第四十九話『それぞれの目的』
少し考えて、歩く速さと同じく、ゆっくりと優羅は話しはじめる。
「『欠けた環』というのは『未確認物質』と同じ、超越者を主体とした組織の名前。言いかえれば同じなのはそれだけで、それ以外は真逆なのだがな」
「真逆……ね」
咲は顔を歪め苦しそうに呟いて、優羅を見据えている、その顔はどこか苦しそうに見える
「……なんでもないわ。優羅、話を続けて」
「そうか」
二人の間に何があるのかは分からない、優羅はただ頷いて、咲は何もなかったようにただその目を伏せる。
「真逆である以上、『未確認物質』にも軽く触れておこう。一応、一度は聞いているはずだし、あくまで補足程度だ」
「なんか学校の授業みたいになって来たなあ……」
コージが変に重い溜息をついた。
「『未確認物質』というのは、一言でいえば『共存』を目的とする組織だ。ここで言う『共存』とは一般人と超越者のこと。対して『欠けた環』は『淘汰』を目的とする」
「淘汰……?」
「辞書的にいえば『環境に適応した生物が子孫を残し、他は滅びる現象』ですね」
梅が誇らしげに話す。
「それは知ってるけど……」
「つまり梅の言葉を借りるなら、『環境に適応した生物』こそが超越者であり、『他』を一般人とする、それが欠けた環だ」
「えっと、つまり???」
コージは頭にの周りに多くのハテナを浮かべている。
「超越者を人より上に見たのが『欠けた環』、超越者も人と見たのが『未確認物質』ってことだろ?」
そして今はもうなぜ知っているのかも分からない、自分の知識の正誤を優羅に確認する。
「昔の『未確認物質』と、『欠けた環』が同じなんだな」
「――ッ!!」
優羅が声にならない声で揺れる。
「やっぱり――!」
優羅のひねり出した声はそれだけだ。
「いや…………なんでもない」
そうは見えないのに、優羅はそれを誤魔化して話を無理に進めた。
「『欠けた環』は超越者を集め、超越者だけの社会を作ろうとしている。たとえ、そのためにいくら人が犠牲になろうともな……」
途中から咲が言葉をつなぐ。
「そしてより多くより強い超越者を集めた組織こそがその目的を達成する。だからこそ、私は狙われて、君たちも狙われる。多いほうが勝つならば、相手の数を減らすのも手だもの」
「そういうことだ。だからこそ、超越者であることを隠す必要がある」
「それに二つの組織の目的の違いは、その手段を左右する。『共存』を目指すには恐怖はあってはならない、しかし『淘汰』ならば恐怖で押さえつけるだけ十分だ」
優羅の言葉ひどく重く、何も言えない。
「……カードの必要性はわかっただろう?」
コージと僕はただ頷く。
気付けば、大分家の近くまで帰ってきていた。
「……そうだ、もう俺ん家だな。難しいことはよくわかんねえけど、適当に考えてみるわ。じゃ読人もあんま悩むなよ」
コージはそう言って離れて行く。
僕はこれからどうするべきなのか、そんな漠然としたものが胸の中に残っていた。
「ゆっくり考えるといい。急いで答えを出す必要もない。とにかく難しい話はここまでだ」
それでも家に着くまで、そのことばかり考えていた。