第五話『帰宅』
ガチャガチャガチッ
玄関のドアが音を立てて開く。時計は午後二時を指していた。
うん……思ったより早く家に着いたな。あんなことがあったんだ。そう思うのも仕方ないのだろう。
「ふああ」
腹いっぱいになったら眠くなってきた。
そう思いながら、ゲームの電源をつけた。ほとんど癖のようなものである。30分くらいだっただろうか、ゲームの電源はついていたが、完全に意識は食堂の帰りの出来事に飛んでいた。
「『チカラ』かあ」
宙にぼやいた。
ある意味、不思議な力というのは男の子の憧れである。女の子にとってどうなのか。それは知らない、僕は男の子だから。でも実際無いとは思いながら、あってほしいと、みんな願っている、そうだと思うし、そうであってほしい。その証拠にファンタジー系の映画がたまにヒットしているのだと、僕はそう思う。電気の無駄遣いであることに気付いて、ゲームの進行状態をセーブして電源を消す。でもどうだろうか。本当に僕はそんな世界に足を入れる事になるのだろうか。不安はあった。でも僕の答えは、もう決まっていた。ここで引いたらこれから何もできない。そんな気がしたから。そう思ったら、急に体が軽くなった気がした。体重計にのっても変化は無いだろうけど。
ふいにケータイがちかちか光っている事に気づく。画面には「メールを受信しました」との文字。決定ボタンを押し、僕は内容を確認する。
差出人 的場 浩二
題名 明日の予定
内容 明日暇してないか?
一緒に来てほしいところがあるんだが。
決して悪い話じゃない。
早急に返信求む。
何だ、コージか。
急にめんどくさくる。ここまでめんどくさい級友も珍しいもので、まだ流の方がマシだ。
コイツも中学で一緒になってからは流と同じく、ずっと同じクラス。それだけなら、まだいい。こいつに付き合うと、ろくなことがないときたもんだ。
しかも明日は僕も大変なんだ。もしかしたら新たな世界の幕開けなのに、付き合ってられるか、そう思うと送るメールの内容はあっさりと決まった。
宛先 的場 浩二
題名 無題
内容 嫌だ。
では送信。
五分後、また僕の携帯が不気味に光る。
差出人 的場 浩二
題名 Re:無題
内容 お前に優しさは無いのか?
断るにしても理由を書け。
まぁいい。そんなお前にも慣れた。
しかしむかつくので明日何があるかは教えてはやらない。
せいぜい後悔するがいい。
じゃあな。d(-_-)
「別に気にならないし」
一言だけ吐いて、ケータイを閉じた。僕は勉強をする事に決めたのだ。
例え、センターで合格確実な点を取っていたとしても、さすがに二次試験で零点だったなら、その評価も覆りかねない。それだけはいやだ。
勉強していると時間はすぐに過ぎた。
気がつくともう七時。それは、一般人にとっても僕にとっても、夕飯時だった。
そこで気づいたことは、冷蔵庫にはケチャップしかないということ、そして何も買わずに食べるだけして、僕は家に帰ってきたこと、そのことだった。めんど
めんどくさい……、そう思い、棚を漁るとカップ麺があった。
それで我慢して今日は早く寝ることにする、もしも明日、待ち合わせに遅れたら大変だから。
それからは問題無かった、食べ終わり次第風呂入って横になる。
ただひとつだけの問題は、なかなか眠れなかったこと、それだけだった。
遠足前の小学生みたい、そんなところ。