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天の仙人様  作者: 海沼偲
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第2話 天であるか地であるか

「次はお主か」


 大男は響くような声を出す。

 これが閻魔大王なのだろうとすぐに理解できた。格が違う。


「よ、よろしくお願いします」


 今から畏まった態度をとっても意味がないだろうが。でも、二択だったら天国に行きたい。地獄なんてまっぴらごめんである。


「ふむ……」


 閻魔様は何やら一枚の紙に目を通す。あそこに俺の罪でも記されているのだろうか。高校生の時に二人の女性と付き合ったこととか書かれているのだろうか。ああ、あの時にしっかりとどちらかを選んでおけばよかったな。

 二人の女性から同時に告白されてどちらかを選べなかったから、二人と付き合うという暴挙に出たからなあ。それでも、二年はうまくいったんだから自分の中で褒め称えてしかるべきことなのであった。頑張ったほうだと思っている。


「……お主」

「はいっ!」


 閻魔様に声をかけられた。本当にさっきのことが地獄行きレベルの悪事なのだろうか? きっとそうにちがいないのだ。


「生前は坊主か何かか?」

「へ? え、いや……違います」


 どういうことなのだろうか。

 閻魔様はそれだけを聞くと再び紙に目を戻す。時折顎をさすったりしてじっくりと読み込んでいるようだった。一人一人にこれだけの時間を割いて大丈夫なのか心配になる。


「よしっ」


 閻魔様はゆっくりと顔を上げ、俺と視線を合わせる。


「天国に行けますか?」

「……」


 わずかな希望にかけて聞いてみたが、閻魔様は渋い顔をした。これは諦めたほうがよさそうである。だが、それを顔に出すことは出来ても、表面上でしかないのであった。ただ喚くように叫ぶように、心の中ではどろどろとして悲痛な思いが渦巻いてしまっているのである。


「惜しいな」

「惜しい?」

「ああ、惜しい」


 閻魔様は軽く額をかいた。


「お主は天国に行けた」

「え?」


 俺はどうやら天国に行けるみたいだ。……いやちがう。過去形だ。何かミスをしてしまったのか。


「何がいけなかったのでしょうか?」

「親不孝だ」

「親不孝……」


 なるほど。たしかに、親不孝だな。それなら地獄に落ちるのも仕方がないのかもしれない。しかも、俺は親のことを尊敬していたからな。だからこそ、余計に親不孝であることがダメなのだろう。


「本当にもったいないの、お主。それ以外はほぼ完ぺきではないか。今の世の中にもこれほど綺麗な魂を持つ者がおったとはのう」


 閻魔様は天井を見上げて何かを考えているようであった。


「そうだ、わしの娘の婿にならんか?」

「なぜ!?」


 あまりにも唐突な提案に声を張り上げてしまう。その後すぐさま謝罪をするが閻魔様は別に気にしていない様子であった。


「お主ほどの綺麗な魂なら娘もきっと気に入ると思うのだが、どうだろうか?」

「いえいえ、閻魔様の娘さんの婿に等恐れ多くて、とても私のようなものが望んではいけないものであります」


 極限までへりくだっておく。ここまで言えば、その話を続ける気はなくなるだろう。


「ふむ、そうか。それは残念だ」


 閻魔様は残念そうに口をとがらせている。

 しかし、考えてみると、閻魔様の娘さんに婿入りできれば俺は地獄に行かなくてすむのではないかという考えが脳裏に浮かんだ。が、そんな理由で婿入りしたのでは相手に失礼極まっている。


「どうした、その顔は?」


 閻魔様が俺の表情に気づいた。


「いやあ、地獄行きだと思うとですね……」

「何を言っている。お主は地獄行きではないぞ」

「……え?」


 いま、何て言ったんだ?


「どういうことでしょうか……?」

「親不孝者ではあるが、それぐらいしか悪行がないからの。むしろ、それ以外が素晴らしい。これで地獄行きなら、現代人は全員地獄行きだろうな」

「ということは天国に……」

「それはないぞ」

「あ、そうですか……。ではどこに行くのでしょうか?」


 まさか、そのまま地上をさまようということになるのか?


「輪廻を巡ってもらう」

「輪廻……転生するということですか?」

「うむ。地獄にも天国にも行けないような中途半端な魂は転生してもらうのだ。お主は、あと一歩というところではあったが、親不孝は大罪であるからな。仕方なしに輪廻を巡ってもらうことになるだろう」


 ああ、残念だが、生まれ変わることとしよう。天国がどういうところか見てみたかったが、それは来世にでも叶えるとしよう。


「では、いつ頃転生するのでしょうか?」

「もう心の準備が出来たのなら、今すぐにでもできるぞ」

「ああ、そうなのですか。……生まれ変わった時って、記憶を引き継いだりは出来ないですよね」

「なんだ? 引き継ぎたいのか?」

「出来るんですか?」

「希望するならな。特に、お主は魂が綺麗だからの。その程度の要望を通しても誰も文句は言わん。これが、汚れてたら、場合によっては完全にまっさらな状態にしたほうが良かったりするがの」


 俺の行いがよかったから、記憶を引き継げるらしい。でも、どうしたもんかなあ。まあ、俺という人格がなくなるという恐怖があるわけだ。しかし、記憶を引き継ぐことがいいことなのか……。


「貴様、記憶を引き継げ」

「えっ?」


 俺の背後から声が聞こえた。俺はすぐさま後ろを振り向くと、そこにはカラス頭の男が立っていた。


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