第四十一話『オワリのハジマリ』
ゆっくりと目を開く、真っ白な天井が見えた。
一週間経ってもその光景には慣れることはできない、見るたびに自分の居場所が分からなくなる。それはきっと慣れてしまうことが、肯定してしまうことのように思えるから。今ではなく、私はずっと前の過去を否定したい、認めたくない。それが無駄だと、過去は変わらないと分かっていても、過去に自分が入院したという事実を、その過程を消してしまいたいのだ。
気だるい体を起こすと、ちょうど音を立てて病室の戸が開いた。
「ちょうどよかった、今起きたのか
「また来たの? いい加減働かないと不味いんじゃない?」
銀髪の彼女は、不器用に笑って、
「咲、おまえこそ、いつまで寝ているつもりなんだ」と、そう皮肉った。
天真爛漫に笑う彼女はもういない。彼女は再開した私に一番に話した。
そうなった経過は知らない。ただいつか話してくれればうれしいと思う。
どうしてか、今のほうが在るべき形のように思えるから、そこまで聞きたいとも思わない。
「……別に寝たくて寝てるわけじゃないんだけど、本当に働かなくちゃまずいんじゃない?」
内心を隠して平静を装って笑いかける。
「まあな……」
見舞い客用に置いてある椅子を立てて、腰かけながら、彼女はけだるそうに返事を返した。
「私みたいに援助してもらえるわけじゃないんだし、早く『依頼』に出るなり、外で働くなりしないと」
「確かにそうなんだが……どうもな」
そう言うとすこし黙って、目を細めて私を見た。
「それよりも今聞きたいのは、そんなことか」
あっさりと私の図星を彼女は突いて、言葉を続ける。
「もう一週間にもなるんだがな……」
私の返事を待たず、彼女は話し続ける。
「毎日毎日同じようなことを言いおって……」
「何が照れくさいんだか」
そこまで言って、彼女はふっと軽く笑った。
「ま、意地悪はこんなところかな」
その表情にスキャナを見る。やはり彼女は修羅ではなく優羅で、スキャナでもなく優羅なのだ。
「とりあえずは、目は覚ましたようだ。一瞬だけで、まだまだ面会謝絶ではあるようだが」
あきれてるように、彼女は言った。
それでも頭が真っ白になって、うれしくなる、体軽くなる。
「…………」
うまく頭が回らず、すぐに口は動かない。
怪訝そうに優羅は首を傾げる。
感情に体が追い付くと
「……やったあ!!」
私は大きな声で叫んで、優羅を強く抱きしめていた。 優羅は恥ずかしそうに顔を赤くして、私を引っぺがす。
「体に異常はないわけだから、完全に意識が戻るのも、もうすぐらしい」
ただただ平静に言う、それが少しだけの違和感だった
「明日には面会謝絶も外れるらしいし、行ってみるといい」
その後は優羅との他愛のない会話を時間の限り繰り返した。
気づけば、もっぱら一人の少年について話していた。よくよく考えると出会って間もなく、あまり知らないはずの少年。それなのに話すことはたくさんある
なぜかわからないけど、やはり少年のことをはなしている優羅はどこかオカシかった。
「ねえ……」
確かめようとすると、優羅はあまりにわざとらしく時計を見て、遮るように声を上げる。
「あっと、そういえば用事があったんだ」
すっとパイプ椅子から立ち上がり、その椅子を折りたたむ。
「用事?」
「ああ大したことではないだろうが、本部から呼び出しだ」
大したことでなければ、本部から呼び出しは来ない。気づいた時には彼女は部屋を出ていってしまっていた。
「ま、明日にでも聞けばいいか」
彼女が去って、静かになった病室で少年のことを考えた。彼には聞きたいことがたくさんある。
「私の懐中時計が止まったままであること」
「彼の世界で一体何があったのか」
「なぜ彼は『個人』を使えなかったのか」
今は答えはないが、明日になれば明確な答えを得られる。
……そう思っていた。
しかし、そのときすでに、一度できた砂の城は崩れて、その上に立てた城すらも再び崩れていた。
祝!!!
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一応PVは五万弱でした。
よーしがんばるぞーーー!!!