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第三十六話『昔話/初めの一人』

 物心ついたとき……、僕はもう超越者で、家族は父しかいなかった。それは僕にとって、別に珍しくもなんでもない、当然のことで、なかなか疑問にも思わなかった。


 ただ、もしも

「不幸だったか?」

 そう聞かれたら、自信を持って首を横に振れるだけは幸せだったと思う。


 父も超越者で、働いている間、僕はそこの組織に預けられていた。

 超越者の子供ばかりが集められたところで、僕は超越者としての知識を身につけた。

 日が経つと研究所に預けられるようになり、サンプルとして、いろいろな実験に協力した。

 初めは父を通して協力の要請があった。

 どうやら僕が生まれつきの超越者であることと、僕の持つ『個人』があまりに異質だったかららしい。父は幼い僕に分かるまで説明をして、「嫌なら断ってもいいんだぞ」と言ったが、僕は喜んで、その申し出を受けた。

 その理由は、他の子供と一緒にいるのが嫌だった……というのが強かったと思う。

 といっても、少しマシになった程度で何も変わらなかった。

 時間がくれば、いつものように父が迎えに来て、笑顔で、僕の頭をくしゃくしゃと撫でて、家に帰る、それだけの繰り返し。

 でも、その繰り返しが、僕は好きだった。

 

 そんな繰り返しの中でも、ある日母がいないことを不思議に思う日が来て、僕はそのことを父に尋ねた、そのとき僕は四歳を少し過ぎた頃だった。

 父は困ったように頭を掻いて、

「母さんはなあ……、読人、お前を生んですぐにいなくなってしまった」

 父は「死んだ」とは言わなかった、しかし運悪く、僕は死を理解できる程度には頭が良くて、涙は浮かべて、顔を俯けた。

「もともと体が弱くて……、それに難産で。お前も本当に危なかった。生まれる前から何度も死にかけて、病院の先生は、母さんの体調を考えると産まない方がいい、そう言っていた。でも母さんは、どうしても産みたいって、産まれる前から殺すなんて悲しすぎるって……そう言っていた」

 そのときの父の表情はいつまでも忘れられそうにない、それでも沈んだ表情は一瞬で入れ替わって、

「だから、お前が生きたのはお前の母さんと、お前の力なんだ」

 そう言って、父は誇らしげな顔で、僕の頭をいつものようにくしゃくしゃと撫でた。

「生まれつきお前が超越者なのも、生まれるためのチカラをかき集めるために必死だった証だ。ただ……これだけは約束してほしい、お前のそれはあまりに特別なものだ、だから、できる限り使うな」

 その時はどうして『証』なのか、どうして『使ってはいけない』のか分からずに、首を傾げていた。


 前者の言葉の意味は、超越者の仲間が増える内に分かるようになった。

 どうやら超越者は、何かしらの大きな感情の起伏によって超越者として目覚め、そして、願いを叶えるためのチカラを『個人』として得るらしい。たとえば過去に戻りたいと願った者が、時を操る『個人』を得たこともあるらしい。


 そして僕の『個人』は、僕が望んだ願いは――『未来の可能性』だった。

 僕の未来に伸びる道は、始まってすぐに途切れていた。

 生まれた時点で死にそうだった僕は、生きたいという原初の本能が普通の何倍も強かった、だから生まれてすぐに超越者に目覚め、願いを叶えるチカラを手に入れることができたのだろう。

 そして生まれたその『個人』に名前はなかった。

 それ自体は空っぽで、空っぽだからこその可能性、もし名前を付けたならチカラを失ってしまう。

 何でも作ることのできる空間、それが僕のチカラ。

 無意識のうちにチカラを発動させた僕は、精神エネルギーを生命力を変換する能力を組み上げて、命を繋いだ。だから、このチカラは生きるためにもがいた、その『証』なのだと父は言ったのだ。

 その推測が真実であることは、今も僕がそのチカラを持つことが証明していた。


 ただ、無いが故に全てを持つ。

 その代償に気づいていたのは、『使うな』、そう言った父だけで、僕は気付かなかったのだ。

 ――どうしようもなく馬鹿だったのだ。



 生まれつき超越者だったことが関係しているかどうか、それはいまいち分からないが、僕は頭は良かった、自分で言うほど、天才と呼ばれるほどに。

 託児所から研究所に移された後、様々なデータを取られたが、超越者全体として有益なものはなく、すぐに用済みになった。しかしその後も、研究所には呼ばれ続けた、それは実験動物モルモットとしてではなく、研究者として。

 あくまで非公式ではあるが、父の働く組織、未確認物質からは博士と同等の資格も与えられていて、そのことが僕を助長させた。


 幼稚園に通うようになってからも、研究所通いは続いた、もう僕がいないと何の研究も進まなくなって、どうしようもなかった。やめるとは言えなかった。

 園では幼い自分を演じる、研究所ではどうでもいい研究をする。


 幼稚園ではいつも端っこで適当に時間を潰して過ごしていた。それで納得していたし、回りの子供に合わせるというのもウンザリだった。子供はそんな空気に敏感で、『近寄るな』そんな意思を持っていれば、無理に近づいてくることもなかった。

 研究所の研究は、日に日に増える超越者の、『個人』について分析を行うことだったが、それも僕の『個人』によって分析用のチカラを組めば、大変ではなかった。

 そのまま時は流れていくものだと思っていた。


 しかしどこにも委員長体質の奴はいるもので、そいつはある日、母親に手を引かれてやってきた。

 初めて出会ったのは幼稚園で同級生として、二回目に出会ったのは研究所で研究対象としてだった。

 その日いつものように隅っこでボーとしていると、

「みんなと遊ばないの?」

 後ろから肩をつつかれた。意識して迷惑そうにふりむくと、そこには全く知らない少女の顔があって、別にかけるような言葉もなく、無かったことにしてまた前を向いた。

「こらあ、何か言いなさいよ。黙って前を向くんじゃない」

 少女は多きな動作で腕をぶんぶん振りながら、そう言った。

 僕はいつものように、相手にしなければすぐに飽きてくれる、そう思っていた。

 でもその少女は、水野 流は飽きてくれなかった。

 毎日声を掛けに来て、彼女が納得する反応を僕がするまで離れてくれない。

 また彼女も強大なチカラを持つ超越者であり、研究対象だった。だから研究所でもよく顔を合わせて、そのたびに僕は無視しようとして、彼女に叱られた。 

 そんなことが一か月も続けば、僕も彼女からの干渉を認めざるを得なくなって、気づけば自分から彼女に話すようになっていた。


 友情のような愛情、本当なら幼すぎて分からないはずの感情を、僕たちは普通より優れた頭で正しい意味で理解してた、ただそれが、ときに、不幸だった。

 僕たちはまるで、幼い子供の約束のように、将来を誓った。


 ゆっくりとじゃれあって、X Dayを迎えた。

 僕のチカラは空っぽに能力を組むこと、なんにでもなれるワイルドカード。

 ただしこの『個人』には決定的な盲点がある。

 組んだ能力を崩すことができないこと、組まれた能力は常に精神を喰い続けること。

 精神は常に時とともに回復する、回復量が消費量より多い間は問題無かった。

 なら、回復量を消費量を超えたら?

 その時はそのことに気付かず、父の言った『使うな』という言葉もいつの間にか忘れていた。

 

 ある休日、僕は流と二人で公園をぶらついていた。ふたりは約束を覚えたまま小学生になっていた、一応マセガキなりの彼氏、彼女の関係である。

 とくに何かするわけない、ふたりで歩くと、何となく楽しい。


 ドテンッ! それは流が石に蹴躓いて、転んだ音だった。慌てて手を差し出すと、彼女は手を取って立ち上がり、なぜか僕に向かって目を吊り上げて怒った。

「いったあ! 血が出てるし、ああ、もう」

 どうやら転び切る前に、僕は彼女を止めなくてはいけなかったらしい。

 膝をすりむいて血を流す彼女を見ると、どうしてか、それが自分のせいである気がした。

 『個人』の中で治癒用のプログラムを組む。

 彼女の膝に手を触れる、離したときには手品のように傷は消えていた。

「……それが読人のもつチカラ?」

 流はそう聞いたが、僕はうなずくだけで、自分の『個人』の全体にまでは説明しなかった。


 ――そして怪我を治すために組んだそのチカラが、悲しみのはじまりになった。


 怪我が治ると、流はそのことが余程うれしかったのか、顔を赤くして機嫌よさそうに僕の腕に自分の腕を通して、腕を組んだ。いつもなら照れくさくて嫌なのに、僕はその腕をふりほどかなかった。というより、そのときにはもう冷静に思考できなくなっていた。


 テレビに入るノイズのように、僕の意識は少しずつ塗りつぶされていった。


 そして次に意識が戻ったとき、僕のそばには赤い水たまりに倒れた父と、立ちすくんで震える流の姿があって、僕の中には後悔だけがあった。


 少し早目の投稿です(自分の中ではそう思っているのですが……)。

 今回は回想シーンを書いてみました。

 たぶん大丈夫だと思いますが、矛盾点などがあったら直していきますので、教えてください、自分でも探してみます。

 ちなみに、まだまだ話は続きそうです……というより終着点が見えません、なのでこれからもよろしくです。(そればっかり言っているような気もしますが、お気になさらず)

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