける。

 そのままこちらを見つつ言う。


「僕は君たちとは基本別行動だ。王女さまは君たちが守りなさい」

「そんな気はしたよ」


 呆れ顔の俺を尻目に、朝倉は二階へと上がっていった。

 いや、正確には地下へと降りていくのだろう。


 ふと、自分がこの僅か数十秒余りで、朝倉に対する不信感が拭われていることに気づく。


 順応性が高いのか、実は警戒心がないのか。

 それとも、朝倉の話術が凄まじいのか。


 リビングに一人残される中、俺はただ朝倉に関心を寄せていた。


 それが何だか悔しいようにも感じて、少しモヤモヤとした気持ちにもなってしまった。

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