第四十八話『メンバーカード』
「あっ……!」
出口に向けて歩き始めてすぐ、僕たちを先導するように歩いていた優羅が声をあげて立ち止まりグイっと振り返り、それに合わせて皆が足を止める。
「そう言えば大事なことを……。あーどこだったか、確かここらにいれたはず……なんだが……」
ポケットをがさがさと漁る。
「これだ、これ。これを渡さなくては」
僕とコージのちょうど間くらいに突き出された手には二枚のカードが握られている。
一枚には僕の、もう一枚にはコージの、それぞれの顔の写真が印刷されているようだが、そのままでは細かくまでは見えない。僕はカードへと何の気なしに手を伸ばした。
「……免許? にしてはあんま見たことないな」
「――いあたッ!!」
「師匠いきなり掴んじゃ……」
梅の忠告も間に合わない、ビリリと、まるで静電気に触れたように掴んだ手がしびれ、激しい痛みで反射的にカードを手ではじいた。
それはコージも同じだったのか、アスファルトには自分のカードの他にもう一枚落ちている。
「ッ痛ぇ! ……何だよもう」
コージは手をぶんぶんと振る。
カードは落としたままで優羅の目を見る。
「あー先に説明しておくべきだったな。……とにかくもう大丈夫だから、早くカードを拾うといい」
おそるおそるカードに触れるが、今度は優羅のいうととおり、何も起きない。
「これで君らは、正式に『未確認物資』のメンバーになるわけだ。要するに君らは合格で、それは組織内での身分証明というわけだから。とりあえず、なくさないように気をつけるといい」
「……」
いきなり過ぎてその言葉を理解できない。
何が合格なのか? 何で合格としたのか?
「……君たちは試されていた、それぞれが超越者であることを選んでから、今の今まで。君らが超越者であることに致命的な問題がないかどうか、その適正を。君たちには悪いが、監視も付けさせてもらっていた」
「そんな勝手な……」
コージがイラつきながら、ボソリと言った。
「……今から殺人を犯そうとするものに、こんなチカラが渡ったら、どうする?」
言葉を遮るように嗜めるように話す、その内容は例え話のようでどこか現実じみていた。
その言葉はあまりに重く、黙るしかない。
「納得してくれればそれでいい。監視が知らぬところで行われたことは悪いと思うが、仕方ないことだ。当然君たちのプライバシーは他に漏れることもないし、私も監視の内容や方法については知らない」
「むぅ……確かに……てかアレ見られたのか」
少し落ち着いたらしいコージは今度は青ざめ始める。
「とにかく、このカードは大切なものだ。さっきの痛みも、カードに君たちを認識させて、君たち以外にそのカードを使用できなくさせるものだ」
「ここまでで何か質問はあるか?」
「いや、今のところはまだ」
「何よりはそのカードを持っている限り、君たちは超越者であることを隠蔽できる」
「隠蔽……??」
「あくまで、『共通』でバレなくするだけで、特に君らに何か及ぼすものではない。それにこっちが何かしらのチカラを使えばバレる。あくまで『欠けた環』に超越者を識別させないためだ」
『欠けた環』……
その言葉には何かあった。それが何かはわかる。でも何があるのかはまだ分からない。
「読人……?」
「『欠けた環』ってナニ?」
僕が言おうとしたことと、同じ意味のセリフをコージが言うが、……でもなぜか、その意味は僕の疑問とどこか違っている気がする。
そして、その言葉に今までずっと無言を通していた咲がピクリと反応した。
「そうだな、長い話になるし、それは歩きながら……か」
再び優羅は歩き始める。