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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
第三章第一編『未知との遭遇(いろんな意味で)』
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3 滑り出た言葉は関係をも。

 蒸し暑さは更に増してリビングの室温はおよそ35度を記録。加えて湿度も96%と人を殺しかねない、まるで悪夢のよう。窓を開けていてもこのザマなのだからどうしようもない。

 湿度さえ取り除ければある程度はマシになるのだろうが、エアコンが無い今はそれも適わない。


「ふほほ……ルオン、風呂を借りたぞよ」

「え!? あ、うん」


 ……なるほどな。

 特に水不足という訳でもなし。こんなに暑いのだから水風呂やシャワーを使ってもいいじゃないか。ナイス判断だエル。使う前にひとこと声をかけて欲しかったけどな。


「ほふぅ……濡れタオルが心地良いのう」


 濡れタオルがかかっているからか、相変わらず魔術師……エルの顔はよく見えない。

 ここまで見えないとなると、恐らく本人が見せたくないのだろう。顔は誰かを認識するための基準なんだから、そこまで無理して隠す必要もないと思うんだけどな。


 ただ、本人の意思は尊重する必要がある。最も、俺の考察が間違っている可能性もある訳だけれど。

 だからとりあえずは気にしないでおこう。気にされた方が迷惑だろうし、かといって考察を正しいと思い込んで余計なお節介を働くぐらいならば、今まで通りに接する方が良いではないか。


 例えば同性に好意を持たれていたとして、それを知ったからといって態度を変えることはない。

 そいつにはそいつの気持ちがある。それを否定はしたくないし、なんなら肯定したい。付き合うかどうかは俺自身の選択になるから別として。


 ここに居るみんなだってそうだ。

 彼、彼女らが宇宙人だからといって差別はしない。あくまで命を持った生物であり、言わばライフェリスという星の人間。それ未満にもならなければ、それを超過することもない。

 自分が絶望の淵に追い込まれた元凶を握っている訳でもなし、ライフェリス人を差別する理由は何一つ存在しない。


 それは一つのグループのような括りでも考えられるし、一個人にも言えること。

 一人の個性を否定するのはねじ曲がった人間のすることだ。

 もしくは集団心理によって善悪を誤解してしまった人間か。


 後者は自分もなる可能性がある分恐ろしいなと思う。


「ルオンさん、どうしたんですか難しい顔して」


 座卓に突っ伏した俺に起立したレイルが訪ねる。

 

「――……人間って愚かだなあと思って」

「遅っそい厨二病ですねぇルオンさん」

「おい笑うな」


 そんなにニヤニヤしなくてもいいじゃないか。考え事をしてただけだって言えばよかった……もう……!! ミーアもフフッってするなやめてくれ俺が悪かったから。それとファル、お前も何を言わずとも脳内で何かしら考えていることはお見通しだ。ヘタクソポーカーフェイスか。


「まあでも、一理あると思いますけどね、わたくしは」


 見たことのない顔だった。笑顔で無ければ怒っているという訳でも無さそうだ。

 何だこの顔……? 何を考えているんだレイル。

 初めて会ったあの日、少しだけ見せていたやさぐれたような表情なんかよりもっとどす黒く、今にも周辺をその怨恨で焼き払わんとしているかのようだ。これには全員表情が強張り、空気がピリついた。


「地球人に限らず、ライフェリス人だって、それ以外の星の民だって、皆がみな欲求に忠実です。それを悪しきことだとは言えませんけれど、その欲に脳まで支配されている人々が多いですから。私の親父だってそうです」

「……ライフェリスの王?」

「そうです。どんな時でも儀礼のことしか考えていない。私に儀礼しか教育を施さなかった最低なクソ親父です」

「どうして、そんなことを、そんなに」

「てめぇさんの名誉と名声のためでしょうね。それ以外に何が考えられますか。それが私にとってどれほど辛いことだったのか。ルオンさんならば分かるはずでしょう」

「…………」


 分からない。どうしてそんなに父親を憎む。

 何か深い事情があったかもしれない……にも関わらずそれを考慮しないのは何故? 普段のレイルなら、他人の良い部分は良い部分として見て、そして悪い部分はしっかりと相手に理解と納得をさせて、矯正を試みるじゃないか。ミーアにしたように。


 それなのに、どうして。

 実の親に対してそこまでのことを思える。理不尽じゃないのか。父親がそれまで培ってきたものを無い物としているんじゃないのか。

 そんなの、親父さんが可哀想だ。


 ――不快だ。


 俺には親を侮蔑する気持ちが微塵も理解できない。何故? どうして?

 親が居なければ今の自分は居ないと、そう考えることはできないのか。


「わからないよ……」


 滑り出た言葉は不覚にも、彼女の問いに対する解として紡ぎ出された。


「星野ルオン……お前ぇ!」

「え、な……!?」


 声を荒げたのは誰だ? 少なくともレイルではない。


「ぐっ……」


 光り輝くは一点、身に纏うは鎧と剣、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)……!

 俺にその大きな剣の刃を向けるのは何故!?


「ミーア、どうしてそんな!?」

「悪しき振る舞いをレイル様に向けた罪は重い」


 その形相は正に鬼。その威圧だけで人を殺しかねないほどの。こんなミーア見たこと無い。

 その睨みのまま大剣を振りかぶる。まずい逃げなきゃ。逃げなきゃ殺される。

 でも、どうして!? 身体が、身体が動かない……!


「慈悲はない。誰であろうと」


 大剣は振り下ろされた。

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