第四話『再会』
通りは入る前と変わらず、ガラガラで、来た道をトボトボと帰る。
途中、あの少女はどこへ行ったのだろう? なんて気になって、軽くあたりを見回す。
まさか……。
「あっ!」
本当に見つける気はなかったのに、少女は脇道から奥へ入って行くように歩いていた。
彼女の顔が見えたのは、ほんの一瞬で、なのに彼女の顔は別れたときとは似ても似つかない。急に何歳も年をとったかのように大人びて見えた。
本当にそれが彼女なのか不安になって、それでも僕は彼女を追いはじめていた。
歩いている彼女に、軽く走っている僕、それに歩幅も断然僕の方が大きい。
遠くに見えても10分もしないうちに彼女に追いついて、その勢いのまま声をかけた。
「おーい、えっと……そこの青い着物の…・・」
「あら……、ナンパかしら?」
振り向きざまに少女はそういって、うふんと声を漏らす。
「……えっと、そうだけど……」
いろいろと言いたいのこらえて、彼女の顔を見る。やはりどんなにしても彼女は泣いていたはずの少女で、やはり真っ青な着物を着ていて、今回はクマのぬいぐるみをしっかりと抱いていた。
不可思議でアンバランスな服装だが、僕が慣れたのか、もともとそうなのか、それは不思議と彼女にしっかりと似合っていた。
「ん……あーそういえば貴方、前にというより、ついさっき会ったわね」
前とは似ても似つかない。きびきびとした口調でわざとらしく言う。
「そうだけど……君はいったい……?」
「いきなりひどいわね? 出会って二回目で女の子に『いったい』なんて……。最近の子はナンパもできないのかしら」
少女はため息をついて手をヒラヒラ。
「だからそうじゃなくて……、そんな意味じゃなくて」
泣きたくなってくる、彼女が僕をおちょくっているのは間違いない。
「冗談……フフ……冗談よ。そこまでにしといてあげる、あれは人探しの演技だし、そこまで引っ張るようなものじゃないし」
そこまで言うと初めて会ったときのように目を潤ませる。
「こんな風に泣いたふりすると下手に出てくれるから楽なのよ。本当はあなたより年上だしね」
すごく不穏な単語が聞こえた気がする。
「えっ??? 年上?」
口に出してみても現実感がない。
「そうよ、私の方が年上よ。だから敬いなさい」
冗談を言っているようにしか思えないのに、彼女のふるまいをみていると、どこかで納得している自分もいる。
「ま、この若さも一端ってことだしね、貴方には分からないかもしれないけど」
彼女の声は幼いが、声は力強くはっきりとしている。
「一体どういう……? それに人探しの演技?」
「ああ気にしないでいいのよ。自分から来てくれたみたいだし」
自分から来た? この状況で? 頭の中を疑問符がくるくると舞うが、答えは一つしかないわけで。
「どうしたの? あら、固まちゃった? ……叩いたら治るかしら」
「もしかして、その探し人って……」
「ああさすがに気づいた? まあもう隠す気もないんだけど……あのあと、すぐについてきてもらおうかとも思ったんだけど、すこし相談する事もあってね。今探そうと思ってたところなのよ。チカラを使えばそんな難しいことでもないしね」
「えっとお? どういうこと? なんかこればっかりだけどさ……」
「へっと、まだ気づいていないの? 普通だともう気づいてないとオカシイレベルなんだけどな。そうだとしたら時期尚早なのかしら、でももう結構立っているはずだし。このままだと……ブツブツ」
そんなことを言いながら彼女は勝手に悩み始めた。
「ええと……じゃあついて来る? ついて来たなら貴方の質問に答えることができるかもしれない。貴方の理解力と持ってるものにもよるとは思うけど。もしかしたら何かの間違いで貴方はただの一般人かもしれないし、どうする? 選択肢は貴方のもの。とりあえず、ついて来たら戻れない。そのことは頭に置いといてよ」
彼女の瞳が怪しく爛と輝く。
僕は悩んで、何も言えない。
「……まだいいわよ。完全には発現してないようだし……。一度家に帰りなさい。でも、もし『こっち』に踏み込む勇気があるなら、いや無謀であるならかしら? まあなんでもいい、とにかくこっちに来る気があるなら、明日に初めて私と会った民家の前に1時に来なさいよ。私が全て教えてあげるから」
彼女は最後、怪しく笑った。
「それじゃ私の話はここまで。うん、さっさと行った、行った。じゃあまた逢えたら逢いましょうか」
彼女はふっと薄れるように姿を消して、僕は何もなかったかのようにでも、心は程遠い様子で家への道を急ぎ、歩き始めた。