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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
第三章第一編『未知との遭遇(いろんな意味で)』
46/55

12 揺らぎ。そして。

    ☆★☆


「――まあそういうことだ。しばらくよろしく頼むよ」

「はぁ」

「シャワーを借してもらうよ」

「あー、うん」


 その汚れた白衣を纏った後ろ姿を見せ、俺の部屋を立ち去る少年(?)。

 朝倉トモヤ。それが彼の名前らしい。

 ぶっ飛んだ話すぎて脳のキャパシティが限界を迎えそうではあるけれど、どうやら彼は別の世界から来たとかなんとか。


 元々の世界では姿の通り科学者として生きていたらしいけれど、ある目的のためにこの世界にやってきたと。

 科学者にしたって背が低い。顔も幼い。

 歳が幾つなのか気になったが「別世界なんだから個体が違う。ゆえにこれが普通なのかもしれない」と思うし、その世界のタブーになってはいかんと思い聞くのをやめた。


 しかし……レイルという異星人の来訪に始まり、今度は朝倉という別世界からの来訪者ときた。

 最早天文学的な確率越えてきているのでは。不可説不可説転。

 宇宙人が出てきただけで頭がおかしくなりそうな話。人によっては狂ってしまうだろうに、そこに別次元からの来訪者が出てきてみろ。頭がおかしくなりそうだ。


「頭がおかしくなりそうだ……」

「ルオンさん、既におかしいと思いますよ」

「やけに慌てた様子で戻って来られましたので、何事かと思ったら……」


 一国の王女だけでなく、武装を解除せんとするヴァルキリーにも呆れられた。

 思い返してみてもたしかに、自分の慌てふためき様は誰の心臓にも良くはないな……。

 というか俺はなんであんなに焦っていたんだ。多少なりとも焦ることはあれど、半ば暴走して戻ってくるのは流石に自分らしくない。


 少しずつ精神がおかしくなってきているのか、それとも何か別の……。

 別の……。


「――ひょっとして、エルさ」

「じゃ?」

「こう……他人の感情をコントロールすることもできたりする?」


 いわゆる物理魔法でぶっ叩かれたことを思い出した。

 あの瞬間に熱が冷めたのと同じように、何かエルが特殊な何かを唱えたのかもしれない。


「お前さんはあの場に居ない方が良かったからの、早めに退散させたのじゃ。杞憂に終わったとはいえ、急がせるに越したことはなかろう?」

「確かに」


 俺があの場に居たとして、出来ることはほぼ無い。それこそ隠れているぐらいしか。どんなお荷物だ。

 早くにミーアを呼んでより強力な陣形を組めるようにするのが最適解だったし、実際エルは後押ししていたんだ。


 エル、想像以上に凄い人なのでは。

 いや凄いのは知っているけれど、頭の回転や先を見据えた行動が上手いように思う。


「何事も無くて安心いたしました。我々はリビングデッドに戻ります」

「ミーア、勝手に怪物にしないでください。ルオンさんはしばらくゆっくりされてはいかがでしょう。お顔はお世辞にも良いとは言えないです」

「それ罵倒してない?」

「顔色のことですよ~」

「あぁ~~……」


 二人とも部屋から出て行った。

 あらぬ誤解をしてしまうほどに疲れている……ということなのかな、俺。

 だって今更レイルが俺をそんな罵倒するか? 冷静に考えて。

 というか自分の顔中の下ぐらいだと思うんだけど。 ……ど。


 ……あれ、エルも居ない。

 ……また地下に降りたのかな。窓が開いている様子もないし、外へ出ることは考えられない。

 エルがもしも瞬間移動の魔術を使えるなら話は変わってくるけれど。


 眩しいな。

 涼しいし、窓とカーテン閉めておこう。


 エルが何をする気なのかは解らないけど、俺らにとって悪さをしないのなら別に良いか。置いてある本が気になるのかもしれないし。


 また後で。今は何かを考える余裕もあまりない。それだけの衝撃だったのだ。休んだっていいじゃないか。


 どうして自分の部屋の一角にあの階段が作られていたのかは分からない。母さんや父さんが何かを隠していたのか。

 まだそれほど遅い時間ではないけれど、地下の空気が部屋を涼しくしてくれている。


 この場にいる全員にとりあえず出て行ってもらって、今は休もう。

 温度差やら状況で体力が奪われてしまっているようだし、自分が疲労を感じているならば休むべきだ。


 朝倉には注意を払う必要があるにせよ、敵対の意思がない以上詮索しすぎるのも野暮だろう。

 何をする気なのか、それは今気にすべきことでは無いだろうから。


 …………。


 俺は一体、どこを目指しているんだろうな。

 これまでただ無鉄砲にレイルを守ることだけ考えて、この夏を過ごしてきている。

 だけどその先に待っているのは一体何だ?


≪星と星の衝突。少年のエゴにより二つを破滅へと導く≫


 魔術師であり、敵としてのエル=メイダの言葉が脳に響く。

 星と星の衝突。


 これがもし仮に戦争であったとするなら。


 SFによくあるエイリアンとの宇宙戦争を思い浮かべるが、実態は多分違う。レイル達を見ているとそれを実感する。

 向こう側からやってくる「人類」にも意思があって、思想があって、家族や仲間がいる。

 それは人間同士の戦争と何ら変わりはない。


 衝突のカギを握るのは恐らくレイルと、追っ手を派遣してくる王様にある。

 レイルはよく、王様のことをボロクソに言っている。

 だが、王様も王様なりに考えて動いているのではないか。

 そうでなければ国を率いるような存在になることなんて無い。


 とすると、根本的な原因は何なんだろうな。喧嘩か何かがあって家出をしてきたのだろうか。

 主な原因がつかめたとしたら、解決の糸口が見える気がするのだけれど。


 冷静に考えるとそんな気がしてならなくなってきた。

 いや、どちらにしても、自分の気持ちを変える訳にはいかない。自分の思想や行動は一貫しなければ。

 それがレイルとの[かくまう]という約束でもあるし、守っているミーア達にも悪い。


 自分は自分なりにレイルを支える。それが俺に出来る事だろうから。

 考えてもみろ。俺はあくまで普通の人間だ。戦える戦士でもなければ、魔術の類を司っているわけでもない。高速の力もない。

 ただ普通の視点から出来ることを考えるだけだ。家の中で。


 ……そういやファルどこ行ったんだろう。下で寝てるのかな。

 目を閉じている中で気にしていても仕方がない。というより、目を開いたり、身体を動かす気になれない。みんなには悪いけれど、今のうちにしっかり寝ておこう。


 いつまた追っ手が来るか分からないからな……。

 


 落ちる。おやすみルオン君。と誰かの声が聞こえたような気がした。

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