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0 少女の瞳 ―ステアード・ユア・ドリーム―
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――夢を見ていました。
それは、私にとって理想の世界。
『平凡ならざる平凡』を過ごし続ける私には至福の時間。民にとっての平凡とはすなわち、私にとっての非凡です。
非凡こそが私の理想で、夢は苦痛が決まり切ったこの人生とは対称的で。
ただ屋内で、ただのんびりと。
映像を見たり、音楽を聴いたり、冒険したり、お買い物をしたり、家事をしたり、友達と談笑していたりして。
自発的に、何より楽しく。
やりたいことがあれば、倫理さえ問題が無ければ、何でも行動に移していい。
お話でしか聞いたことのない『理想の平凡』がそこにはありました。
夢を見なければ決して視られないような、味わえないような世界。
そのような生活が本当に出来たとしたら、私はどれほど幸福になれるのでしょう。
いいえ。理想が訪れることはありません。
未来の王女として生まれてしまった私に、自由の権利はないのですから。
けれど、ええ。
もしも一時でも『理想の平凡』がもたらされるとしたら――。
私は喜んで、王家を放棄いたします。




