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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
第三章第一編『未知との遭遇(いろんな意味で)』
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9 ロマン

 カン……カン――。


 一段、また一段と階段を下りていく。


 カン……カン――。


 今になって、緊張してきた。


 カン……カン――。


 何が待っているのだろう。この先に。


 ――カン。


 降りること13段。踊り場についた。

 自室の明かりのお蔭でようやっと見えていたが、この先は暗闇でよく判らない。


「暗くて何も見えないな」

「そうじゃろな。光のない場所ぞ……ほれ」


 エルはそう言うと、ランタンを渡してきた。そんなのどこにあったのやら。


「そこは魔法とかじゃないんだ」

「光の魔法は消耗が激しい。高尚な魔法じゃからな」

「へー魔法にも位とかあるのか」


 敵としては恐ろしい存在だったが、今では頼れる味方。

 エルと二人きりになる機会なんて、これからもあまり無いだろう。今のうちに興味があることは聞いておこう。


「とりあえず……先にランタンを付けたい」

「あ、そこのボタン押せば光るぞよ」

「は? え? 火、くべるんじゃないの?」


 言われた通りボタンを押すと、確かに光った。なんかこう、刺さる眩しさだ。

 というかワンタッチで光るってどういうことなの……?


「時代は科学じゃな。白熱も時代が古かろう」

「えっ白熱が古いって……」


 光は刺激的なほどに辺りを照らす。火や白熱はどこか優しさのある光だが、これは勢いがありすぎる。そして、なじみ深いように思えるこの光はまさか……。


LED(えるいーでー)ってやつじゃな」


 魔術師エル=イーデーってあだ名にしてやろうか? などと辛辣に思うぐらいロマンを感じなかった。

 ほら、エルなら魔法で火をくべてもいいじゃないか。なのに何故そこで科学に頼るんだ。


「不服そうな顔しとるから一応言っとく。魔法にも限りがあるからな」

「MP的な?」

「そう。ろーる・ぷれいんぐでよくあるアレじゃ」

「あんたゲーム知ってるんだ……」


 なんだろう、こう……。俺は魔術師エル=メイダというライフェリス人について、少々誤解していたのかもしれない。口調がババ臭いからと言って、なんでも決めつけは良くないな。内面はしっかり若者らしい。


 ……外見もローブさえ取れば若者(ミーア談)のようだが、エルの顔を見たことがないから何とも言えない。

 ただ、唯一地肌の見える手と、少し見える口元はとても綺麗だなと思う。


 いや、待て待て。異性として興味がある訳じゃなくて、単純に仲間として興味があるだけだ。

 うん、そうだよな。きっとそう。自分自身が妙なほどエルに興味津々なのは、多分正体不明な点が多いからなんだろうな。そういうの好きだし。


「どうしたんじゃ」

「なんでもない。それより、ちょっと聞きたいことがあって」

「歩きながらにするかえ」

「助かる」


 エル自身について。

 ミーアとの関係について。

 そして、レイルについて。


 それらを聞いている内に最下層へ到達するかと、そう思っていたけれど……。


「――っと、話す時間も無かったの」


 数階分下に降りたところで、最下層に着いてしまったみたいだ。

 うん、別に話を聞けなくたっていいかな。だって目の前に謎の扉があるんだから。


「先程までの興奮が戻ってきたって感じじゃな、お主」

「…………」


 金属の空間には決して合わない、腐りかけな木製扉。

 持ち手の部分だけは金属製のようだが、それもまたよし。


 周囲は一切の無音。ただ俺とエルの呼吸音だけが周囲に響き渡る。


「――緊張しておるな?」

「うん……」


 持ち手に手を掛けるだけ。

 それだけなのに。

 恐れている。この先に待つロマンを。


 この先に『普通』があることを恐れている。


「この先に待つものは……お主の言うロマンそのものじゃよ」

「ロマンが、向こうに?」

「それでいて、覚悟を決めるべきことでもあるな」

「……視た?」

「さあ、どうじゃろな」


 ロマンに覚悟が必要……? 一体何が待っているというのか。


 ただ、今の言葉で少しだけ緊張は解れた。

 俺が恐れていたのは、これでロマンのロの字もない空間であることだったから。本当にロマンのある空間であるのなら、恐れる必要もない。


 これがエルのデタラメだったら後で泣くかもしれない。だけど、そんなことをエルがするとは思えないし。だからこそ信じて聞き入れることが出来るというもの。


「――……行こう」


 何かの真実を知れるのかもしれない。

 そんな有り得ない期待をしてしまう。


 だけど、オカルトの世界に入ったかのようなロマンなんだ。

 それぐらいを考えても……いいよな。

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