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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
プロローグ『飽き飽きとした日々に変化を求めて。』
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4 プリーズヘルプミー。

 レイル探しを全部彼女に任せたなら、家中を滅茶苦茶にされてしまう。先ほどの発狂を見ていたらまず間違いないし、絶対にそれだけは避けたい。

 これがもし仮に自分に無関係の領域だったなら、協力する必要も無かっただろう。けれど残念ながらこれは自分のテリトリー内で起きていること。


 こうなれば自分も協力して、できるだけ穏便に……被害が最小限で済むように進めるしかない。


「しかし、レイル様はどちらへ行かれたのでしょう」

「うーん、そうは言われてもなあ……手あたり次第に探すか」


 手がかりがある訳でもないし、適当に総当たりしたほうが早いように思う。ただし荒らさない程度に……。

 家もそこまで広い訳では無いし、全部を探そうと思えばその内見つかるはず。ゴキブ……黒い生き物を見つけるよりかは簡単だ。多分。


「どこから探すかな」

「お風呂見てよろしいですか?」

「……別にいいけど」


 なんか嫌な予感しかしないんだけど。

 何故わざわざ最初に風呂を選ぶのか。倉庫やトイレ(多分無いと思うけど)だってあるのに。


「うへ……光栄の至り」


 涎が垂れている。汚いなあ……。

 ん、よだれ?


 えっ。まさかと思うけど、この人ラッキースケベを狙ってたりする?

 えっ、嘘でしょう? 頭おかしいんじゃないの?


 想像できないんだけど。

 何より隠れるにあたってまず全裸になることが無いと思う。この時間じゃ水滴もはけてるから服を着て隠れると思うけど……。

 というか風呂で隠れられるのって浴槽しか無くないか……?


 しょうもないことを考えている内に風呂場に着いてしまった。

 でもまさか居る訳がないだろうけどなぁ。などと適当に思いつつノブに手をかける。


「待った」

「へ?」


 見ると狂戦士は殺意の眼差しだった。仮に武器を持っていたならそのまま振り下ろしかねないぐらいの禍々しい殺気だ……。

 そうして俺が気を取られている隙に、俺の手をノブから突き放しにかかる。

 

「レイル様がここに居られたらどうなるとお思いですか? そりゃもう全裸が露わになって大変なことになってしまいますよね? そういったラッキースケベに向かっていくのが地球の習わしであるということは存じておりますが、しかしそれではあてくしの気持ちは容認できません。それに仮にも縁の無い男性が入られるのは不適切かつ不健全であり道徳や倫理の面で敵を増やすように感じるのですが、いかがでしょうか!?」

「そんな必死に熱弁されても困るんだけど!?」


 自分が嫌だからやめてくれってことじゃんそれ!?

 多分『敵』ってお前のことだろ!? 自意識過剰の塊かよ恐いよっ!

 というかラッキースケベが習わしとか意味分からないから!! 一体何に影響されてるんだこの人……。


 でも……まあその、確かに女子が入っているかもしれない中で開くのは良くないかもな……。配慮に欠けていた。

 もし仮にレイルが居たとして、それを俺が見てしまったなら……。


 …………。


 って、だから何で全裸であること前提なんだよ俺……。

 しかもここに居る確証も何も無いし、なんならもっと上手いこと隠れられる場所が――。


「やあああああミーア!? どうしてここに!?」

「ふふふ、お遊びはここまでですよ、レイル様……」

「いや居るのかよ!?」


 どうなってるんだよレイル!?

 うわあ、ええと、なんだか良く分からないけど俺が開けなくて良かった……のか?

 状況を確認したいけど、とりあえず引っ込んでいることにする。狂戦士に何言われるか分かったもんじゃないし。最悪殺される気がするし。


「うぅ……ここならバレないと思ったのに」

「隠れてるつもりだったの!? どちらかというと調べる対象のトップ5ぐらいだよ!!」


 はああまた貧血になりそう。

 ……それにしても、流石に場所選び甘すぎない? 焦っていたから考えが上手く纏まらなかったとか?

 はたまた元から隠れるつもりは無くて、単純にシャワーを浴びてから帰るつもりだったのか。いや、それだとわざわざ隠れるように消えた理由が分からないよな……。

 

「レイル様、お着替えを。何も着られていないのはお身体に毒ですよ」

「あ、ありがとう」

「全裸だったのかよ!?」


 いや本当に……本当に何なの……。

 ここまで自分の想像を上回るようなトンデモ行動をしてくるなんて……。

 もしかしてリスクを考慮した動きがあまり出来ないのかな? それともあえて……?

 

「家主さま。申し訳ありませんが、先ほどのお部屋で少しお話を」

「あ……ああ、うん。そうだね……」


 ――でも、もう余計な事は考えなくていいんだな。

 だって、ここからは言うなれば物語の伏線を回収する時間。迎えが来たんだからこれ以上事がややこしくなることはない。後は彼女らが俺のことを知った経緯を聞き出して終わりだ……。


 …………。


 いやいや、空しさがあるのはきっと気のせいだ。

 別に寂しい気持ちになってきた訳ではないし、居なくなったら平和な日が戻ってくる。たった一日だけの「未知との遭遇」として自分の記憶に刻まれる程度の時間。今日が特別なだけで、きっとこれ以上とんでもないことに巻き込まれることはないはずなんだ。清々する。


 ただ、少しだけ。ほんの少しだけ楽しいと思えた気がする。毎日続くのは御免だけど、ただ一日限りならば、楽しいと思えるようなことばかりだった。改めて考えると、だけど。


 別れが惜しいという訳ではない。ただ、自分の中でモヤが残るだけ……。

 これでいい。ああ、楽しかった。


 キッチンに着く頃には、折り合いもついてきた。


「レイル様、一つお聞きします。滞在なさるおつもりで?」

「ええ、そのつもり」


 ……は?


「今、なんて言った?」

「はい。私レイルはルオンさんに[かくまって]もらおうと」

「おいぃぃぃい!! 帰るんじゃないのかよ!?」


 折角自分の中で折り合いを付けようとしたのに!!

 てっきり、この狂戦士がレイルを連れ帰るつもりなのかと思っていた。でもどうやら実態は真逆で、レイルを連れ戻す気は微塵も無く、ただただこの家で仕えるつもりらしい……。


 ああ、考えるだけで頭が痛い。


 これで終わりだと思っていたのに……。

 帰られる惜しい気持ちもあったのは事実だけど、それは別れが見えたから思えたこと。

 ゴールテープが急に遠のいたマラソンなんて苦痛以外の何物でもないよ……。


「ミーアが来たので、これで滞在しやすくなりました」

「あっ……そうでした。家主様、名乗るのが遅れて大変失礼を。ミーア=レクト=フレネセウロと申します」

「ああ、うん……覚えておく」


 素直に受け入れられないけれど、もうこうなっては追い出すことも出来ない。


 はあ、こうなればヤケだ。

 目まぐるしく物事が切り替わることには慣れていない。

 だから今は流されよう。全ての判断は本当の家主がすべきだから……。


 ねえ……。

 父さん、母さん……早く帰ってきて……。

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