第三十三話『作戦開始』
「……じゃあ、答え合わせを始めましょう」
立ち上がって、後ろに転がる折れた竹刀へと走った。挑むような言葉とは反対に逃げる自分を、場違いにおかしいと思う。どこか頭のネジがおかしくなっている、どうしてこんなに追い詰められてそんなことを思うのか? 私に失敗はできないのに。
気合いを入れなおして横目で見る、やはり読人は不動。もしも彼が守りに使っている『個人』を攻撃に使ってきたなら、きっと作戦は終わる。
しかしこの程度、まだまだギャンブルではない、こんなところで躓いている場合ではない。
私にはやりたいことがあって、過去から救いたい人がいて、今を守りたい人がいる。だから今は行く。
竹刀を拾って、そして振り返る。
彼の先ほどの位置を頭に浮かべ、彼が移動していないていで、手に持った竹刀をそのままの勢いで投げつけた。ヒュンヒュンヒュンと風を大きく切り裂いて竹刀は飛んでゆく、まっすぐに、少年に切りかかるように。
今を守りたい人の、今を殺そうと竹刀を投げつける。
――それが彼には当たらないこと、彼は傷付かないこと、予想は付いている。
それにそれは正しい。竹刀の回転はある地点から急激にぶれた。一文字だった竹刀の軌跡は×を描いて、そしてついには回転を失って、地に落ちる。
残った勢いでカラカラと音を立てて床を滑り、最後に読人の足に触れて、回転を止めた。
確かに彼は傷つかない。
ただその行為をした私の心からは軽く血が垂れた。
傷付かなかった彼は竹刀に見向きもしないで、ただただ虚ろな目で虚空を眺めていた。
「チカラを求める以上、遅かれ早かれ彼はこうなる」
無理やりにそう思う。そう思わなければ現状に耐えられそうになく、私はその現状に耐えなければならないから。耐えられたなら彼を元に戻せて、彼に望んだものが手に入る、そう信じるなら、そうでなければならない。
心から血が出ても、人は死なない、両親の時を止めたときに私はそのことを知った。
死なない……ただ死なない。……だけど壊れてしまう。なら私はとうに壊れてる。
ギャンブルをする。――命を賭ける。だけど、テーブルに乗った私の命に価値はない。
本当は乗せなくてもイイ、でも私は喜んで乗せた。乗ってるのは二枚のチップだけ。
一枚は私、もう一枚は?
「やっぱり外れる……ね。スキャナの二度の攻撃にさっきの竹刀、全部外れるのは……少し出来過ぎてる。偶然で片づけるにしても無理がある……だからもう賭けるしかない、私も貴方も」
今の彼には届かないと分かっていて、宣言する。ギャンブルすることを仕方がないと、自分に言い聞かせていた。
なんせこのギャンブルにおいて、最もリスクを多く持つのは読人。普通の攻撃なら、彼は運よく回避してしまう。だから『個人』に頼らざるをえない、そして今攻撃できる『個人』を使えるのは私だけ。なんせ、修羅の『アクセ・リング』は一度避けられて、今ではスキャナは修羅になることすら出来ない。
だからこそギャンブルになる。私の『個人』には圧倒的に大きな欠陥があるのだから。
「読人行くわよ……、貴方だけは死なせないから。スキャナ、あとは任せる。『時間制御』ッ! 私、半径二メートル、一ミニッツ、タイムアウト!!!」
読人との距離が二メートルを切った地点で叫んだ。
燻っていた『次元』が、感情をガソリンにして、急稼働、その結果生まれるは無色のエネルギー。それは『個人』へと流れて、この世にはないはずの、時を止めるエネルギーに転換、咲の体を橋渡しに四次元から三次元に落ちる。
超越者は、普通生み出したエネルギーを自在に操ることができる。それは元が自分の精神であるという点が大きい、しかしその操作性は超越者ごとに大きく違う。一般にこの世の摂理から大きく離れるほど操作性は悪くなるのだ。手に余る、そういうこと。そして咲の場合それがあまりにも悪かった。本人にも、放出するエネルギー量を細かく調節できず、完全に閉じてしまうこと出来ない。
そして使用すると対象を永遠に停止させてしまう、その危険を孕んでいた。
「サキ……」
意識の途絶えるほんの一瞬、ほんの一瞬前に聞こえた、スキャナの声は悲しく聞こえた、そんな気がした。
視点がコロコロ変わってしまってすいません。最近きちんと一人称を書けているか少し不安です。おかしいところなどあれば、感想にでもご指摘していただけるとうれしいです。では、今回もまたまた微妙なところで終わってしまいました。早く書こうと思いつつやっぱり結構かかってしまいました。
次話こそ早くと思いますが、口だけになりそうな気もするので気長にお待ちください。でも最長でも二週間以内に一回は投稿しようとは思っています。
あとがきなのに今回はただの言い訳になってしまいました。ではまた次話で。