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第八話『個人』

「……」

 だが何も起きなかった。ただただ咲が変なポーズをしているだけで、不穏な空気が流れる。

 空気が冷めきるだけ冷めると、咲が自分の頭をポカとたたいて、テヘッと舌を出す。

「なんて……、実は私の『個人(プライベート)』を貴方たちは知っているのよね」

「それは……この、び・ぼ・う!」

 もう一度テヘっと舌を出して、ウインク。空気は再び冷める。

「そんな冷めた目で見ないで……、ほんと切ない。なんというか、確かに嘘なんだけど、もう少し乗ってほしいというかね……。……ふう、ま、本当は若さよ、若さ。みれば分かるでしょうし、それにいつか言ったでしょう? ……貴方達、私はいったい何歳に見える?」

「……十歳くらい?」

 もしかしたらもう少し若いかもしれない。

「いや十三歳だろ?」

 コージが真剣に言った。

「ぶっぶー、正解は二十二歳、見えないでしょ? 『時間制御(タイムエンペラー)』っていう、制御といっても自分の成長の時間が、勝手に遅くなっているだけで、何も制御できていないんだけど、名前負けかもしれないけど……、まあ名前は自分で決めるんだし、『次元(ディメンション)』ってものは、気持ちが能力に直接作用するものだから」

 咲は罰が悪そうに髪をいじる。

「――そこで今から貴方達の個人が何か調べようと思うの!」

 咲は豪快に押入れを開ける。僕とコージは呆然として、その光景を傍観していた。


 そしてなぜか、押入れの上の段には魔法使いのようなローブを着た女性が正座していた。フードを被り口元を布で隠しているため、表情はわからないが、それでも彼女が美しい外見をしていることには変わりない、もっとも目立つ特徴はその銀の目と同色の髪、それがいっそうその女性の美しさを引き立てて、なのになぜか危なげに見えた。

 彼女はいったい何者で何をする気なのかだろうか。

 そんなまともな僕の考えは彼女は盛大に裏切った。

「じゃじゃじゃじゃーん」

 ただただ、うれしそうだった。なぜ押入れに入っていたのだろうか、それすら聞きそびれるくらいに。

「彼女はスキャナ、偽名よ。それで彼女の『個人』は……他人の『個人』を分析することができるの」

 咲は彼女のことを自分のことのように誇らしげに話す。

「えっへん!」

 しかしスキャナはそれ以上に誇らしげだ。

「私の『個人』も、彼女に調べてもらったのよ。それで私が制御しているのが時間だと知ることができたの」

「そうわたしのおかげ」

 やっぱり誇らしげだ。

「で、今から実際に貴方達に『次元』を使ってもらうわ」

「もらうの!」

「じゃあはじめは『共通(コモン)』から行きましょう」

「れっつごー」

「お〜なんか楽しそう」

 コージはそんな二人を見て、なぜかいきいきとしていた。

「てか、行きましょうって言われても……」

「わたしに、まっかせなさい。じぶんはクロスであるみとめればいい」

 えっへんと胸を張った。

 自分を超越者と認める?

 言葉を反すうしても、意味が分からない。咲がやれやれと手を振った。

「要するに自分が超越者と思いこめばいいの。何でもいいから『自分が超越者である』と断言すればいい」

「「俺は超越者だ」」

 半信半疑でそう口にする。

 途端に視界が変化した。

 スキャナと咲の体に白く薄いもやのようなものが視える。

 近くにいた咲のそれに触れようと手を伸ばすが、手はすり抜け、もやに触れることはできない。

「それが漫画にあるオーラ的な奴でしょう。それが視えるなら貴方は間違いなく超越者よ」

 咲がやけに軽いノリで言う。

「そのオーラのいろで、かんじょうがわかるのっ!」

 スキャナは何がうれしいのか笑顔で説明をしてくれる。

「でも私達は超越者だから、オーラは白色にしか見えていないの。いわばそれが『超越者』の証なの。相手が一般の人だったらその色で大体の感情が読めるんだけど。……とにかくこれで貴方達も晴れて『超越者』の仲間入り。あと、見たくないと思えば、それだけで『共通』を閉じることができるから」

「えへへ。じゃあここからわたしのでばんだね!」

「それじゃスキャナに貴方達の『個人』も調べてもらうわよ」

 僕とコージはスキャナの前に並べられ、コージの額にスキャナが触れる。コージが照れた顔をしたが、スキャナは気にした様子もなく、数秒間触れ、その後すぐにコージから手を放し、スキャナはふむふむと頷き、次に僕の額にスキャナが触れた。

「うッ」

 頭に雷が落ちたような痛みが走り、同時にスキャナもよろめく。

 咲はスキャナに、コージは俺に、それぞれが駆け寄り、二人の体を支えた。

「どういうことだよ、おーい生きてるー?」

 コージが僕を揺さぶる。

「どうしたのよ? 今まで、こんなこと無かったじゃない」

 スキャナは自分の力で体勢を立て直した。

「わからない」

 スキャナは腕を震わせた。

「コージは超越者のそれだったど‥‥…、でもドクトのはちがう。ふつうのひとのそれで『なか』にまっくらなぶぶんがいっぱいあって、ナカにはいろうとしたら――こうなったの」

 スキャナは申し訳なさそうに、僕のほうを見る。咲とコージも心配そうな顔をして僕を見ていた。

「気にするな」

 そんな気持ちを込めて、僕は微笑んで見せた。

 

 少しの休憩を挟み、スキャナは咲に説明をはじめる。

 どうしても、スキャナの言葉そのままでは理解できないため、、咲を間に挟むことになった。

「浩二君は土の硬さと重さを調節する能力みたい。土に触れた時に、理想とする硬さと重さを再現することができるみたい」

「それで、読人君はさっきいったとおり、なにもわからなかったって。でも貴方は確かに『共通』を使えるわけだし、超越者であるのは間違い無いから、きっといつかわかるわ。スキャナによると真っ暗な部分が怪しいんだって。今までにこんなことなかったから確信はないみたいだけど」

 自分に不安が募る。僕ってなんなんだろう。

「でも気にしないで。貴方の『個人』はわかっていないだけで、きっとあるわよ」

 咲は精一杯励ましてくれているようで、

「ふふっ」

 僕は笑った。そうだ、きっと使えるようになる。とにかく前向きに、だ。

「だ、大丈夫か?」

 いきなり笑い出した僕にコージは心配そうな視線を向けてくる。

「たぶんな」

 残念な気持ちは帰りにでも愚痴ってやろうと思い、今は心にしまって封をする。

「ここで説明は終わりで、ここからが本題」

「本題?」

 めんどくさいことを言うんじゃないだろうか。

「そう本題。無料(タダ)でいろいろ教えてもらえるわけ無いでしょ」

「それもそうだけど」

 押し売りみたいなもので、納得してしまった以上、あとは何も言えない。

「でもそんな大変ことじゃないわ。貴方達は最低限『共通』まで使えるようになったんだから、それを使ってほしいの」

「使うほしいって?」

「簡単よ、超越者ってのはオーラが白いでしょ。だから超越者を見つけたら、私達に報告してほしいの」

「何だそれだけか」

 言ってからすこし考える、正直めんどくさいと思ったが、恩を仇で返すってのは好きじゃない。

「やってもいいけど……」

「えっと……待って、まだそれだけじゃないのよ。私達は『未確認組織(ダーク・マター)』って組織に所属してるの。それで貴方達にも所属してほしいのよ」

「いいぜ」

 コージは考え無しに、そう即答する。

「いやいや、コージ待て、それが何か分かってないだろ?」

「んー、正直あんまり……、でも、まあいいかなと……」

「……お前の人生だし、まあいいけど、とりあえず返事は話を聞いてからのほうがいいだろ?」

「それはそうだ……、よし、じゃ、じゃあ撤回する」

 咲が残念なものを見る目でコージを見ていた。

「……うん、それで咲、その未確認物質だっけに、所属するっていうのはどういうことだ?」

「……ああ、うん。そうね、まあ大体で言うと、超越者の保護に暴走した超越者の捕獲と研究に協力してってことよ」

「暴走?」

「そ、あんまり使いすぎると、能力が暴走するのよ。『共通』だとまず大丈夫なんだけど、『個人』だと特に。ちなみに私の能力も軽く暴走気味なのね、だから私の回りじゃ時間の流れが少し変になることもあるし」

 さらっと咲はすごい事を言った、なぜか俯き気味で。

「それで完全に暴走すると……自分の『個人』を見境無く使うことになるの。浩二君だと触れた土という土が、何らかの変化をするようになるんじゃないかしら。意識は混濁して、……んーなんていうのかしら、ゾンビっぽいかんじになるわね」

「ぞ、ゾンビ?」

 コージは早くもビビッている。

「まあ大丈夫だわよ。暴走してもすぐ鎮圧してもらえるから。それには、それに向いた超越者が回されるし、志願しないと選ばれないから。そのかわり志願するとバイト料も出るけどね、それぐらいかな。それで読人君もどうする? あと浩二君もやめるなら今のうちよ。別に参加しないからって、そんなにデメリットはないわよ。ただ暴走したら止めるときに、それなりの費用がかかるくらいかしら。あ、それと研究への協力ってのも、マッドな人体実験とかはないから安心して、血液もらったりとか、そのぐらいね」

「そうか……、それなら俺は所属でいいよ」

「俺もいいぜい」

 コージは、なぜか咲に親指を立てている。

「じゃ二人とも所属ってことで。これ書いて」

 えらく事務的に所属の手続きは終わる。

「はい、これでオッケー。最後に私のメアド教えておくから、もし何かあったらここに連絡してね」

「了解」

 コージはどこかか高揚した様子で、僕は普通……なつもりで、案外、自分のことでもわかっていないかもしれないが。

「これで話は終わり。もし何か聞きたいことがあったらここに来るか、さっき言った通り私にメールでも送って」

 僕とコージは立ち上がって家の外へ行こうとする。

「あッ」

 咲がいきなり大きな声を上げた。

「待った待った、そういや忘れてたわ。そういや私のメアド登録するときはタイムでお願いね、あんまり本名は使うなって言われてんのよ。あと未確認物質の仕事のときも、タイムって呼ぶように」

「もう行ってもいいんですか?」

「いや、後ひとつだけ。貴方達も、適当に呼び名と能力名を決めて私にメールして頂戴」

 咲はすこし考えて、

「これでほんとに終わり。じゃまたの機会にね、また呼ぶと思うから」

 そして二言三言挨拶をして、俺たちは彼女の家を後にした。

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