9話 小さいは、二度
五日間連続更新の最終日です。
「な、なんとか乗り切った……」
生徒会室でぐったりと顔を机に貼り付けているのは、武留会長の作ったテストを終えた大仁だ。
自分がいつも座る席で行ったテスト。
テスト自体も大仁にとっては厳しかったが、何より、それを見守る側の視線がすごかった。
別に学校が行ってるテストではないため、大仁以外は自由だった。
そして、暇だった。
だから、意味もなく大仁の近くをうろうろしてみたり、おもむろにテスト用紙を覗き込んで、意味ありげに「ふーん」と言ってみたり、向かい側の席で寝てみたりと、とにかく妨害がすごかったのだ。
中でも極めつけは、部屋の明かりを担当している会長が繰り広げる、光のパレードだった。
音が無い分マシかと思いきや、光だけでも十分に魅せる術を知っているようで、それは見事なものだった。
というわけで、そんなこんなを乗り越えた大仁は、色々な意味で疲れてしまったのだ。
「お疲れ様。私の能力使っておく?」
「いや……いいや。こんなことに使うのはなんか、馬鹿馬鹿しい気がする」
大仁と淳和がちゃんと知り合ったのは昨日の委員会が初めてだが、もう普通に会話している。
一年生どうしで会話している横では、会長と二年生たちが採点をしていた。
今回は五十点満点のテストで、もし二十点以下だった場合は再テストと言われていた。
こうしてへばっている間も、気が気でない大仁。
やっぱり、能力使ってもらおうかなと思い始めたくらいに、会長たちが各々の席に着いた。
採点が終わったのだ。
「えー、では大仁くん。今回の点数を発表するぞ」
「デレレレレレレレレレ」
「デケデケデケデケ」
「私もやった方がいいのかな!?」
「お願いだから淳和さん、あなただけは見方でいて……」
先輩たちのノリに乗ろうとする淳和を、悲痛な面持ちで止める。
「デン!」
「ジャン!」
「三十五点! ごうかーく!」
「やったあああああああ!」
生徒会室に拍手が起こる。
まるで何かの最終回のようだ。
拍手がおさまると、会長が改めて褒めた。
「いやー、大仁くんにしてはよく頑張ったんじゃないか?
私は二日目も覚悟していたんだけどな」
「俺にしては、本当に頑張ったと自分でも思います。やった!」
喜びがあふれてくるようで、まだ控えめにガッツポーズをする。
「さてこれで、基礎は頭に入っただろう。またどこかで抜き打ちテストするかもしれないけどな」
「それは本当に勘弁してくださいお願いします」
早口に嘆願する。
それに「冗談だよ、冗談。たぶんね」と本気とも冗談とも取れないような感じで返事をした。
ここで嫌な顔が極まっている大仁に、会長が少し真面目な顔で切り出す。
「よし、次は特訓といくか。そのついでに、能力についての説明もしようかな」
「特訓は嬉しいっすけど、また説明っすか……」
一瞬喜んだが、説明という言葉にがっくりとする。
「まあ大丈夫だ。細かく教えるつもりはない。
今回は身体を動かしながら、自分自身の能力について、よく知ってもらいたい」
「自分の能力……? え、十分に理解してるつもりっすけど……」
「能力っていうよりも、その使い方かなー。
逸勢や空海のような能力と違って、汎用性が高い能力だからな、大仁くんのは」
「汎用性……?」
「うん」
「どんな感じっすか?」
「それは自分で見つけるものさ」
そう言ったところで、机の下を這いずって生徒会室の扉の前に立つ。
学生服についたほこりを払うと、大仁に向かって言った。
「ほら、出発するぞ」
「出発って、どこにっすか?」
扉を開けて廊下に出ると、会長は人差し指を光らせてこう言った。
「体育委員のところだよ」
「おーい、おーーい! 体育委員長! 経子さーん? 牛丸 経子さーん?」
まるで借金の取立てのように扉を連打する。
ある意味、地獄の千本ノックである。
そのノック音よりもさらに大きい、まるで闘牛のような足音が扉に迫ってきた。
そして力強く開け放たれる。
会長は飛ばされた。
「うるさいわよ!! 一対どこの誰が……!!?」
一瞬で扉が閉められた。
その風圧に会長の髪の毛がファッサァとなる。
隣の大仁の髪の毛はまったくなびかない。
数十秒後、身だしなみを完璧にした経子が出てきた。
「あら、武留。そんなところに転がってどうしたのかしら」
「……ああ、たまには廊下に寝転んでみるのも悪くないなと思ってな」
薄汚れてしまった制服を払って、そんなことを言っている。
大仁も跳ね起きて、一応挨拶をする。
「そうなのね。でも、廊下に寝転がるなら、ここじゃあない所でやってくれるかしら」
「次からはそうするさ。まあ、冗談はそこまでにして。経子さんや、ダンベルを貸して欲しいんだが」
「ダンベルね。わかったわ。重さは?」
「うーん……。とりあえず、五、十、十五キログラムを一つずつだな」
「どれくらいの間借りるのかしら?」
「一週間だ」
「わかったわ。千彩! ダンベルの五キロ、十キロ、十五キロを一週間!」
注文をとり終えた経子は後ろを見て、大きな声で叫んだ。
「わかりました! あの、色はどうしましょうか!」
大きな返事が返ってきた。
しかも、あまり関係ないような質問と共に。
それに対して、会長に確認を取らずに叫び返す。
「黒よ! あと、紙も持ってきて!」
「はい!」
そのやり取りを終えると、会長を見た。
「それにしても、武留がダンベルを借りに来るなんて、珍しいわね。
何、肉体改造に目覚めちゃった? だったら私が効率のいい鍛え方を教えてあげましょうか?」
愉悦気味にそう言う。
会長は大仁を指差して
「ああ、俺が使うわけじゃなくて、大仁くんに使ってもらおうと思ってな。
だから、教えてくれるなら俺じゃあなくて大仁くんにだな。
と言っても、そういう用途に使うわけじゃあないから、すまないが、お断りさせてもらうよ」
と、スッと話した。
あらあら残念と返している間に、ダンベルを持った少女が扉から出てきた。
「あ、会長でしたか。こちらが、ダンベルです。
そして、こちらの紙に今日の日付とお名前、学年を書いてください」
「うん、ありがとう」
会長は何のリアクションも示さなかったが、大仁はがっつり反応をしてしまった。
後ろに経子を、目の前に会長という位置にいる少女を見下ろし、つい言ってしまった。
「小さい……」
「あ?」
次の瞬間、地面に転がっていた。
しかも、その小さい身体が大仁の背中に乗っており、腕を取られていた。
「いだだだだだ! ……この!!」
能力を発動し、自分の身体から引き離そうとする。
しかし、まったく動かない。身体を起こそうとしても、少女は微動だにしないのだ。
「あちゃー……。大仁くん、禁句を言っちゃったね。
経子さんや、何とかしてくれないかい?」
「まったく、しょうがないわね」
少し浮かれた足取りで大仁のもとへ行き、上に乗っかってる少女に語りかける。
「ほら千彩。まだ仕事の途中でしょ」
ギギギと固められていた腕がぱっと離された。
「あ、すみません! 会長さん! あと、あなた! 大丈夫ですか?」
地に伏せている大仁に、本当に申し訳ないといった表情で心配する。
大仁はその状態のまま
「うっす……」
と呟くのが精一杯だった。
それから、大仁を会長が起こし、紙も書き終えた。
小柄な千彩と呼ばれた少女は、もう一度深く謝り、体育委員会室に入っていった。
入っていったくらいで、会長が追加注文をする。
「あ、すまないが千彩さん。運動場の予約は明日取れるかな?」
「あ、明日ですか? ちょっと待っててください!」
部屋の奥の方に消えていく。
「何、グラウンドまで使う気? その子を鍛えるために?」
「おや、私、鍛えるなんて言ったか?」
「ほぼ言ってたわよ」
「え、会長が俺を鍛えてくれるんっすか!?」
千彩に恐れおののいていた大仁だったが、その会話を聞いてテンションが上がる。
「うん、そうだよ。明日半日くらいを使ってね。
だから、大仁くんも明日の予定空けておいてよ? せっかくの土曜日で申し訳ないけど」
「いやいや、全然問題ないっす! むしろ! 大歓迎っす!」
そんなこんなをしているうちに、千彩が戻ってきた。
「明日空いてました。午前、午後、両方ともです」
「じゃあ午前でお願いできるかな」
「はい、じゃあお手数ですが今度はこちらの紙にお願いします」
紙を再び差し出す。
その姿を見るのは、テンションの上がっている大仁。
「小さいのに強いんっすね!」
「あ?」
「じゃあまた六日後に、リベンジしがてらダンベルを返しに来るよ」
すっかりしょぼくれた大仁にダンベルを持たせて、立ち去る。
「ええ、せいぜい努力することね」
「すみませんでしたああああああああ!」
そう言って見送る二人。
その二人は体育委員会室の扉を閉めた後、油の切れ掛かっているロボットと、やってしまって落ち込む少女になってしまった。
そんなことを知る由もない大仁と会長は、生徒会室へ戻った。
その生徒会室にいた淳和が大仁を見て、即能力を使ったのは、言うまでもない。




