表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
第二章『Magic Nightmare.(まじないとまれ。)』
30/55

7 Magician's Attack!! ●

この回には残酷な描写が含まれております。

   ☆★☆


 砦は陥落した。


 ミーアは為す術なく、魔術師に大敗を喫したのだ。

 前回同様、いや、それ以上に悲惨であろう。



 魔術師は戦乙女の剣を軟体化させ使い物にならなくした。それだけに止まらず、彼女の下半身の鎧を原子レベルで変化させ、紙同然の材質に変貌させると、手に掲げるは炎。


『く、黒魔術も……使えるのか!?』


 ルオンは叫ぶ。

 強ばり、出すだけでも精一杯な声色は余裕の無さの現れだ。

 それでもミーアは足掻いた。鎧が無い代わりに得られたスピードを駆使して、炎を避けようと身構える。


「炎だけでは回避も可能じゃろ……? ほれ」

『なっ……あ゛……』


 動かぬ身体。

 発せられない言葉。

 朦朧とする意識。

 止まりそうな呼吸。


 ミーアを縛ったのは、電気だった。


「先日のお前ならば抜け出せただろうがなあ……()()()()が快復していない今、力尽くも適わぬか」

『ミーアー!』


 ルオンは叫んだ。枯れる程に。


「所詮、剣は魔術に勝てんのじゃ」


 掲げた炎はふわふわと、時間を愉しむかのようにゆっくりとミーアへ近づいていく。

 しかし、ミーアは動けない。

 魔術師の言う通り、体力が万全ではない。散々痛めつけられた身体はとうに限界を迎えていた。


 ミーアは悔しかった。

 夢で対抗する手段を得ようとしたにも関わらず、槍で貫かれるだけで、何を手にすることも出来なかったのだから。


 叫びたくても、藻掻きたくても、熱くても、焼け焦げていくのを感じていたとしても、一寸たりとも身体は動かない。


 はっとして、水を用意せねばと走り出すルオン。

 しかし魔術師がそれを許す訳がない。


「視えていたに決まっておろう」


 能力も無い人の子が足掻こうと、魔術師に敵う訳がない。

 身体の動かせない少年には何を足掻くことも出来ない。


 耳に障り続ける金切り声を、少年は黙って聞くことしか出来ない。


 限界だった。

 所詮少年は少年でしかない。成し遂げた事象の少ない人間如きに王女を、それも別の星から守り抜こうなどと考えることが愚かだ。幾つの受難があるかを考えず、ただ無鉄砲にその場の感情で事を進める。その行動はまさに子供。幼さ故の過ちと言える。


「ワシを乗り越えることの出来ない人間が、王女さまを守れるか?」


 返事は返ってこない。正確には、返せないのだが。


「――不可能じゃろう」


 無鉄砲かつ感情にて動く彼(彼女)へのメッセージ。

 惨たらしくも事実として、その目や耳、そして脚に焼き付けた。


「もう使い物にならんじゃろ、ミーア……」


 魔術師は炎を止める。脚全体は一生動くことはないだろう。彼女にとってはこれでも灸を据えたつもりなのだ。


「残り2分じゃな。お前さん達はそこで眠っているがよい……そして」


 当然、魔術師が気付いていない訳がない。もう一人、付近で高速に動く何者かがいる事を。


『ルオン様とミーア様をよくもっ……アイタァッ!』

「読めておるともさ。そしてお前さんは、打たれ弱いということものう。無論、それはワシも同じじゃがな」


 魔術師は打たれ弱い。だからこそ自らの魔術を駆使して自己防衛を図る。


『……きゅうぅ』


 少年ファルはものの一発で伸びてしまった。

 細かいことに一々時間をかけられない状況である今、彼に構っている余裕は無い。

 幸い彼だけならば「誘拐された」などと理由を付ければ無罪放免に出来るやもしれない。


 一歩、二歩と床の扉―レイルの隠れた扉―へと近付く。

 小細工が仕掛けられてはいないかと未来を覗いてみても、もう誰が障害となることはない。魔術師は完全な勝利を手に入れた。


 残り1分という時間を残して、魔術師はレイルを見つけ出した。


 ――勝負あり。


 ルオン達は予言に打ち勝つことが出来なかった。

 それもそのはず。魔術師は未来を()()()()()()()()()視ることのできる、悪夢のような存在なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ