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第四十四話『ずれ』

 病室の布団の上でゴロンと転がって、なんとなく天井を眺めた。

 天井が真っ白なのは、掃除が行き届いているというより部屋自体が最近造られたかららしい。穴の空くほどに見つめてわかったことはそれだけだった。

 記憶喪失と告げられたのが昨日、自分がなぜこうなったのかはまだ分からないい。

 考えても答えは出そうにないし、例え答えが出てもその真偽を確かめようがない。

 それでも考えることを止められなかった。

 

 コンコン……

 ふいに誰かが病室のドアをノックする。

「どうぞー」

返事をして、ドアに向けて背を起こすと、パキリと背の骨が軋んだ。

「うむ、失礼する」

 優羅だったか、銀髪の女性が、若い男と少女を連れて、部屋に入って来た。若い男は目が合うと手を挙げ人懐っこく笑うが、少女はずっと俯いている。

「おっす! 元気にやってるか?」

 馴れ馴れしい――というより向こうからすれば、それが当たり前なのだろうが、男はひらひらと手を振る。

「……やっぱ覚えてないかー。先に聞いていたから驚きゃしないけど、案外へこむかも」

 茫然と見ている僕をみて、男は漫画であるようなズーーンといった様子で手を床に着いた。

「んー優羅だっけ? こっちが知り合いなんだろうは分かるけど、その子は? ずっと俯いてるけど、その服装――たぶん昨日の写真の子……?」

 男を無視して、知り合いと思えない程に、相手はあからさまに自分を拒否している少女をちらりと見る。

「……すこしいろいろあってな。だが……確かに写真の子であるし、お前の知り合いなのは違いない」

 彼女は確かに知り合いであるらしい――しかし知り合いというには幼すぎて、記憶を失う前の自分が少し恐ろしい。

 そしてそうこうしてる間に男がゾンビのようにゆらりと立ちあがり――

「無視するなー! ――あーでもその反応やっぱ読人なのかも」

 半泣きで抱きついてきた男の脛を蹴り飛ばす。

「その反応も読人だー!」

 ひるむことなく、むしろより嬉しそうに抱きつくこの男に……より深く記憶を失う前の交友関係に恐れを抱いた。

「浩二、少し落ち着け、今の読人はお前を知らないんだ。読人からすれば、今のお前はかなり……ごほん」

 コージと呼ばれた男は一度黙るが……

「……えーーーッ!! スキャナさん? なんなんすか、そのキャラ? 片言は片言は何処ですか?」

 なぜか男のテンションは最もハイまで急上昇した。

「ああ、今頃か……いっただろう? 今の私は優羅なんだ」

 優羅は優羅でわけのわからない応答をするが、コージはまったく聞いていない。

「俺の癒しはどこですかーーー!!」

 叫びながら手足をじたばたと動かその光景は一言でいえばすごくイラッとしたもので……。

 気付けば、首をおもいっきり手で叩いていた。

「どこなんでッす……」

 ドサッ――

 男が地面に崩れ落ちるが、そのことより、自分がなぜ? その疑問のほうが圧倒的に大きい。

 これ何? そう思って優羅と少女の方を見るが、二人も知らなかったのか、目を丸くしてこっちを見ていた。

 優羅は我に返って深刻な様子で話した。

「……今のは……なんだ?」

「今の……って、これだよな?」

 さっきと同じ動作を空中で見せると、こくこくと優羅がうなづいた。他にもいくつも似たような動作が頭の中にあった。

「こういう動作、他にもできるんだけど……」

「今のようなものをか?」

 真剣な顔で首をかしげる彼女は、このことを知らないらしい。

「もしかして、記憶を無くす前はこんなことできなかった?」

 優羅はこくりと首を動かす。

「――できるできないは知らないが、君は何も言っていなかった。それに君が記憶を失う一週間ほど前に、ある事情で付いていた監視でもそんな情報はなかった」

「そう……」

 考えても何も浮かばない。

「君自身はそのことを何も覚えていないか? 自分の名前は覚えていたのだ、もしかしたら――」

「ぜんぜん覚えていないし、それに他と違う気がするんだよな。昨日からずっと考えてて、いくつか分かったことがあって――」

「うん……?」

 優羅は促すように、こちらに視線を送ってくる。 

「うまく説明できないんだけど……」

 言いあぐねていると――

「説明できないならそれでいい。それなら私よりもきちんとした医者にみてもらったほうがいい」

 優羅は地面に横たわったコージと、そのわきで今も顔を伏せた少女を見て

「遅くなったが、そっちのが浩二でこっちが咲だ、彼らには君に話をしてもらうために連いてきてもらった」

 優羅は座ってコージをゆする。

「別にここで話をしてもいいのだが、万が一ということもある、一応部屋変える。使える部屋は用意しておいたから――ん、起きたな」

「へ? あれ……?」

 コージは寝起きのような顔でふらふらと立ちあがる。 

「よし、じゃあ行くぞ、はぐれないようについてこい」

 優羅はそれだけの説明で歩き始めた。


二週間という目標をちょっとオーバーしてしまい、申し訳ない。つ、次こそはがんばろうと思いつつ、また遅れそうな気も少しする、今日この頃です。

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