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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
第三章第一編『未知との遭遇(いろんな意味で)』
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10 導かれし者。

 地上とは違い、地下は不思議と冷えている。

 何が影響して冷たいのかは分からないが、地上よりも過ごしやすく快適なのは確かだ。


 ……少し冷え過ぎかもしれない。半袖のためか二の腕辺りが冷えて仕方が無い。気にすると余計に寒い。


 扉の向こうに、兵器や機械人形みたいな特別なものがあった……という訳ではなくて、かといって不要なガラクタの山がある訳でもない。


 あったものは判りやすくて、それでいて解りづらいもの。

 自分には分からない謎の数々と呼べる、そんなものがここにはあった。


「まるで図書館じゃな」

「……こんな場所が」


 エルの言う通り図書館だ。それだけの広さはある。

 まさか家の地下にこんな場所があるなんて……。


 置かれている本も古めかしい。

 表紙には何も書いていないようで、一体何についての書物なのかは見当がつかない。

 だが、積極的に開こうとは思えない。


 この中に何が書かれているのかはどうでもいい。

 もしも読むことで興ざめしてしまうかもしれない。冷めるぐらいならそのままの形でいいのだ。

 知らない方が脳が刺激(シナプスがパーリナイ)される気がする。


 これもまた、ロマンッ。


「……震えておるぞ?」


 歩くたびに足音が鳴り響く空間。まるで秘密基地みたいだ。

 そこにある図書館と来たらもう……もう――。


「やばい、興奮する」

「感極まりすぎじゃ」

「だって、だって見てよこのディストピア的空間の中にある書物だよ興奮しないわけがないよああっm」

「やかましいわっ!」

「痛ったァッ!!」


 ……痛すぎて意識が飛ぶかと思いました。

 突然背中を叩かないでほしい。不意打ちは何よりも痛いんだから。


 叩かれたとしても情熱はそう変わらないし、感動的な――。


 ――……?


「落ち着いたかえ?」


 不思議なことに、先程までの興奮の一切がなくなっていた。

 その興奮が落ち着きに置換されたかのような、そんな感覚だ。


「えっと……なんかした?」

「はて、なんのことじゃろ」


 ……いや、絶対何かやってきたでしょこれ。

 さっきまで幻想的で花畑だった俺の脳内が、一気に普段の思考に戻ったという事実だけでその「何か」の正体は明らかだ。冷静に今の出来事を技に直したら何になる?


『アタックメンタリズム』的な。

 えぇ。


 背中を殴るだけで平常心にするとかどんな技だよ。

 これを魔術に当てはめるとしたら、物理魔法に当たるのか。


 ……物理魔法ってなんだよ。殴る魔法て。

 通常魔法とはまるで対極に位置する存在じゃないか。

 基本的に魔法って相手に触れることなく行うものだろ? 違うかな。俺が固定観念に縛られてるだけなのか?



「ぬ……ルオン。隠れいッ」

「え、どうしたの」

「いいからこっちゃこいっ……!」


 突然、腕をとられて近くの本棚へ身を潜める。掴まれた場所が痛い辺りエルはそれなりに力があるらしい。

 何があったというのか。


「どうしたの一体」

「あそこをよーく見てみるのじゃ」


 言われた場所……部屋の奥を見やると、何かが見える。


「なんだあれ……」


 目を凝らして、じっと見てみる。

 動いている。


「人じゃな。明らかに」

「ひ、人ぉ? なんで、なんでここの地下に……」


 白い頭……髪か。それに、服装も白いな。

 図書館の司書には似合わないし、こんな場所に人が常駐しているはずもない。ましてここは我が家の地下である。いや、俺が知らないだけの可能性もあるけどさ。


 いや無いよ。誰だよ。


 いや、待って。そもそもの話をさせてほしい。


 入口が一本道だとして、どうやってここに入ってきた?


 家に上がってきた痕跡は無かったし、見たところ他に入口は無さそうだ。

 なのに、あの研究者らしき人間はここにいる。どうして?

 もう一度その人が居た場所を、ひっそり見やる。


「……居ない?」


 周辺を見渡してもあの目立つ白衣はどこにもない。

 俺とエルが見ている以上、幻という訳では絶対ないし……なら一体どこへ――。


「――何をしているんだい?」

「え……」


 一瞬で。奥の方に居た白衣の男は、僅かその一瞬で俺たちの背後に回っている……。

 確かにこの目で確認した。こんな一瞬でここまで来るのは陸上選手であっても無理だし、呼吸の乱れも感じられない。


「え……っと、君は?」


 『あなたは誰?』と尋ねるつもりだったが、その背丈の低さと童顔っぷりから瞬時に年下であると錯覚した。

 およそ一桁か二桁と少しの年齢にしか見えない。


「名乗る前に、自分が名乗るのがベストじゃあないかな? ルオン君」

「え、どうして俺の名前を……」

「下がっておれルオン! こいつに近づいてはならぬッ……!」


 この人は只者じゃない。それは感じる。

 だからエルの言う通りに後ろへ下がる。

 敵なのか味方なのかも分からない状況で何かをすることにメリットは無いだろうから。

 


「このただならぬ空気、異様なオーラ、そして威圧感……。この世に居てはならぬ、存在してはならぬ『気』を感じるッ! こいつは決して()()()()()()でも、ライフェリス人でもないッ!! 更に高次元に位置する存在じゃ!!」


 高次元の存在とはなんなのか。だが異常事態なことは察した。

 こんな状況でも冷静でいるのが不思議だが、これもエルの魔術のせいなのだろうか。


「ふーん……。随分荒っぽい歓迎だねぇ。まあそれもそのはずか。用を済ませたら出ていくつもりだったんだけれど仕方ない」

「ミーア達に伝えい。急ぐのじゃ!! ワシがしばらく押し止める!」

「う、うん!」


 トン、と軽く背中を押される。




 ――……た、たいへんなことになった!

 急げ、こういう時に出てくる奴は大体やばい!!

 てか何でだ!? 急に焦りが出てきた……。


 くっそ、考えてる暇もない。急いで伝えないと!



    ☆★☆


 ワシの予言に視えなかった白髪のこいつは、一体何者なんじゃ?

 この宇宙の『あかしっくれこぉど』と繋がり、そこの記録を基に未来を視るのだが――。

 いやまさか、想像だにしなかったが、その記録に存在しない者が居ようとは……!


「魔法か」

「いかにも。ワシの戦法は魔法である」


 不敵な笑みを浮かべるか。ふむ、その白衣。まるでワシと対極にあるかのようではないか。


「そうか……」


 ぬ……こやつ。何を仕掛ける。話の途中ではないか。

 しかし白衣の懐に右手を突っ込んだ。すなわち向こうは既に臨戦態勢であるということに他ならん。


 何かを投げてきたとて、ワシは防ぎきろう。

 小道具でも使ってくるつもりだろうが、そうはいかんぞ!


「その前に……君が先を読むのが得意ならば、その先を私が行こうかね」

「ほう。言うではないか」

「言うとも。私は君とは対極――科学の力にて戦う者なんだから」


 科学だと? 馬鹿を言いなさい。

 科学が魔法に勝てるとでも思っているのかえ。


 ミーアの物理には押されたが、ワシはあやつ以外には決して負けん!


「来るがいい。おぬしの技を見せてみぃ」

「大した余裕だねぇ。いいよ」


 懐から出した手は、何かを握っている。

 それが一体何なのかは皆目見当もつかないが……。


「こっちばっかり見ていたら事故を起こすよ」

「なにっ!? ……ッ! な、なんだこれは!?」

無数に飛び回る飛行隊(メテオシャワー)。私が取り出したのは、あくまでそのボタンさ。警戒のし過ぎが仇になったね。さようなら」


 右手の親指から、パチンと音が鳴った。

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