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家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。  作者: くろめ
序章『親衛隊の脅威、ガラン・G・ブレイカー』
15/55

14 優しく触れる度に。

 着替えてからリビングへと向かうその足は、どこか鈍い。

 その重みの原因は明らかで、自分にのしかかる「責任」の二文字に違いはない。

 だが、その弱さを表情や言葉に出したくはない。それによってレイルに心配をかけたくないし、何より自分の気持ちが許さない。


 変なプライドを持ってしまったものだと、自分でも思う。

 けれど、自覚があっても棄てるのは容易でないのだ。


「……おはよう」

「おはようございます、ルオンさん」


 リビングの扉を開いて直ぐに、王女様から挨拶される。

 昨晩まで着ていた明らかに目立つ服装ではなくて、流行りで染め上げたカジュアルな服装だ。

 夏だからか短いジーンズに薄い黄色地のTシャツを着ているだけだが……王女様、地肌がかなり露出しているがいいのかそれで。


「もしや母さんがコーディネートした?」

「盆並みのセンスでやった。後悔はしていない」

「言い回しが犯罪者のそれなんだけど」


 母親に適当なツッコミを入れていると、何やら美味しそうな匂いが漂ってくる。朝ご飯の匂いだ。

 この匂いは……ベーコンエッグ?

 だが、作り手は一体誰だろう。レイルも母さんもここにいるとなると……。


「へえ、ミーアが作ってるのか」

「ミーアは昔から私にお料理を振る舞ってくれてましたし、これぐらいは朝飯前ってやつですね」

「朝食前だし、言葉通りだな」


 食欲をそそられる匂いに釣られて、自分もキッチンへと向かう。

 その後ろをレイルがちょこちょこと付いてくる。何だか動物みたいだ。



「お目覚めですか、えーっと、ルオン様」


 キッチンには、昨日の戦士としての鎧を纏ったミーアは居らず、調理師としてのエプロンを身につけた少女だ。

 素足でスリッパを履き、髪色と同じ赤のミニスカートを着用しながら、上は白のノースリーブ。そこに水色のエプロンを着用と来た。鍛えているのか、その引き締まった腿がやたら際立つ。少し大きな胸も強調されているが、それ以上に。だが、反対に腕がスマートで、安定している。

 美貌を持った少女。こんな素敵な人が居るなんて――。


「……ルオン様?」

「――はっ。いや、何でもない。おはようミーア」

「お身体の具合が悪いので?」


 心配そうな面持ちでこちらを見てくるミーア。ごめんよ、下心で君を見ていた。


 じーーっ。

 ……後ろから何やら視線を感じる。


「ルオンさんは、ミーアのがお好きですか。そうですかそうですか」

「何嫉妬してんだよ」

「否定しないんですね……」

「…………」


 別に、レイルが可愛くないという訳ではない。単純に自分のストライクゾーンに入るような姿を魅せてきたのがミーアというだけであって。

 レイルだって……。


 って、レイル涙ぐんでるし!! 面倒くさっ!


 ちょいちょい。

 と、レイルの後ろで母さんが何やらジェスチャーを始める。


 何なに……?

 頭を……撫でろ? はぁ。


 それで女の子は満足するのだろうか……。

 だが、言っても母さんだって昔は少女だったのだ。乙女心はそれなりに理解しているはず。


 尚も後ろでジェスチャーを続ける母。

 『はよ。』じゃねえよ!! 伝わる俺もどうかしてるけど!!

 

 はあ、もうしょうがないなあ……。


「ふぇ……ルオンさん……?」


 撫でり、なでなで。

 優しく生え際から毛先にかけて、頭を優しく撫でていく。

 優しく触れる度に、ふわりと、シャンプーの香りが鼻をくすぐる。


「ルオンさん、心地良いです……」


挿絵(By みてみん)



 その甘い声が自分の理性を崩壊させてしまう……その前に切り上げ。


「はい、これでお終い」

「……ありがとうございます、ルオンさん」


 どこか寂しそうな顔をするレイルだが、そんなにおねだりされてもダメだ。


「……また今度な」

「わぁい」


 日本人特有の、「またいずれ」という遠回しなお断りだ。

 それが外国人(もとい、宇宙人)に通用するのかは知らないが。


「血色が戻ったね、ルオン」

「さっきまで死相すら見える顔でしたけど、今は落ち着いてますね。よかった……」

「え、そんなに酷かったの!?」


 自分では心の内が見えないよう努力しているつもりだった。

 けれど、母さんもレイルも、俺自身の重たい空気に気付いていた。


 そんなに俺って分かりやすい人間なのかな?


「……あっ」


 突拍子もなく、母さんが声を出す。

 どうしたのだろう。何かに気付いたのか。


「ルオンさ、今気付いちゃったんだけどさ……」

「どうしたの母さん、そんな真剣な表情しちゃって」


 まさか追っ手か?

 いや、それとも何か別の……?


「今日終業式じゃないの?」

「……あっ」


 自分も忘れていた事実。

 この言葉を聞いて、まるでファンタジーな世界から、一気にリアルへと帰還する。


「……レイル。今、何時?」

「はい、時刻は間もなく八時になろうとしています」


 ミーアは朝食を既に作り終えている。

 そのため無慈悲にも、聞こえるのは時計の秒針が進む音だけ……。


「ごめんルオン、準備急げ。あたしも急ぐ」

「…………」


 ……………………。


 …………。


 ……ああ、母さん遅刻か。


 不思議なことに、俺自身はあまり焦ってはいない。

 それよりも、今日学校があるということ自体を受け入れられないことと、そしてこの二人に留守番を頼むことへの不安感だけが募っていく。


「ミーア、レイルを頼んだ」

「承りました。学業を疎かになさらぬよう……」


 引き込まれるほど、現実を忘れてしまう。

 はてさて、自分は一体、起き抜けに何を悩んでいたんだったっけな……。

挿絵:七々八夕様

Twitter→@778create

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