表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/61

第三十話『強さを願うワケ』

「な、なによ、改まちゃって。やっぱり……私と同居なんて嫌かしら?」

「わたしと一緒に住むなんていやなの?」

 咲は悲しそうに俯いて、スキャナは面白くてたまらないといった表情を浮かべて、二人とも僕を見る。勝手な想像で責められてもたまらない。

「いやいや、さっきいったとおりで、言葉に嘘はないよ」

 ぶんぶんと手を振ると、咲は俯いた顔を上げる。

「じゃあ何、それって私に直接関係あること?」

「ないない――と言いたいところだけど、完全には言いきれないかな。本当は人知れず、こそこそとやれれば、かっこいいんだけど、他に当てもないし……もう言ってしまおうか」

「『強く』なりたいんだ」

「……ん、それはどういうことかしら、それだけじゃ、いまいちよくわからない」

 本当は彼女は知っている、僕がどういう意味で強くなりたいと言ったか、しかしあくまで、しらを切るつもりのようだ。それなら、もう面と向かってぶつけるしかないだろう、思いを、決意を。

「もう、誰にも負けたくない」

 咲の顔に棘のような感情が見えた。僕は地雷を踏んでしまった、いや知っていて踏んだ。

 その感情の意味も、これから彼女が言うことも想像がついている、しかしあえて口を出さず、その言葉が彼女の口から直接出るのを待った。

「そう、なら聞かせてもらおうかしら、『強い』って何? 貴方がそう思う理由もわかるわ、わかるけど、それは焦って手に入れることかしら? 決意なく手に入れたチカラなんて脆いわよ、簡単に貴方を裏切るから」

 やっぱりか、想像どおりの言葉。いきなり押し付けられた『彼女のチカラ』が起こした惨劇は、いまだに彼女を縛りつけていた。

 「チカラに溺れるな」とコージに言い、彼女の惨劇も知っている僕にも、その言葉の正当性は理解できる。要するに彼女は思っているのだ、僕が『強く』なりたいのは、金髪に負けた過去を早く否定したい、焦りがあってのことだと。

 焦っているそれは正しい、ただそれは、金髪に負けたことを否定したいがためではない。

「……決意はある」  

 僕が『強さ』を求めるのは、彼女を含めた守りたいものを守るためだ。守るとは負けないこと、だからこそ早く負けない力が必要だった。

「答えもある、『強い』ってのは選ぶ権利のことだろ?」

 言葉を声にして、決意にエンターキーを押す。

「俺は守りたい。そのために……選択肢を捨てないために、『強く』なりたい」

「貴方は何を守るの? 一を守るってのは一を守らないことよ。一を救えば、どこかで一死ぬ。それがこの世界よ、それを分かってる?」

「分からない。ただ守りたいものは決まってる。それを守るためなら、俺はいくらでも殺す、殺して潰す、居場所がなくとも、世界を壊して歪めて、居場所を作ってみせる」

 自分がここまでもあっさりと物騒なことを言えたことに驚いた。本当に自分は少し前までただの受験生だったのか、今では怪しく思う。変わらない過去は怪しく思えるのに、決まっているはずのない決意は本物だと、疑う余地のないものだとはっきりとわかった。

 咲は呆けた顔をしていた。しかし、瞬きの間に、咲は、にっこりと笑っていた。モノクロ写真のような温かい笑顔、それだけは物騒な言葉に向けられたものとは思えなかった。

「貴方らしいといえば、らしいのかしら、まだ出会って間もないけどね。でも、貴方は狙われているかどうかも分からないし、そんなに気張っても仕方ないわよ」

 少し間を開けて、スキャナが沈黙を破る。

「でもさ、けっかてきにどくとが『つよく』なることに、サキはさんせいしたんでしょ?」

 スキャナ自身には意見はないようだ、あくまで咲の意見を追及するように、声からは賛成も反対も分からない。

「そういえばスキャナは協力してくれるのか」

 不安になりつつ、まっすぐに答えを問う。

「わたしはサキさえいいなら、きょうりょくするよ」

「はあ、もう反対はしないわ……。どうやら私の早とちりだったみたい、ごめん、貴方をもっと信用しなきゃね。でも、協力といっても私にできることなんてしれているから、スキャナ、任せられるかしら?」

「ん、まあしかたないよねー。きょうりょくするって、いっちゃったし」 

「なんか勝手に話進んでいるけど、どういうこと? あー、もしかしてスキャナ、前みたいに個人の分析してどうにか『強く』してくれるとか?」

「たぶん、それもするけど、いちおうしておくってぐらいかな。いまんところ、ふつうにたたかいかた、おしえようとおもってる」

「咲、どういうこと、戦い方教えるって?」

「むっなぜちょくせつわたしにきかない?」

 少しだけむっとした様子で頬を膨らませるが、僕は見ていない、決して見ていない。

「んーと、口でいっても信じられないだろうし、どうすればいいかしら。そうね、百聞は一見にしかずって言うし、今日、実際に彼女から教わってみたらどうかしら」

「そうそう、そのほうがいいよ。じゃあドクト、10時にになったら、うごきやすいふくそうにきがえて、ここにしょうごうね」

 提案に何の返事もしていないのに、スキャナは決めつける。

 頼む以上、断るつもりもないが、これからこういう風に振り回されていくのかと、何の気なしに思った。それにスキャナは戦い方を教えると言うが、何をするのか全く分からないままだ。これからどうなるのか、前途多難である。

 そんな不安を余所に、二人は朝食のかたずけを始める。

「貴方の皿も洗っとくから、部屋に戻って準備してくるといいわ。そうそう貴方の部屋は朝寝てた部屋の右ね」

「部屋はわかったけど、洗い物は悪いし俺も手伝うよ。流しに持っていけばいいんだろ?」

「きょうはいいよー、サキとやるし」

 スキャナも咲同様、そう言ってくれる。

「でも悪いし……」

「じゃあ明日から手伝ってよ、とりあえず今日は免除ってことで、今日中に当番とか決めましょう」

「そうか、そこまで言うなら、今日は頼むけど。あ、そういえば動きやすい服装に着替えて集合って言ってたけど、着替え取りに、家に戻ってもいいのか?」

 監禁されているわけでもないのだから、聞かずに取りに行けばいいのに、気付けば彼女たちに許可を求めていた。下っ端根性な自分が嫌になる。

「そんな必要ないわよ、部屋に入れば分かると思うけど、貴方の家の中のものは全部、部屋に持ってきてるから。あ、それと貴方の部屋は私の部屋の隣ね」

 片づけながら、咲は言う。

「あは、悪いとは思ったんだけど、きっと一緒に暮らしてくれると思ってたしね」

 悪びれた様子は全くなかった。

「……」

 ここに来て、そんなハプニングがあるとは、思ってもみなかった。そういえば口に出すことも憚れる本たちはどうなったのだろう。

「荷物はプライバシーもあるし、業者に頼んだから安心してね」

 本たちの生存は確認。しかしこれからひとつ屋根の下、暮らしていく以上、彼らは隠密に始末すべきなのだろうか。

「なんだか色々といたせり尽くせりみたいな……カンジだな」

 上ずった声で呆けた事をつぶやいて、僕はいそいそと部屋を後にした。

 祝三十話!

 と言いつつも一話ごとがあまり長くないので、微妙な感じですが。ここまで読んでくれた方はありがとうございます。これからもよろしくお願いします、まだまだ続く予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ