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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
第三章第一編『未知との遭遇(いろんな意味で)』
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2-2 なんだか冷えた壁がある

「あつぅい、あつぅい……」


 ファル=エムイードは星野家を歩き回る。

 避暑地を求めた動物の本能的な行動なのだろうが、当然ここは室内だ。家中どこでも暑さは一様であり、まして洗面所の辺りの湿度は更に高く過ごしづらい。動くことは身体に負担をかけるだけのはずなのだが。


 彼は二階に上がる。

 上へ行けば少しは涼しくなると信じたのだろう。はたまた、できる限り人口密度の低い場所へ行きたかったのか、その辺りは本人にも分かっていない。

 廊下を一歩ずつ歩いていると、ある一点の場所が気になり始める。別段普通の、他の場所とは何も変わらない単なる壁をじっと見つめる。そして近付いていき、その壁に触れてみる。


「あれ……?」


 他の壁とは違うような気がしたようで、もう一度触れる。

 不思議と冷えている。だが夏のこの時期彼には好都合。おそらく誰も知らない自分だけの快適空間を見つけたのだ。独り占めができるまったり空間に、じっくりと身を寄せる。


 ふと気になったようで、試しに壁を一回だけノックする。


 コォーン……と、深く広がりながら響く音。何かが隠されているのではないかとすら感じてしまうその空間に、少年は魅了された。


 ここを自分だけの特別な場所にしようと、少年は決意する。


 当然ここはごく普通の一軒家であって、それ以上でもそれ以下でもないのだが、それでも彼にすればとても魅力的な場所なのだ。幼きあの日の秘密基地だと考えていいかもしれない。


 しかし意識は壁に向きっぱなしだ。これでは背後から近寄る者に気付くことはできない。


「何やってんだ?」

「はひっ! る、ルオンしゃま!?」


 ここまで驚くのも無理はない。少年はこう見えても独占欲が強い。

 モノに対しても、そして場所においても同じだ。折角見つけた空間なのだから、自分だけのものにしたいらしい。


「やーその、少しねむくなったの」

「だからってこんな廊下で寝なくても……ほら、いくぞ」


 名残惜しいが仕方がない。少年はその壁を寂しげに見つめながら、下の階へ降りていく。

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