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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
第三章第一編『未知との遭遇(いろんな意味で)』
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スターダスト・メモリーズ

    ☆★☆


 町外れにある球体型の研究所に歩みを進める少女がひとり。

 黄金色の髪は夜風になびき、時折身につけたアクセサリーがリンと音を奏でる。


 入り口の扉の前で静かに目を瞑る。まるで何かを念じているかのように。

 すると扉が開き、少女は屋内へと進んでいく。


 大広間に着くと遠目で階段を探し、一点の迷いもなく二階へと進む。

 カンカンと、鉄の階段を上る音だけが静かにこだまする。屋内に明かりの類は一切無いため、誰かが見たら恐怖を感じてしまうことだろう。


 上り終えた少女は息を切らせた様子もなく、ただ目的の部屋へと歩みを進める。

 妙に厚い、厳重そうな扉の前へ着くと少女は再び目を瞑る。


 再び何かを念じているようだが、先ほどよりも長い。扉の重厚さが念を邪魔しているかのように。

 数十秒後、少女はようやく目を開く。それと同時に扉も開いた。


「やあ、君だろうとは思ったよ。鈴香……だったかな?」


 その部屋に座して待っていたのは研究服を身に纏う白髪の少年。年齢だけでなく背丈も少女より低い。とてもその幼い体つきから発せられる言葉とは思えない程に落ち着いていた。


「いいえ。私はエルテート」

「あーそうか、()()()()()()からか」


 少年は納得して笑う。年相応の無邪気さは無く、成熟した大人よりも大人しい静かな笑いだ。

 対して笑い事じゃないと言わんばかりに無表情なのが少女だ。


「ではエルテート。君はどうしてここに?」

「……貴方ならタイムマシンが作れるんじゃないかと思って」


 彼女の言葉に少年は疑問符が浮かぶ。

 手を組みつつ少し左上を眺め、その後再び少女を見る。


「君たちは時と世界線を移動できるんじゃなかったかい?」

「ええ。だけど誰かを連れての移動は出来ない。そこまでのエナジーを持っていない」


 ああなるほどと、合点がいったように少年は呟く。


「つまり、誰かを過去か未来へ連れて行って、何かしらの知識を得させたいって訳だね」


 ここで初めて、少女の表情が少し緩む。


「流石は現実世界で一番の天才ね」

「光栄だ。だけど残念ながら、僕でも過去への切符は作れないんだよ」

「まあそうだと思った。私にも過去へ行った貴方が見えていないもの」


 だろうなあと少年は頷く。彼は若くして自分の技量に自惚れてなどいないのだ。


「……とすると、代用品でも作らせようとしているのかい?」

「時間移動が最適だとは思うけれど、過去が見えるなら何だっていい」

「へーえ、過去を視る方法……。いいよ、条件付きだけれど」


 不気味に笑う少年を見て、少女もクスリと笑う。


「会いたいのね。すぐにでも」

「そうさ」


 少年は勢いよく立ち上がって部屋にある装置に向かうと、鼻歌混じりでいじり出す。やがてそれが動き出したときに少女は問う。


「あの子達に何も言わなくていいの?」

「ひどいときは数日こもる身だ。さして気にされないよ」


 そうじゃない、と少女は諫言する。


「貴方、まだ話していないのね。この世界が凍結すること」


 少年の眉が動く。それ以上に何が変化したということはないが、彼にとっては気にかかるものだったに違いない。


「止まった時はいずれ動き出す。それに備えるだけさ」

「怖い癖に」

「言わないでおくれよ。まさか永久にそのまま──とは考えたくないからね」


 少年にしては珍しい、哀愁の漂う諦めの表情だ。


「……道具は持った?」

「常に抜かりはないよ」


 少女が宇宙の座標と事象軸、その他のデータを述べると、少年はそれに合わせて機械に設定を入れていく。

 やがて設定を終えると、一息ついて一言。


「行こうか」


 大きなボタンが押されると、少年は機械と共にその場から消え去り居なくなった。


「──ルイ……ベガ……ミライ」


 懐かしそうにその言葉を発すると、少女も光を放ちその場から消え去っていく。

 その言葉に意味があったのか、無かったのか。それは本人にしか分からない。

 だがしかし、少なくともその瞬間その『少女の瞳』が潤んでいたことだけは、紛れもない真実であろう。



 この日、研究服の少年は別世界へと旅立った。


 ──名はトモヤ。


 朝倉トモヤ。

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