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第七話『チカラ』

 まだ十二時前、なのに僕は一時からの待ち合わせが楽しみで、僕は待ち合わせ場所に向かった。少し歩くと、すぐに待ち合わせ場所になっている民家が見えてくる。

 やはり早く来すぎたようで、まだ待ち合わせの時間まで一時間弱の余裕があった。今日は何があるのだろうか。そんな考えをめぐらせながらゆっくり歩いた。それはなんとなく楽しいものだった。

 どうしてこの民家なのだろうか。確かに僕は昨日ここであの少女に出会った。でもそこを待ち合わせ場所にする必要なんてない。近づく民家を睨みながら考えた。でも答えは出そうにない。もしかしたら答えは案外当たり前のことなのかもしれない。案外彼女の家だったりして。

 近づく間に民家の前に二つの影を見つけた。一人は僕が待ち合わせをしている少女、もう一人は、背が僕と同じくらいのニット帽をかぶった若者。二人は一言二言の会話を交わし、その後、家の中へと入っていく。本当に少女は何者なんだろう?

 数秒後に僕は民家の前に着き、玄関のボタンを押す。

 ピンポーン

「はーーい」

 ドアが開いて出てくるのは待ち合わせ相手の少女。昨日と同じ服装で、手にも同じくクマのぬいぐるみを抱えられていた。彼女はやはり綺麗で、もし僕がロリコンだったら危なかった、そう思うこと自体危ないのかもしれないが、その時は気づかなかった。

 彼女は僕を見ると、着物の袂から高そうな懐中時計を取り出して時間を確認する。

「早いわね。まだ待ち合わせまで結構あるわよ。そんなに律儀だとは思わなかったわ」

「そうですか?比較的、真面目だと自負しているつもりですが」

「それにしては眼つきが悪いし、それに姿勢が悪いわね。後、勝手に真面目付け足したわよね」

「……」

 細かい指摘でもあるし、言葉は確かに的を射ていた。確かに自分が真面目に見えるとは思えない。もともと強面である。ただ、その強面を補うために律儀だったり真面目だったりするのは本当だ。無意識かどうかわからないがいつの間にか自分はこういう性格になってしまっていた。

「あと服装?ほかには……」

 少女はいまだ言い続けていた。

「……もう不真面目でいいですから」

 僕は大げさにうなだれる。とはいっても、本当に落ち込んでいるわけではない。ここまで面と向かって言われたのは大分久しぶりだが、それでも慣れたものだ。はっきり言ってなんとも思っていない。ただの自分をよく見せるためのおふざけみたいなものだ。

「あら、少し意地悪だったかしら。時間より早く来たんだから、責めることではないわよね。確かに貴方は真面目かもね、いいでしょう、認めましょう。――待ち合わせに遅れる奴もいるくらいだものね、フフッ」

 眼がギラリと光る。

 なにか怨念めいたものが瞳に宿っていた。さっきのニットは遅刻したのかもしれない。でも遅刻ぐらいで怖すぎる。

「何呆けてるのよ。早く家の中に入りなさい、外は寒いでしょう?」

 瞳にはもう何も宿っておらず、純粋に透き通った瞳だった。僕は言われるままに少女について、家の中に入った。

 

 家の中は、思惑外れて普通だった。こんな少女が一人で住んでいるくらいだから、たとえば荒廃してるとか、ぶっとんだものを想像していた。

 さすがにそれはないような気もするけど。でも、想像なんてたいていそんなものだ。現実より無駄に大袈裟だ。

 廊下を通り和室に案内される。部屋は綺麗にかたずけられ、机の上には花が生けてある。その机の向かいにはニットをかぶった男がこちらを向いて座っていた。僕の顔を見るなり、なぜかニットは俯いた。

 目が合うと何かまずいのだろうか、別に覗き込むようなことはしないが。

 ニットの隣に僕を座らせて、少女は机を挟んだ向かいに座る。

「じゃあはじめるわよ。本当は一人ずつ説明したいんだけど、そこのニット君が遅れちゃって」

 予想的中、少女は十二歳とは思えない眼光で、ジロッとニット男を睨み、男はビクッと身を震わせた。

「……すんません」

 最近どこかで聞いたような声。僕はニット男を確認するように眺める。顔は見えなくとも輪郭には覚えがあった。

「……お前もしかして……コージか?」

 男は再びビクッと震えた。ピンポーンと正解の音が鳴ったようなものだ。

「――ばれた」

 罰が悪そうに顔を上げて、深く被っていたニット帽を脱ぐ。顔を真っ赤にした男は、思ったとおり幼馴染の男だった。

「どうしてお前がここに……?」

 明日付き合えとメールを送ってきたのだから、コージは今日忙しいはずなのに、どうしてこんなところで油を売っているのか? しかしその答えは簡単だった。

 つまり

「お前、こんな少女に呼び止められて、のこのこと、ここまで来たのか?」

 僕は笑う。どうしてコイツは少女のこんな話を信じたのか、普通の奴なら笑い飛ばして信じたりはしないだろう。

「そういうことになら、ここに来ているお前は笑えないんじゃね?」

 確かにそうだった。僕も根拠なく彼女を信じてここまで来ているのだ。

「じゃあ肝心のその話を聞こうか」

 笑うのをやめて、少女のほうを向いた。目が合うと、彼女はすぐに話し始めた。

「貴方達、知り合いだったようね、じゃあ昨日ニット君が言っていた親友ってのは、貴方のことでいいのかしら。『一緒に連れてきたい奴がいるからそれでもいいか?』って言っていたから、ちょうど良かったわ。それに私の話す手間も省けたしね」

 それであのメールか。適当に返信したことに対して、少しだけ、ほんの少しだけ罪悪感がわいた。

「もういいじゃん。それより、読人、お前も『チカラ』があるっていわれたんだよな?」

 コージは頭をがりがりと掻く。

「まあな。そうだ、それで……『チカラ』って何?」

「そうね、それじゃ『チカラ』の説明をはじめようかしら、でもその前に……名前教えてもらっても……いいかしら。あ、フルネームで」

「風見 読人で、こっちが的場 浩二」

「ん、読人に浩二ね。私は時宮(ときのみや) (さき)、咲って呼んで」

 呼び捨てにするのはどうなのかと、僕は返事をしないが、彼女にそれを気にした様子はない。

「じゃあ、説明をはじめるわね。私が言う『チカラ』について知っている限り教えるから聞けるだけ聞いくといいわ。この『チカラ』は二種類あるの。

 一つは発現した者に共通に使える『共通(コモン)

 もう一つは一人一人が違う能力を持つ『個人(プライベート)

 この二つが私の言う『チカラ』で、その二つをあわせて『次元(ディメンション)』というの。ここまでは……いいかしら?」

「まあ、なんとか……」

 「それじゃ、話続けるから、わからないところがあったらその場で聞いて」

 返事を待つこともなく、咲は矢継ぎ早に話を続けた。この調子で、本当に尋ねたら説明してくれるのか疑問に思う。

「『共通』ってのは他人の心に干渉するチカラなの、それには段階があって、より高い次元に行くほど、能力の段階も上がり強いチカラを使えるようになるわ」

「心に干渉する? 高い次元?」

 言われた通り質問してみる。

「あらあら、完全にこんがらがっているわね、貴方たち真っ黒」

 キチンと回答はもらえたが、その回答に、回答が必要だった。

「そうね、そこから説明するべきね、これが『共通』なのよ。個人差もあるだろうけど、たいていは色を媒体として感情を読むことができるわ。それでこれが第一、ここまでなら、超越者であれば、誰でも使えるわ。超越者ってのは私たちのことね、その名の通り次元を超えた者ってことよ。じゃついでに第二もいっときましょうか」

 咲がそう言った途端に体がふらつく、封じたはずの昔をを思い出した。突然にやってきたそれは、同じく突然に去って行った。

「んっおかしいわね……、でもわかったでしょう?」

 一瞬だけ不審そうな顔をした咲が、したり顔で言う。

「まっさすがに気づいただろうけど、これが第二、感情の操作ね。その人の中にある過去の記憶を利用して誘導するの。普通はあまり大きな影響を与えることはできないんだけど、過去に持つ記憶によってはね……」

 咲は僕を見た、しかし僕は何も答えず知らないふりをする。

 追求することもなく、彼女は何もなかったように話続けた。

「第一と違って全員が使えるってチカラじゃないけど、高い次元に行った超越者はほとんど使えるわよね。あっそうそう高い次元に行くってのも質問にあったわね」

 咲は始め宣言したとおり、質問にはきっかり答えるようだ。

「まず前提として、私たちはこの世界にいないのよ、世界からずれ始めてるって言うのかしら。それこそが『次元』のチカラの源、ずれた世界は精神を加えた四次元の世界。だから、その世界へと移るほどに私たちの『次元』は強くなる。だから四次元により近づくこと、それこそが高い次元へ行くことなの」

「うーーん」

 僕は首をかしげたし、コージもポカンとしていた。わかったようなわからないような、それが正直な僕の感想だった。

「まっそんなことどうだっていいのよ。私たちがどうこうできる話じゃないし、それより今からの話の方が大切」

 それならどうして説明したのか。しかし、本当にどうでもいいのか、咲は話を止めない。

「じゃあ『共通』で使えるチカラってのはそれだけなのか」

「いやたぶん、まだ上の段階はあると思うんだけど、どんなものかは知らないわね。だって使えないんだもの」

 咲はなぜか威張った。

「あとここ、大切なんだけど、同じ超越者の考えは読むことはできないの。つまり『共通』を使うと超越者を探せるの」

 コージはうんうんと唸っている。果たして理解できたのか? 一応の友として不安にはなる。

「大丈夫――よね? これで『共通』については終わりだけど、まっそんな深くは考えなくてもいいわよ。超越者自体、そんな多くいるものでもないし、なにかに巻き込まれることもなかなかないでしょう」

「じゃあ、俺と読人、二人の親友が超越者なったって、ものすごく珍しいことじゃんね?」

 なぜかコージはうれしそうだった。いったい何がそんなに嬉しいのか、僕に想像することはできない、もともと感情の起伏が多くないせいかもしれないし、それ以外の問題があるからかもしれない。かと言って別にそんなに知りたくもないが、なんせコージだし。それに……

「誰が親友だ?」

「そうでもないのよ。超越者がの回りの人は超越者になりやすいから。それでも珍しいには違いないけどね」

 完全にスルーか……。

「俺か読人、どちらかは釣られて超越者になったってことか?」

 そのまま会話は続く、もういいです。

「その可能性は高いわね。どちらが釣られたのか。それは調べれば分かると思うけど……。釣られた方は無理やり超越者なったようなものだから、あまり強い力にはならないしね」

「えっ、そうなの? 二人でチカラに差があるのか……」

 なぜかコージは悲しそうだった。先ほど同様に、なぜそんな表情になるのか僕には分からなかった。

「後で調べてあげるから、続き『個人』について説明するわよ……といっても『個人』は大して説明することもないんだけどね」

 コージはあからさまにうれしそうな顔を浮かべた。

「超越者によって、『個人』はそれぞれ全く違うチカラになるから」

「違うチカラですか?」

「そう、違うチカラ。よく似た『個人』を持つ超越者はたまにはいるけど、完全に同じ『個人』を持つ超越者はいないでしょうね」

 咲はやけに自信を持ってそう言う。

 なぜ咲がそう言い切れたのか、僕にはそれが不思議でならなかった。

「『人の性格みたいなもの』。そう言えば分かるかな?」

 咲は僕の顔を見て、そう付け足す。

「性格?」

 コージがイライラと聞き返す。もう考えるとかそんな話ではないのだろう。

「そう性格。性格なんて完全に同じ人はいないでしょ。それじゃあ読人君、それはなぜだかわかるかしら?」

 いきなり僕に話を降る。

「うん……漠然としたものだから、かな?」

 なんとか知恵を絞って答えてみるが、その答えは曖昧なものだった。それでも咲は上出来、上出来といった調子でうなずいていた。

「でも、それだと五十点かな。性格って周囲の環境で決まるじゃない。要するによ、『個人』も同じなのよ。超越者の考え方や過去、そして現在、いろいろな要素で決まるの。そりゃ生まれつきってのもあるけどね」

「だから一人一人違うものになる……と」

 最後は僕が続けた。

「そういうこと」

 咲は満足げに頷いた。

 コージも理解できたのか満足そうにうなずいていた。

「だからこそ『共通』より『個人』の方が重視されるのよ。それに『個人』の能力の数は、最低一つ以上、威力だって圧倒的に『共通』より強いから」

「『個人』については以上よ。最後に私の『個人』を見せてあげる!」

 そうして少女は微笑んだ。

第七話は非常にややこしい話だったと思います。

読んでくれた方はありがとうございました。

もし何か誤字、またはこうすればもっと分かりやすいなどあれば、評価、感想に書いてくれるようお願いします

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