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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
第二章『Magic Nightmare.(まじないとまれ。)』
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6 Magician's Dimension.

 泣くだけ泣いて、眠りについた。

 それだけ心が疲れていたんだろう。


 気付けば約束の時間だ。外へ出よう。


 母さんは留守電に、今日は帰らない旨の連絡をとうに残していた。

 諸々のごたごたもあって、コールに気付かなかったのだろう。


 けれどもう、後ろや下を見たりしない。


 泣くための水分なんて、もう俺の中にはない。

 今更弱音を吐いたって、事実は何も変わらない。

 魔術師の予言をいかにねじ曲げるか。考えるのはそれだけでいい。


 そう、ねじ曲げればいいのだ。

 彼女の見た現実とやらを、現実でないものとして見せられたなら……。


 それならば――。


「答えを聞かせてもらおうじゃないか」


≪星と星の衝突。少年のエゴにより二つを破滅へと導く≫


 ――その答えをここに。


「お前の予言は偽物だ。それを今ここで証明する」

「ほう……つまりお前さんは、ワシと魔術の勝負でもするつもりかえ?」

「いいや。俺が予言をする」

「――予言」


 魔術師は一歩後ろへ下がる。その一瞬の動揺を俺は見逃さない。

 ここまで真剣な表情で、しかも凡人の俺が予言をするなどと言うのだから当然だ。


「人の子であるルオン、お前が予知をしようとは、意外な答えが返ってきたものだ」


 だが、魔術師はこの戦いを嘲笑うことなく受け入れた。

 これは圧倒的にこちらが不利なゲームだ。だからこそ彼女は受け入れてくれたのだろうか。

 


「はてさて、ではその予言とやらを聞いてやろうではないか」

「ああ。聞かせてやる」


 俺が魔術師に対して行った予言、それは。


≪魔術師の理想は全て幻に終わる≫


「アバウトじゃな。それに、ワシの行動が徒労に帰すとな」

「そうだ、これでいい」

「ならば……ワシは王の前で行った予言をくれてやろう」


≪まじない師こそが遊戯に勝利し、隠れた王女を見つけ出す。何事も無く彼女を回収し、母星へと帰す≫


「……遊戯?」


 恐らくアレだ。前回ガランに向けて行った、要するに隠れんぼ。

 確かに魔術師かつ予言者たる彼女が行ったなら、百発百中、余裕でレイルを見つけられることだろう。

 けれど俺らは、この後にその隠れんぼを行ったとしても勝機がある。


 勿論不安もある。だけど勝利するにはその方法しかないのだ。

 相手は予言者。未来の光景を、『まるで映像のように見る』ことができる。

 それに打ち勝つための方策は――。


「王女様は家の中に隠れておるんじゃろ? お前さんが俗物に行ったらしい遊戯を、ワシも行うこととしよう」

「やっぱりそうなるか」

「おうさ。じゃが、条件はより厳しくとも構わぬぞ。ほれ、さっさと決めい」


 瞬間的に俺が思いついたレギュレーションは次の通りだ。


・制限時間は五分

・捜索中、屋内にいるファルとミーアとの戦闘を必ず行うこと

・ルオンが開始の合図を出したらスタート


「そんなに時間を貰っていいのかい?」

「ああ、五分あれば足りるんだ。レイルは既に隠れている。」

「そうかい」


 眉、肩、腕に力が入る。

 レイル、ミーア、ファルの三人は既に配置につけた。

 朝方悩みに悩んだが、彼女らとファルの力を使って、どうにか勝利するビジョンを見つけた。


 きっとこれなら勝つことができる。

 けれど絶対ではない。あくまで可能性の話。


 ちょっとした保険をかけて、俺はあえて聞いておく。


「お前は感覚が鋭い方か?」

「いいや、魔術に感覚を奪われておってな。視覚以外の四感が意義を成しておらん」


 つまり、第六感に極振りしている訳か。

 それならいけるはず。特に前回みたく嗅覚が鋭い場合、失敗する可能性が出てきてしまうから。


「感覚よりも魔術じゃ。ワシはそうして生きてきた」


 相変わらず顔が見えないが、その黒いローブに背丈の低さ、そして妙にでかい木の杖をついている辺り、相当年季の入った老婆なのだろう。こういう魔術師のテンプレみたいな人は何かしらで見ているからよく分かる。


 ……ん? 手に張りがある……歳行ってる割に綺麗だ。


 っと……今はそんなことに集中している場合じゃないんだ。

 でも、それなりに緊張がほぐれてきた気がする。余計なことを考えられるようになったんだから。


「ワシの姿がそんなに気になるかえ?」


 切り替えようとしたときに何だよそれ! お前には緊張のきの字も無いのかよ!

 ……とも思ったが。

 魔術師はライフェリスの武闘大会で、常にトップを守り続けた恐るべき戦士だとミーアが言っていた。

 こんなの、簡単な仕事だとしか思っていないのかもしれない。


「もしもお前さん達がワシに勝てたら、姿を見せてやろう」

「それはそれで面白そ……んん。始めよう」


 思わず本音が出てしまった。魔術師は不気味に笑っていた。




 玄関のチャイムを鳴らす。

 これがゲーム開始の合図だ。家中に音が広がるように出来ているため、これが一番適当だということで、先ほど決めたことだった。


「ふむ、()()キッチン下の収納におるな?」

「…………」

「お前さん、分かりやすいな」


 うるさい。行くなら行け。

 その前のリビング……そこに……。


「先日ぶりじゃな。ミーア=レクト=フレネセウロ」

「相変わらず、気に入らないババ臭い言葉使いやがり申し上げておりますね」


 そこに、殺気に満ちて、言葉が崩れに崩れて訳が分からなくなってるミーアが居るんだ。

 敵対心と皮肉は伝わるけど、頭がおかしくなったとしか思えない言動だ。いや、もともとか。


「ワシに一度として勝てなかったお前さんが、今日こそは勝とうなどと滑稽なことを」

「奥の手があるんでございますよこちとら」


 魔術師が鼻で笑うと、ミーアは睨みをきかせるのだった。


 戦いの火蓋が切って落とされた。

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