7 Magician's Attack!! ●
この回には残酷な描写が含まれております。
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砦は陥落した。
ミーアは為す術なく、魔術師に大敗を喫したのだ。
前回同様、いや、それ以上に悲惨であろう。
魔術師は戦乙女の剣を軟体化させ使い物にならなくした。それだけに止まらず、彼女の下半身の鎧を原子レベルで変化させ、紙同然の材質に変貌させると、手に掲げるは炎。
『く、黒魔術も……使えるのか!?』
ルオンは叫ぶ。
強ばり、出すだけでも精一杯な声色は余裕の無さの現れだ。
それでもミーアは足掻いた。鎧が無い代わりに得られたスピードを駆使して、炎を避けようと身構える。
「炎だけでは回避も可能じゃろ……? ほれ」
『なっ……あ゛……』
動かぬ身体。
発せられない言葉。
朦朧とする意識。
止まりそうな呼吸。
ミーアを縛ったのは、電気だった。
「先日のお前ならば抜け出せただろうがなあ……怪我や疲労が快復していない今、力尽くも適わぬか」
『ミーアー!』
ルオンは叫んだ。枯れる程に。
「所詮、剣は魔術に勝てんのじゃ」
掲げた炎はふわふわと、時間を愉しむかのようにゆっくりとミーアへ近づいていく。
しかし、ミーアは動けない。
魔術師の言う通り、体力が万全ではない。散々痛めつけられた身体はとうに限界を迎えていた。
ミーアは悔しかった。
夢で対抗する手段を得ようとしたにも関わらず、槍で貫かれるだけで、何を手にすることも出来なかったのだから。
叫びたくても、藻掻きたくても、熱くても、焼け焦げていくのを感じていたとしても、一寸たりとも身体は動かない。
はっとして、水を用意せねばと走り出すルオン。
しかし魔術師がそれを許す訳がない。
「視えていたに決まっておろう」
能力も無い人の子が足掻こうと、魔術師に敵う訳がない。
身体の動かせない少年には何を足掻くことも出来ない。
耳に障り続ける金切り声を、少年は黙って聞くことしか出来ない。
限界だった。
所詮少年は少年でしかない。成し遂げた事象の少ない人間如きに王女を、それも別の星から守り抜こうなどと考えることが愚かだ。幾つの受難があるかを考えず、ただ無鉄砲にその場の感情で事を進める。その行動はまさに子供。幼さ故の過ちと言える。
「ワシを乗り越えることの出来ない人間が、王女さまを守れるか?」
返事は返ってこない。正確には、返せないのだが。
「――不可能じゃろう」
無鉄砲かつ感情にて動く彼(彼女)へのメッセージ。
惨たらしくも事実として、その目や耳、そして脚に焼き付けた。
「もう使い物にならんじゃろ、ミーア……」
魔術師は炎を止める。脚全体は一生動くことはないだろう。彼女にとってはこれでも灸を据えたつもりなのだ。
「残り2分じゃな。お前さん達はそこで眠っているがよい……そして」
当然、魔術師が気付いていない訳がない。もう一人、付近で高速に動く何者かがいる事を。
『ルオン様とミーア様をよくもっ……アイタァッ!』
「読めておるともさ。そしてお前さんは、打たれ弱いということものう。無論、それはワシも同じじゃがな」
魔術師は打たれ弱い。だからこそ自らの魔術を駆使して自己防衛を図る。
『……きゅうぅ』
少年ファルはものの一発で伸びてしまった。
細かいことに一々時間をかけられない状況である今、彼に構っている余裕は無い。
幸い彼だけならば「誘拐された」などと理由を付ければ無罪放免に出来るやもしれない。
一歩、二歩と床の扉―レイルの隠れた扉―へと近付く。
小細工が仕掛けられてはいないかと未来を覗いてみても、もう誰が障害となることはない。魔術師は完全な勝利を手に入れた。
残り1分という時間を残して、魔術師はレイルを見つけ出した。
――勝負あり。
ルオン達は予言に打ち勝つことが出来なかった。
それもそのはず。魔術師は未来をまるで映像のように視ることのできる、悪夢のような存在なのだから。




