2-2 なんだか冷えた壁がある
「あつぅい、あつぅい……」
ファル=エムイードは星野家を歩き回る。
避暑地を求めた動物の本能的な行動なのだろうが、当然ここは室内だ。家中どこでも暑さは一様であり、まして洗面所の辺りの湿度は更に高く過ごしづらい。動くことは身体に負担をかけるだけのはずなのだが。
彼は二階に上がる。
上へ行けば少しは涼しくなると信じたのだろう。はたまた、できる限り人口密度の低い場所へ行きたかったのか、その辺りは本人にも分かっていない。
廊下を一歩ずつ歩いていると、ある一点の場所が気になり始める。別段普通の、他の場所とは何も変わらない単なる壁をじっと見つめる。そして近付いていき、その壁に触れてみる。
「あれ……?」
他の壁とは違うような気がしたようで、もう一度触れる。
不思議と冷えている。だが夏のこの時期彼には好都合。おそらく誰も知らない自分だけの快適空間を見つけたのだ。独り占めができるまったり空間に、じっくりと身を寄せる。
ふと気になったようで、試しに壁を一回だけノックする。
コォーン……と、深く広がりながら響く音。何かが隠されているのではないかとすら感じてしまうその空間に、少年は魅了された。
ここを自分だけの特別な場所にしようと、少年は決意する。
当然ここはごく普通の一軒家であって、それ以上でもそれ以下でもないのだが、それでも彼にすればとても魅力的な場所なのだ。幼きあの日の秘密基地だと考えていいかもしれない。
しかし意識は壁に向きっぱなしだ。これでは背後から近寄る者に気付くことはできない。
「何やってんだ?」
「はひっ! る、ルオンしゃま!?」
ここまで驚くのも無理はない。少年はこう見えても独占欲が強い。
モノに対しても、そして場所においても同じだ。折角見つけた空間なのだから、自分だけのものにしたいらしい。
「やーその、少しねむくなったの」
「だからってこんな廊下で寝なくても……ほら、いくぞ」
名残惜しいが仕方がない。少年はその壁を寂しげに見つめながら、下の階へ降りていく。




