第六十一話『はじまりのはじまり』
キンコーンカンコーンと初回の授業の予鈴がなる。
「珍しいよなあ?」
隣に座っていたコージが不意にそんなことを言った。
ちなみにいつの間にか同級生になっていたらしい咲はこの講義には出ていないらしい。
「何が、だ?」
「何がって、見ればわかるだろ? 水野さん来てないじゃん」
来るはずがないことを俺は知っている。
彼女がウェイブに戻ったのならば、ここに彼女の求めるモノはないはずだから。
彼女はきっと、奥へ奥へ進むのだろう。
暗い暗い世界へ。
「俺が知るわけないだろ、そんなこと」
僕だけがここにいる意味は本当にあるのだろうか?
頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
「へえ、変なこと言うもんだ、いつもなら、そんなに落ち着いてないだろ?」
「そうか、こんなもんだろ? 別にそんな関係でもないしな」
忘れた彼女との、幾度も変わった関係の最後はただの幼馴染なのだから。
「なんか変だな、どうした拾い食いでもしたか?」
「さあな」
何もわからないまま、口を出たのはそんな言葉だった。
「さあなって……、高校んときあんだけのことやったくせに、何恥ずかしがってんだ」
「なんかあったか? 正直あんまり記憶にないんだけどな。俺自身、目だったやつじゃなかったし」
あんまりどころか、まったく記憶にはないのだが、覚えたといっても素生だったり、関係だったりで、出来事はあまり覚えていない。
「そもそもがだ、……お前俺が記憶喪失なの忘れてるだろ?」
小声でそう言うと思い出したようにポンと手をたたいた。
「あーあったなそんな設定」
「人の人生一言でまとめんな……」
「うーん、まあ、話す分にはあんま変化ないし……、お前が記憶喪失になったっていってもな。それで高校の時の話も聞いとく? もしかしたら役に立つかもしんないし、あんまそうは思えないけど……」
キンコーン
コージがそこまで話したに本鈴のベルが鳴る。
遅刻しているのか、何かしらの事情があるのか、教室にはまだ教授らしき人物はいない。
「まだ来てないし、暇つぶしにでも話そうか? どんな反応するか見てみたいし……」
ガタンッ!
教室のドアが勢いよく開き、一斉注目が集まる。
そこには大学生には思えない、少女が立っていて、それは朝、家でこの講義には出ないと言っていたはずの彼女で、それ以上にその表情は硬く、異常で、何かあったことは間違いなかった。
それは長いやすみの終りだった。
ものすごく短いですが、その分次は二週間以内くらいに投稿しようとおもいます。