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第九話『二人の幼馴染』

「はあ」

 時宮の家を出る。張った緊張が解けるのと一緒に溜息が出た。

「どうしたよ? 溜息なんてついて、ため息を一回すっと、幸せが一個逃げるらしいぜ」

 隣で歩くコージはへらへらと笑った、いつものどおりなのに、頭に浮かぶ単語は彼を妬んでる。

 「『力』のあるお前に何が分かるのか?」

 身勝手な言葉が頭の中で浮いたり沈んだりしていた。

 コージから見える白いオーラにイラついた。

 『共通』を閉じてオーラを見えなくしても、それは変わらない。言葉も感情も外に出すべきではないと分かっている。

「はあ」

 今度はふがいなさに溜息が出た。

「だからどうした? なんでそんなに溜息ばっか、今ので幸せ二個目だ」

 何も気付いていないように、真剣に彼は言った。

「言っても分からないって……」

 自分の喉から出た言葉はひどく冷たかった。

「お前変だぜ。ま、言いたくねえなら、これ以上聞こうとも思わねえけど……」

「……『個人』だ」

 話したくないのに、コージはそれを許さなかった。

「ん? やっと話すのか」

「『個人』だよ、『個人』」

「でも咲も、今まで無かった奴はいないって言ってたし、時間が経てば使えるようになるだろ?」

「でもいつまでも経っても使えないかも……俺が初めての使えない奴かもしれない」

「そりゃそうだけど……てかマイナス思考全開っすね」

 そして少し考えて、やっぱり首をかしげたままで

「でもさー、使えないなら使えるようになればいいだけだろ? 別にあきらめるってのでもいいとは思うけど」

 そして笑って締めくくる。

「ま、結局は……お前次第だろ?」

 ふと思えば嫌な感情は消えていた。

 もうすぐコージの家と自分の家の分岐点にさしかかるころ、ふと問いかけた。

「なあ、中学のはじめの時、どうしてお前は俺に話しかけたんだ?」

「またえらく唐突に、なんで今頃。別にクラスメイトに話しかけるのって普通だろ?」

「いや、……結構浮いていただろ? 入学式の日休んでたし、それに知ってるやつは流しかいなかったし」

「……ん〜あんまし言いたくないんだけど。それでも聞きたい?」

「あのなあ……実は負けたんだよ、ジャンケンに。何度かやっただろ、負けたら、罰ゲームってやつ。それで、そのときの罰ゲーム」

 聞かなきゃよかった、正直そう思った。

 ほんのすこしの表情が翳ったのか、コージはすぐに次の言葉をつないだ。

「でも勘違いすんな。あの一回は、負けてよかったんだ。今こうなってんだから、結果オーライ、そうだろ?」

「『負けてよかった』……ね」

 とても恥ずかしく、でもそれ以上に何かに響いた。

「何照れてんだ? お前が聞いてきたんだろ。それに嘘はついてないぞ」

 ニカッと笑って、コージは頭をバリバリと掻いた。

「じゃ俺はあっちだからな」

 そう言って、誤魔化すように分かれ道を走って行った。

 そして僕も自分の家への道を歩きはじめた。

 

 コージがいなくなって、いつもより静かな気のする帰り道はいつもよりつまらなかった。のんびり?むしろ、ぼーっと帰っていると後ろから声が掛かる。

「おっ陰気な奴がいると思ったら読人じゃない」

 流がかけ足で俺の横に並ぶ。

「なんだ、流か……」

 前を向いたままで、声だけから判断。

「『なんだ』ってのはないんじゃない。それより、これどうよ?」

 流は歩きながら、くるっと回る。

「……」

 流のそんな格好を初めて見た。

 長そでのよくわからない英語のシャツにホットパンツ。

 特にはじけそうな太ももにがヤバかった、本当に……ヤバかった。

 馬子にも衣装って言葉になるほどって思った。

 何となく恥ずかしくなって目をそらして、顔を俯ける。

「……何か言いなさいよ」

「――いいと思う」急かされて思ったことをそのまま口にしてしまった。まずいと思ったときにはもう口は動き終わっていた。

「……」

 どうして流の顔が赤くなっていく。

「どうしたんだ? お前が聞いたくせに」

「な、なんでもないわよ。いつもだったら読人、褒めたりしないじゃない」

「そうか?でも、お前の私服見るなんて初めてだろ」

「小学生のときはほとんど毎日見てたじゃない」

 流は当然と言わんばかり。

「小学生のときは話が違うだろ」

 まだ男と女ではないだろう。

「それに中学、高校入ってすぐのときにも、制服姿が似合っているか聞いたじゃない」

「それは制服であって私服じゃない」

 言い訳としては苦しい。実際制服も似合っていたが、ただ似合っているとは恥ずかしくて言えなかっただけ。

「でもあれよ、服装について聞いた点ではおんなじじゃないよ。その時、確か読人は『微妙』って答えたわよね。」

 どうしてこんなことばかりこいつは覚えているのだろうか。どうでもいい僕のセリフなんて適当に聞き流せばいいのに。僕はそのとき本当にそう思っていた。

「そういやそうだけど……」

「けど?」

 流は僕の顔を覗きこんだ。

「けどの先なんて……」

 返答に迷う。

「ないの?」

 流の顔は妙に真剣だった。

「ああ、ないな」

 でも僕はそれを気にも止めずにいつものように答えた。ただ流の反応はいつもと違っていた。流は今にも泣きそうだった。こんな性格だっただろうか?

 冷静にそんなこと考えている間にも、流の目には涙が溜まっていく。同時に僕にも焦りが生まれていった。

「いったいどうしたんだよ。俺が何か悪いことしたか?」

 言葉は流の涙に何の影響あたえない。

「読人は……いつになったら……気づくの?」

 流の声はもう嗚咽混じりだった。僕はそれにひるんで何も言えなくなることをなぜか負けだと思っていた。

「気づくって何にだ?」

「やっぱり。気付いてなかった……ね」

 流は悲しそうに俯く。

 もし『俺』がもっと流に敏感であったならあんな結末にはならなかったのだろうか?

 ただあのときの『僕』はずっと鈍感だった、そう鈍感だった、それだけ。

「俺がいったい何に気づいてなかったんだよ」

 意味の分からない流の涙に対して苛立ちが籠もる。

 でもその返答は走る足音それだけだった。遠ざかって行く流の背中。それは不思議と僕を後悔させた。

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