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少しして、森は霧のように消えてしまった。
やっと地面に下ろしてもらい、甘斗はぺたんと地面に腰を落とした。深く息を吐く。
色々なことがありすぎて、正直、頭が付いてきていない。
その額を、鈴代がちょんと小突いた。
「水くさいよ、甘斗くん? 夜遊びに出るなら、何で誘ってくれないのさ?」
「そんなんじゃないっすよ! な、なんでこんなところに……」
鈴代はぽりぽりと頬を掻いた。
「そう言われても――弟子の危機に駆け付けちゃダメなのかい?」
「…………え?」
甘斗はきょとんとつぶやいた。助けに来てくれるなんて、こちらはまったく考えてなかったというのに。
「でも、オレ逃げて……」
すると、鈴代は呆れ顔でため息をついた。
「あのねぇ――一度関わった以上、そう簡単には縁なんて切れないの。三日でも一刻でも弟子になった以上、ずーーーーっと弟子なの。だいたい僕は破門にした覚えはないけどね?」
と、鈴代は甘斗の額を続けて小突いた。
「けどね、僕は女の子はともかく、男は善意で助けたりはしないよ? うん、何があったとしても絶対に無料では助けない」
「ヌシ様、それは明らかに下心が透けて見えますぞ」
したり顔で言う鈴代に、楽浪が茶々を入れる。
そこで甘斗はやっと気付いた。
ここに来て以来、ただの一回も礼を言っていないということに。
「あ、ありがとうございました」
「うんうん。それから?」
甘斗はあれこれと考えた末、やっとのことで声を出した。
自分のためにも。後悔しないためにも。
「これから――その……よ、よろしくお願いします……先生」
「うん、合格」
顔を真っ赤にしている甘斗に、そうやって鈴代はにっこりと笑いかけたのだった。