第三十九話『結末としての結末』
「君は悪くない……」
ごぽり、少年の口からは血が流れ、衣服をより赤く染めた。足はがくがくと震えて、顔は青く、いつ死んでもおかしくないのに、それでいて少年は、なぜか満足そうに優しい笑みを浮かべていた。
どすん、体をささえることに足が耐えかね、少年はしりもちをついた。これから彼の体力は消耗していくだけで、二度と戻ることはないだろう。立ち上がることも、もうない。
無理に体だけを起こして、先を急ぐように言葉を紡いだ。
「君は僕を殺したんじゃない、殺させられたんだ、気にすることはない。これできっと僕は、読人はきっと……僕を……ゴホッ……取り戻せる」
修羅は立ったままずっと動けない、殺したという事実は、殺さないと誓った彼女にあまりに重かった。
「だけど、忘れてはいけない。手に入れることは失うことでもあると」
少年の目は焦点を失い、ぐるぐると探して回る。
「そして過去を繰り返さないでほしい」
笑みが消え、目に再び力が戻る、少年は修羅の目をしっかと見つめ、言った。
「もし迷いそうなら、チカラの意味を探すといい」
「……ヒントは僕の研究室に置いてある。パスワードは『――――』だ」
修羅は自分でもよくわからないまま、その目に涙を浮かべていた。
呪ったのは自分の弱さだった。願うことで、スキャナという人格を得た。でもそれはどう理解したとしても逃げでしかなかったのだ、だからその弱さが彼を殺した。
彼も同じだった弱さで人を殺し、戻れなくなった、いや戻らなかった。
それだから、彼は自分と同じ道を進む修羅を止めようとする
だから……
それを知ってしまったから……
「違う」
遅くても否定しなくちゃならない、これを譲れば自分は最後の一線を越えてしまう。
修羅の目は今までより強く輝いていた。
「僕は死ぬんじゃない、……ここに溶けるだけ、そうすれば……、きっとこの世界から現実に危険が戻ることはなくなる。だから消えるだけだ、僕は死なない。だから君は誰も殺していないんだよ」
それは彼が言わせたのかもしれないし、彼女がそう思っただけなのかもしれなかった。
「……違う。少年、君を殺したのは、やはり私だ」
修羅にとって彼に恩も義理もない。こうやって助けに来たのも、咲の頼みがあったから、それと少し、目の前で死なれると寝ざめが悪いからである。自分を見失いかけたのは、『彼を』殺してしまったからではなく、『殺してしまった』から。
それでも彼女はもう決めた。もう間違えない、今からは死を背負うと。今までに殺したものを背負い生きると。
「……フッ……あっはっはっは」
少年は笑った、爽快な声で。声と一緒に口と腹から血が噴き出しても、構うことなく話を始める。
「そうか……それなら……背負って……もらいましょうか」
修羅は何を言われるのか口をぎゅっと閉じた。耳はふさがない、何を言われても受けるつもりだった。
「僕と……流を……頼めますか?」
彼は明るい声で言って、それが彼の最後の言葉になった。
後ろ向けにばたんと倒れ、ぴくりとも動かなくなり、そして最後は呆気なく、砂の城が波にさらわれるように、光の粒になって消えた。
大分日があいてしまったことを申し訳なく思います。 ゲームに現を抜かしすぎました。次話こそ早い投稿を目指します。