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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
第二章『Magic Nightmare.(まじないとまれ。)』
26/55

O Magic Nightmare.

    ☆★☆


 負けた。


 あてくし()()、あの魔術師に負けてしまった。

 言葉に表したくない、決して表す気になれないこの悔しさを、一体どこにぶつけろと言うのだろう。


 二度目の敗北は、私にとって一生の不覚だ。


 そんな私のもとに現われた銀髪の少女は、まるで私を嘲笑うかのように見下ろしている。

 とても不快だが、自分が敗者であることを意識すると当然の報いのように思えてしまう。


 ここはきっと、現実でない。

 ふわふわとした宇宙空間にただ二人、私とそこにいる少女が居るだけ。


 要するに、きっとここは夢。

 それを理解する頃には、少女の面持ちは真剣なものへと変わっていた。

 まるで演技でもしているかのように。


「もしも私が、貴方の望むものを与えられるとしたら?」

「望むもの……?」


 与えられるのならば、か。


 そうね、あの憎きまじない師を討つ術が欲しい。

 一度だけでもいい、寿命を削ったっていい。

 初めて感じたこの屈辱を晴らすために、そして何よりレイル様を守るために。

 私に出来ることはただ一つ。


 力を得ること。


 今レイル様を導いた妖精がここに居るのは何かの縁。

 まるで魔法のような力を持った貴方が願いを叶えてくださるなら……。


 きっとレイル様に安息の時間をもたらすことができる。


「馬鹿ね。でも……」


 銀髪の少女の持つ巨大な槍。

 優しくまばゆい赤色の光を放つその先端には、己から刺されに行きたくなるほどに惹きつける力があった。


 私は覚悟を決めていた。ここが夢だと理解していたから。

 何かにすがるのが悪行だとは思わない。自分一人でどうにかしようと考えてしまったために起きたことが敗北だったから。


 そんなことは分かっていた。分かっていたけれど、私は頑固にもなっていた。

 ここまで頑固にさせた理由はただ一つで、それはルオン様に嫉妬をしていたからに他ならない。

 レイル様に一目置かれて即座に信じられていた彼に、沸々と嫉妬の心が湧き上がっていた。自分では意識しているつもりはなかったけれど、潜在的に行動として現われてしまった。


 今朝も二人はじゃれ合っていたことに少しばかりショックを受けた。だからその場を切り抜けるために、夜にあった事実をありのままに話したのだ。


 レイル様に心身の状態を見抜かれたのは事実だったが、それをありのままには話していないのだ。

 王女さまの思想に物言いをして、悲しませたくはなかったから。


 けれど裏目に出て、レイル様から見た私の像を語られてしまった。不覚にも、逆に悲しませてしまったのだ。


 凄く漠然としているけれど、自分を客観視するならそれが解だ。


「覚悟は決まった?」


 どこを見ていたやら、銀髪の少女は首を改めてこちらに向けて顔をじっくりと見つめてくる。

 

「その目は覚悟の眼。そうね……力を授けましょう」


 妖精はその華奢な身体からは想像もできない程の力で光の槍を打ち放つ。

 私に向けての慈悲なのか、それとも、私よりももっと先の……未来を見据えての行動なのか――。


 感覚は無かった。ここが夢であることを体現するかのように。

 ただ、貫かれた瞬間から私の中で漲るものだけはあった。


「この力は……?」

「……――」


 てっきり物理的な力だと思っていた。

 けれど彼女がその後に告げた言葉で、自分が単に物理だけで戦う者ではなく魔術までも扱えるようになってしまったのだと実感した。


 もし仮に、この力を現実で使うことが出来るとしたら……?


 レイル様とルオン様に、今以上の安心を与えられる?

 いや、もしかしたら怯えてしまわれるかもしれない。このような恐ろしい力を手にしてしまったのだから。


「使えるのは一度だけ。魔術師を混乱させるのにはうってつけの力よ」

「……ご厚意に感謝をいたします」


 一度だけ。

 その言葉だけでどれほど安堵したことだろう。

 私は人離れをすることを望んでいなかった。だからこそ相手を見返して、それで終わりにできる使い捨ての魔術は都合が良い。


「さあ、目を覚ます時間になった。行きなさい」


 彼女はそう言うと振り返り、私に背を向ける。


「待ってください。せめてお名前を……」


 どうしても聞いておきたいこと……これが仮に夢だったとしても、名前さえ知っていればまた会える。

 そんな気がしたから。


 けれど彼女は何を告げることもなく、その場から消え去ってしまった。


 視界は徐々にぼやけていく。

 まるでその世界から消えていくかのように……。


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